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HORIZON 鈴木俊哉《リコーダーの「まほろば」を探して》|大河内文恵 

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2016年926日 近江楽堂
Reviewed by 大河内文恵(Fumie Okouchi)
Photos by 林喜代種(Kiyotane Hayashi)

<演奏>
鈴木俊哉(リコーダー)

<曲目>
サルヴァトーレ・シャリーノ:風によって運ばれた、対蹠地からの手紙
増本伎供子:まほろば
川上統:ガンガゼ

~休憩~

ディラン・ラルデリ:韻と大意
小林純生:森から聞こえるのは…
イヴァン・ブッファ:マイム
細川俊夫:線1b

いわゆる古楽器で現代作品を演奏するということは、古楽器の復興がおこなわれ始めた20世紀前半には、比較的頻繁におこなわれていたようだが、20世紀後半にはあまり見かけなくなった。近年少しずつ、さまざまな楽器で現代曲を奏する演奏家が増えてきているのは、嬉しい傾向である。

さて、リコーダーで現代曲をやるのはどんな人なのだろう?という興味だけで客席に座っていた筆者は、『風によって運ばれた、対蹠地からの手紙』が始まった途端、心の中で仰け反った。この曲は元々フルートのために書かれており、リコーダーに編曲したバージョンが演奏されたわけだが、リコーダーを斜めに構えた鈴木から出てくる音は、鋭くつんざくような音と、唄口や窓から吹き込まれるさまざまな風の音、グリッサンド。古楽器としてのリコーダーのもつ平和なイメージを粉々に打ち砕くには充分過ぎるものであった。

増本の『まほろば』は、一転して民族的でいわば牧歌的な響きになる。さまざまな特殊奏法を交えつつも、それは奇を衒うためではなく、響きの選択肢の1つとして自然に取り込まれている。リコーダーのもつ素朴さと民族的な音遣いとの相性が良いのだろう、ほっこりと心地よさに包まれた。

次の『ガンガゼ』の作曲者である川上は、生き物をタイトルにすることで知られており、会場に駆け付けた作曲者自ら、「ガンガゼ」の絵を掲げて演奏前に解説がなされた。この生き物の長く尖ったとげを、鈴木の特徴である鋭いアタック音と重ねあわせたと、作曲者の説明にはあったが、それよりもむしろ、フラッターや重音のインパクトと、最初から最後まで高いテンションが続く曲調のほうが強く印象に残った。

後半は、ラルデリの作品(2014)から始まった。冒頭のシャリーノほどではないが、やはり抽象性の高さが際立つ作品であった。つづく『森から聞こえるのは・・・』は同じ2014年の作品ではあるが、「遠くから密かに聞こえてくる音」を実現するために、唄口だけでなく窓までを口に咥えた形で演奏された。まさに聴いたことのない不思議な音で、聴き進むうちに何かに似ている何だろう?と考え、思い当たったのは水琴窟の音だった。奏者にとっては演奏しにくい作品かもしれないが、機会があったらもう一度聴いてみたい曲である。

『マイム』は譜面台を何台も横に並べて、奏者は曲が進むごとに楽譜の該当箇所に移動しながら演奏する。曲の進みが奏者の立ち位置によって視覚化され、一種のシアターピースのような趣を醸し出していた。

最後の『線Ib』は、細川のフルート作品「線I」のリコーダー版である。曲の発想としては抽象的なのだが、そこから紡ぎだされる音楽は、シャリーノやラルデリとはまったく異なる。旋律のようなものはなく、鋭く短い単音やフラッターが、間を置きながら繋がっていくうちに、抽象と抽象を積み重ねていくと幻のような具象がみえてくるような不思議さがある。

すべて2000年以降の作品で構成された、このコンサート。これだけさまざまな個性の作品をこの完成度で一晩に並べてみせた鈴木の力量には脱帽するばかりである。聴き手がかなり限られた人数であったのがいかにも惜しい。

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