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プラチナ・シリーズ第5回 フランチェスコ・メーリ|藤堂清

プラチナ・シリーズ第5回 フランチェスコ・メーリ ~世界を魅了するテノール~
Platinum Series Vol.5 Francesco MELI—The tenor captivating the world

2021年2月13日 東京文化会館小ホール
Reviewed by 藤堂 清 (Kiyoshi Tohdoh)
Photos by 飯田耕治/写真提供:東京文化会館

<出演者>        →foreign language
テノール:フランチェスコ・メーリ
ピアノ:浅野菜生子■)

<曲目>
ロッシーニ:《音楽の夜会》より<約束>
ドニゼッティ:ああ、思い出しておくれ、美しいイレーネ
ベッリーニ:お行き、幸せなバラよ
ルイージ・マイオ:アルケミケランジョレスカ【世界初演】
~ミケランジェロの 火、風、地、水の詩によせて~
肉は地となり(詩篇197、215、110)
私は水となり(詩篇231)
どれほどの木や風が(詩篇57)
火はすべての害となるだろう(詩篇122)
トスティ:最後の歌/理想の人/君なんかもう愛していない/魅惑/夢
——————-(休憩)——————–
マスネ:メロディ Op.10-5[ピアノ独奏]※追加曲
マスネ:オペラ《マノン》より<目を閉じれば>(夢の歌)
ヴェルディ:オペラ《ルイザ・ミラー》より
<ああ!自分の目を信じずにいられたら~穏やかな夜には>
ジョルダーノ:オペラ《フェドーラ》より<愛さずにはいられぬこの想い>
プッチーニ:オペラ《トスカ》より<星は光りぬ>
—————-(アンコール)—————–
デ・クルティス:忘れな草
トスティ:暁は光から闇をへだて
ドニゼッティ:オペラ《愛の妙薬》より<人知れぬ涙>
レオンカヴァッロ:マッティナータ (朝の歌)
トスティ:かわいい口元[ピアノ・弾き語り]
レハール:喜歌劇《ほほえみの国》より<君はわが心のすべて>[イタリア語歌唱]
カルディッロ:カタリ・カタリ(つれない心)
ディ・カプア:オー・ソレ・ミオ
プッチーニ:オペラ《トスカ》より<妙なる調和>
ヴェルディ:オペラ《椿姫》より<燃える心を>

 

久しぶりに聞くイタリアの声、会場を埋める明るい響きと個々の歌の完成度に圧倒された。

プログラム前半は歌曲。
ベルカントもの3曲からスタート。ルイージ・マイオの《アルケミケランジョレスカ》の世界初演。そしてトスティの歌曲という構成。
出だしは、ロッシーニ、ドニゼッティ、ベッリーニを各1曲。なめらかな歌い口がやわらかに聴き手のからだをつつむ。のど慣らしの意味もあるのだろう、力みのない声が心地よい。20代前半はロッシーニ歌いとして細かな音の動きを紡ぎだしていたメーリ。40歳となったいまでは、ラダメス、カヴァラドッシのようなリリコからリリコ・スピントをレパートリーの中心としてきている。それにも関わらず、響きの均質さ、アジリタの技術の確かさは保たれている。
2曲目の作曲家ルイージ・マイオはメーリと同じジェノヴァ出身、役者、作曲家、歌手、演出家としてマルチな活動をしている、メーリの友人だという。「~ミケランジェロの 火、風、地、水の詩によせて~」と副題のついた4曲からなる曲集、この形では今回が世界初演(第4曲のみ2017年に初演)。2018年、前回のリサイタルではブリテンの《ミケランジェロの7つのソネット》から3曲を取り上げており、ミケランジェロへの思い入れがあるのだろう。愛を歌う歌詞を素直に曲にしたように思えた。
前半の最後はトスティの歌曲が5曲。どれもおなじみの曲だが、カッチリとしたフォルムを保ちながらも、熱い演奏。厚みを増した今の声だから歌える強さと甘さ、確立された様式感、それが絶妙にバランスがとれている。言葉がしっかりと伝わってくるのもうれしい。

後半はオペラ・アリアを4曲。ピアノ独奏曲に続き歌われたマスネ以外はイタリア語の作品。ヴェルディ、ジョルダーノ、プッチーニと、それぞれの作品に、そして場面にふさわしい感情のこもった歌唱。
《ルイザ・ミラー》からロドルフォのシェーナとアリア、裏切られた怒りと激情、たのしかった過去を想う嘆き、細かく表現しながらも声自体の美しさは常に保たれている。《フェドーラ》より<愛さずにはいられぬこの想い>の短いながら、起伏の多い歌。そして<星は光りぬ>は実演で歌ったばかりということもあるだろう、舞台を彷彿とさせる。

聴衆の熱狂に応えてのアンコール10曲は予告なしの第3部の様相。
ピアニストを休ませて弾き語り、《ほほえみの国》より<君はわが心のすべて>のイタリア語版、といった滅多にお目にかかれない場面も登場。《トスカ》からもう一つ<妙なる調和>、《椿姫》より<燃える心を>までとびだす。
どの曲も歌い崩すことがない。そのスタイリッシュさが魅力なのだが、それでも熱い熱い歌。

この会場の盛り上がりはいつ以来だろうか?ブラヴォー禁止ということで、声は出さないが、客席のあちこちで「ブラヴォー」や「ブラヴィッシモ」と書かれた扇子や紙が掲げられた。最後の方では全員スタンディング・オベーション。
世界のトップ歌手の力量を存分に味あわせてもらった。

メーリは、昨年スカラ座で《アイーダ》に出演中に新型コロナ感染が判明、療養・回復後にスカラ座の舞台で歌っている。毎年12月7日と決まっているミラノ・スカラ座のシーズン・オープニング、2020年は新型コロナの感染拡大が続き無観客で行われた。全世界に向けたストリーミングはより多くの人々に聴かれたし、それはそれで素晴らしいことだが、聴衆が生の音を求めるのと同様、演奏者も聴き手とその反応を必要としていると感じた。
この日会場の650席を埋めた聴き手の拍手とスタンディング・オベーション、それを受けヒートアップしていく歌手とピアニスト。これこそ、劇場という空間をともにすることによってしか起こりえないかけがえのない体験であり、失ってはならないものであろう。

  • 当初予定のピアニスト、ダヴィデ・カヴァッリは来日不可能、このため浅野菜生子に変更。彼女の長年の経験が活きた素晴らしい演奏。

(2021/3/15)

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<Performers>
Tenor: Francesco MELI
Piano: ASANO Naoko

<Program>
ROSSINI:“La promessa”from Les Soirées Musicales
DONIZETTI: Ah! Rammenta, o bella Irene
BELLINI: Vanne o rosa fortunata
Luigi MAIO: Alchemichelangiolesca (world premiere)
 —Rime di Fuoco, Vento, Terra e Acqua
  “La carne terra” (Rime 197, 215, 110)
  “In acqua son conversi” (Rime 231)
  “Quante più legne o vento” (Rime 57)
  “Se ‘l foco al tutto nuoce” (Rime 122)
TOSTI: L’ultima canzone / Ideale / Non t’amo più / Malìa / Sogno
————–(Intermission)————-
MASSENET: Melodie, Op.10, No.5 [Piano solo]
MASSENET:“En fermant les yeux (Le Rêve)” from Manon
VERDI:“Ah fede negar potessi…Quando le sere al placido” from Luisa Miller
GIORDANO:“Amor ti vieta” from Fedora
PUCCINI:“E lucevan le stelle” from Tosca
—————–(Encore)—————-
DE CURTIS: Non ti scordar di me
TOSTI: L’alba separa dalla luce l’ombra
DONIZETTI: “Una furtiva lagrima” from L’elisir d’amore
LEONCAVALLO: Mattinata
TOSTI: A vucchella
LEHÁR: “Dein ist mein ganzes Herz” from Das Land des Lächelns
CARDILLO: Catarì, Catarì (Core ‘ngrato)
DI CAPUA: O sole mio
PUCCINI: “Recondita armonia” from Tosca
VERDI:“De’ miei bollenti spiriti” from La Traviata