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いずみホール・オペラ2019《ピグマリオン》|能登原由美

いずみホール・オペラ2019《ピグマリオン》
Izumi Hall Opera 2019 PIGMALION, Acte de ballet

2019年12月14日 いずみホール
2019/12/14 Izumi Hall
Reviewed by 能登原由美(Yumi Notohara)
Photos by 樋川智昭/写真提供:いずみホール

〈キャスト〉        →foreign language
ピグマリオン:クレマン・ドビューヴル
愛の神:鈴木美紀子
セフィーズ:波多野睦美
彫像:佐藤裕希恵

バロック・ダンス:松本更紗
コンテンポラリー・ダンス:酒井はな、中川賢

管弦楽:レ・ボレアード
合唱:コルス・ピグマリオーネス

指揮・ヴァイオリン/プロデユーサー:寺神戸亮
演出:岩田逹宗
振付:小㞍健太

〈曲目〉
リュリ:《アティス》より
    序曲
    〈花の女神のニンフたちのエール〉
    メヌエット
    ガヴォット
コレッリ:《ラ・フォリア》
リュリ:《町人貴族》より
    〈トルコ人の儀式の音楽〉
    〈イタリア人のエール〉
リュリ:《アルミード》より
    第2幕第2場の音楽
    〈パサカーユ〉

〜〜休憩〜〜

ラモー:《ピグマリオン》

 

いずみホールが行ってきたバロック音楽のプロジェクト、「古楽最前線!躍動するバロック」。2年目の今年は、中後期のバロック音楽がテーマ。やはり同ホールの主要イヴェントの一つである「いずみホール・オペラ」シリーズと重ね合わせ、今回はフランスのバロックオペラ界を牽引した2人の作曲家、リュリとラモーの作品が中心となった。

「オペラ」とはいえ、当時のフランスの貴族社会ではダンスの人気が高く、オペラの中でもかなりの比重を占めていた。本公演で注目されたのも、それ。前半は「オペラ・バレの歴史」と題して、ダンスに視点を置いてバロック期のフランスオペラを振り返る。後半は《ピグマリオン》。厳密には「アクト・ド・バレ」というジャンルに分類され、舞踏の要素の非常に大きい演目である。

まずは前半。演出を担当した岩田達宗と、指揮者でヴァイオリニストの寺神戸亮が進行役を務め、出演者とのやり取りを通して当時のオペラ・バレの醍醐味を紹介しながら進めていった。舞曲や歌曲(独唱は波多野睦美)に合わせ、時に演劇的/即興的な要素も取り入れた自由な舞もあるなど飽きの来ない構成。だが、筆者の目を惹きつけたのはやはり、当時の衣裳をまとって踊られたバロックダンス(松本更紗)だ。舞曲のリズムを形成する足の動きとともに、松本いわく、日常の所作にも通じるという手の動きも確かに面白い。

けれども、舞台全体を見渡せる客席後部にいた筆者には、沈んでは浮き上がる、動いては留まるという人物全体の動きがそれ以上に気になった。「沈む―浮く」、「動く―留まる」というそれぞれに含まれる2つの要素はコントラストを形成するわけでもなく、あるいはどちらが主でどちらが従というわけでもない。一つの動きはもう一つの動きを引き出すとともに次の動きのエネルギーへと化していく。吸って吐く、という息の流れのように。それぞれは別個のものではなく、互いに補い合い繋がりながら成り立っているもの、これもバロックダンスの魅力の一つなのではないか。

後半の《ピグマリオン》。彫刻家ピグマリオンが自ら作り上げた彫像に恋をする物語。ギリシャ神話にも登場するが、ラモーが題材にしたのは古代ローマの詩人、オヴィディウスの『変身物語』。ここでは、ピグマリオンの恋心を汲んだ愛の神が彫像を目覚めさせるとともに、様々な踊りを彫像に授け、彫刻家と彫像の恋はめでたく成就するというもの。

岩田によれば、今回は彼自身のほか、寺神戸、そして振付家の小㞍健太の3人による「共同演出」であったとのこと。舞台中央にオーケストラ(レ・ボレアード)を置き、左右に吊り下げられた白布以外はほとんど装飾らしい装飾のないシンプルな舞台だ。さらに、コンテンポラリーダンス(酒井はな、中川賢)も起用し、当時の「再現」というより現代における「創造」的側面を追求する。

その結果、言葉と音楽、踊りという3つの要素の相互の関係性が浮き彫りになった。とりわけ、ピグマリオン(クレマン・ドビューヴル)と彫像(佐藤裕希恵)、そして愛の神(鈴木美紀子)それぞれに対し、歌い手と一対になるかのように3人の踊り手(中川、松本、酒井)が寄り添い愛を表現する場面が圧巻。歌が終わると同時にその心情を代弁するがごとく、踊り手が舞い始めるのである。登場人物たちの語る言葉が歌から踊りへ、そして再び歌へと静かに引き継がれていく。言葉と音楽、踊りが緊密に結びつき、息をするかのように相互に補い合うその流れは、先に見たバロックダンスに通じるように感じられた。

やはり今回の主役はダンスだ。その分、《ピグマリオン》では歌の印象が薄くなってしまったのは否めない。が、そもそもバロックオペラにおいて「オペラ」という先入観のもと、音楽にばかり意識が傾きがちになったり、あるいは音楽とダンスを別々の素材と見てしまったりする向きがなかったか。その点、ダンスと音楽を融合させつつ発展したフランスバロック期のオペラ、その本質を、本公演が見事に示してくれたと言えよう。

(2020/1/15)


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〈cast〉
Clément Devieuvre (Pigmalion)
Mikiko Suzuki (L’Amour)
Mutsumi Hatano (Céphise)
Yukie Sato (La statue)

Sarasa Matsumoto (Baroque Dance)
Hana Sakai & Satoshi Nakagawa (Contemporary Dance)

Les Boréades (Orchestra)
Chorus Pygmaliones (Chorus)

Ryo Terakado (Conductor & Violin, Producer)
Tatsuji Iwata (Stage Director)
Kenta Kojiri (Choreographer)

〈program〉
Jean-Baptiste Lully: Séquence from Atys
         Oberture, Air pour les Nymphes de Flore, Menuet, Gavotte
Arcangelo Corelli : La Folia
Lully : from Le Bourgeois Gentilhomme
   Air Italienne
Lully: from Armide Passacaille
Jean-Philipe Rameau : PIGMALION, Acte de ballet