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大村博美 ソプラノ リサイタル|藤堂清

大村博美 ソプラノ リサイタル
Hiromi Omura Soprano Recital

2019年12月4日 トッパンホール
2019/12/4 Toppan Hall
Reviewed by 藤堂 清(Kiyoshi Tohdoh)
Photos by 林喜代種(Kiyotane Hayashi)

〈出演者)        →foreign language
ソプラノ:大村博美
ピアノ:中野正克

〈曲目)
リスト:ペトラルカの3つのソネット
  平和は見つからず
  祝福あれ、あの日に
  私はこの地上で天使の姿を見た
トスティ:あなたが望むなら
デュパルク:フィディレ
R.シュトラウス:《5つの歌》Op.39より第4曲〈解き放たれて〉
———————(休憩)——————
アーン:私の詩(うた)に翼があったなら
グノー:オペラ《ファウスト》より〈宝石の歌〉
プッチーニ:太陽と愛
      そして小鳥は
プッチーニ:オペラ《トスカ》より〈歌に生き、愛に生き〉
ジョルダーノ:オペラ《アンドレア・シェニエ》より〈私の亡くなった母が〉
——————-(アンコール)—————
マスネ:オペラ《マノン》より〈さようなら、私たちの小さなテーブルよ〉
J.S.バッハ/グノー:アヴェ・マリア

 

大村博美は新国立劇場や二期会のオペラ公演にたびたび登場しているが、それと較べるとリサイタルはめずらしい。2006年6月に同じトッパンホールでダヴィッド・アブラモヴィッツというピアニストと行っているが、このときはホール主催ではなかった。
今回は、イタリアの指揮者アルベルト・ヴェロネージがピアノを弾く予定であったが、急病のため数日前に中野正克に変更となった。中野はフランス在住のピアニストで以前に大村とリサイタルを行っているとのこと。
プログラムは、オペラのアリア3曲と歌曲という構成。R.シュトラウスの〈解き放たれて〉のみドイツ語で、その他はイタリア語とフランス語の歌ということで、彼女の得意なもので組まれている。

〈ペトラルカの3つのソネット〉は演奏時間20分ほどの大曲。急き立てるようなピアノに続き、ゆったりとしたテンポで歌が入ってくる。その声が大きいことにおどろく、これではダイナミクスの幅がとれないのではないだろうかと。ソットヴォーチェという指定のところでも、かなり厚みのある声で歌ってしまう。その結果クレッシェンドが明確でなくなる困るのは、歌詞や旋律と関わりなく高音を出すときは常に強めの声となること。細かな表情はなくなり、声の力で押し切る歌になることオペラを歌うのであれば許容されるかもしれないが、歌曲演奏としては疑問が残る。
前半の中では、トスティとデュパルクのフランス語の詩による歌曲は力みが抜け、自然に聴ける。だがここでも、トッパンホールのように小規模の会場であるのに、大きな声で空間を埋めようとしているように感じられた。

後半のオペラ・アリアは大村の本領発揮というところ。スケールの大きな歌で圧倒した。
《ファウスト》の〈宝石の歌〉での次第に気持ちが昂っていくところの表情付け、声の厚みもあり圧巻。ただ、高音での細かい動きには少し難があった。
《トスカ》の〈歌に生き、愛に生き〉は冒頭を弱声で歌い出す人が多いが、大村は最初から全力投球。オペラのアリアであれば、これも有りかと。
《アンドレア・シェニエ》の〈私の亡くなった母が〉も、中音域の安定が歌の骨格をしっかりとしたものとしていた。

アンコールで歌った《マノン》の〈さようなら、私たちの小さなテーブルよ〉は、プログラムを歌い終えたという安心感があったのか、またフランス語ということもあったのか、力みのない響きで、弱声も見事であった。

全体として、大村はオペラの舞台の方が活きるという印象ではあるが、会場に合わせた声の使い方ができれば、リサイタルのプログラムの幅を拡げることが可能となるだろう。
東京での次の舞台は2月の二期会の《椿姫》が予定されている。

ピアノの中野正克は大村の歌にピタリと合わせる手慣れた印象。急な移動で時差ボケがひどいと言いながら、むずかしい部分も意識させることなく弾ききった。合わせる時間も少なかっただろうに、これぞプロという姿をみせてくれた。

(2020/1/15)

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<Performers>
Soprano: Hiromi Omura
Piano: Masakatsu Nakano

<Programme>
Liszt: 3 Sonetti del Petrarca
  Pace non trovo
  Benedetto sia ‘l giorno
  I’ vidi in terra angelici custumi
Tosti: Si tu le voulais
Duparc: Phidylé
R.Strauss:“5 Lieder”Op.39 Nr.4‘Befreit’
—————Intermission—————-
Hahn: Si mes vers avaient des ailes
Gounod:‘Air des bijoux’de“Faust”
Puccini: Sole e amore
Puccini: E l’uccellino
Puccini:‘Vissi d’arte, vissi d’amore’de“Tosca”
Giordano:‘La mamma morta’di“Andrea Chénier”
——————-Encore——————
Massenet:‘Adieu, notre petite table’de“Manon”
J.S.Bach(Gounod): Ave Maria