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クリストフ・ルセ&パリの仲間たち《マラン・マレの肖像》|藤堂清

クリストフ・ルセ&パリの仲間たち《マラン・マレの肖像》
Christophe Rousset and Friends

《ヴェルサイユ宮殿の輝き、太陽王ルイ14世の豪奢!》

2019年10月16日 ヤマハホール
2019/10/16 YAMAHA Hall
Reviewed by 藤堂 清(Kiyoshi Tohdoh)
Photos by 林喜代種(Kiyotane Hayashi)

<演奏>
クリストフ・ルセ(クラヴサン)
酒井淳(ヴィオール)
マリオン・マルティノ(ヴィオール)

<曲目>
マラン・マレ:<組曲二長調>《ヴィオール曲集第1巻(1686/89)》より
  28. プレリュード
  32.33. アルマンドとドゥーブル
  34. クーラント
  37. サラバンド
  40. ジグ
  42. ロンド
  47. シャコンヌ

フォルクレ:<組曲第1番 ニ短調>《クラヴサン曲に直されたヴィオール曲集(1747)》より
  アルマンド、ラボルド
  フォルクレ
  コタン
  ベルモン
  ポルテュゲーズ
———————(休憩)——————–
マラン・マレ:<二つのヴィオールのための組曲 二短調>《ヴィオール曲集第1巻(1686/89)》より
  66. プレリュード
  67. アルマンド
  68. クーラント
  69. サラバンド
  70. ジグ
  71. ガヴォット
  72. メヌエット

マラン・マレ:<83.メリトン氏のトンボー>
マラン・マレ:<82.二つのヴィオールのためのシャコンヌ ト長調>
——————(アンコール)—————–
マラン・マレ:<二つのヴィオールのための組曲>《ヴィオール曲集第1巻(1686/89)》より
  76. サラバンド ト長調
  77. ジグ ト長調

 

クリストフ・ルセが7年ぶりに来日し、二人のヴィオール奏者とともにコンサートを行った。《マラン・マレの肖像》というタイトルのとおり彼の作品が中心で、1686年に出版された《ヴィオール曲集第1巻(1686/89)》より選ばれた曲が二台のヴィオールとクラヴサンで演奏された。
そのほか、マレとほぼ同時期に太陽王ルイ14世の宮廷でヴィオール奏者として活動していたアントワーヌ・フォルクレのヴィオール曲集をその息子のジャン=バティスト・フォルクレが編曲した《クラヴサン曲に直されたヴィオール曲集(1747)》からの数曲をルセが独奏した。
マレは、1686年に一台ないし二台のヴィオールのパートを出版したのち、1689年に通奏低音のパートを追加出版し、その際新たな曲(楽曲番号73以降)を追加した。フォルクレの曲集は、アントワーヌの死後の1747年にジャン=バティストがオリジナルに通奏低音を加えて編纂、同時にクラヴサン独奏用の楽譜も出版した。

当日配布されたプログラムに白沢達生氏が充実した論考を書かれている。上記のような作品出版の経緯、これらの作品が書かれた300~350年前のフランスの音楽を巡る状況、聴き手はどのような人々か、演奏された場所はどのようなところかといった話題や、ヴォオールの曲に通奏低音が付け加えられていく理由、クラヴサンの位置づけの変化など、この時代のフランスの宮廷音楽について大変読み応えのあるものとなっている。広く読まれるような形となればよいと思う。

ヴィオールの酒井淳とマリオン・マルティノの2人は、クリストフ・ルセが創設した古楽演奏団体レ・タラン・リリークに参加し演奏。酒井はフランスでソロ活動を盛んに行うほか、指揮者としても実績を重ねている。
前半のマレの作品はもともとは1つのヴィオールのために書かれたもの。20曲で構成された組曲のうち8曲が選ばれた。酒井が演奏を引っ張るかたち、ルセのクラヴサンは通奏低音としての立場を守りながらも、テンポ、リズムをコントロール、マルティノのヴィオールは低音弦中心に定型的な動き。
フォルクレでのルセはがっちりと骨格を固めた上で、自在に音楽に揺さぶりをかける。この日彼が弾いたのはフレンチ・モデルのクラヴサンで、華やかな音色が特徴。彼の手にかかると、ピアノからフォルテまでの幅が広く、色彩感も多様、随所で楽譜にはない装飾をくわえたり、表情を付加していたように思う。元の音楽がヴィオールのためのものということは感じることなく、クラヴサンのために書き直された曲に、ルセの即興性が加わり、より魅力的なものとなった。

後半は、2つのヴィオールのために書かれた作品が演奏される。こちらでは、マルティノのパートも酒井と絡み、ヴィオールどうしの動きもさかんに。ルセはここでも下支えにまわることが多いが、ときどき自己主張し割り込んでくる。そういったときの酒井のレスポンスは、さっと身を引きクラヴサンを目立つようにさせたり、逆にクラヴサンと内部バトルをするようかのように音量を上げて弾き出すこともあった。マルティノのパートもこちらの組曲では酒井と交互に弾いていくところがあり、ようやく実力をみることができた。
<メリトン氏のトンボー>での悲しみに満ちた表情は、3人の想いが一つになったことの証だろう。

ヴィオールやクラヴサンといった楽器のはやりすたり、時代とともに変化してきた音楽家の地位といったことに思いを致しながらも、それらを現代の音楽シーンに活かす「ルセとパリの仲間たち」の活動に感謝。

(2019/11/15)

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<Performer>
Christophe Rousset (clavecin)
Atsushi Sakai (viole)
Marion Martineau (viole)

<Program>
Marin Marais : From « Pièces à une et à deux violes, Livre I »(1686)  with « parite de basse continue chiffrée »(1689)
 Suite No.2 in D major (20 pieces for bass viol and continuo):
  28. Prelude
  32.33. Allemande et son Double
  34. Courante
  37. Sarabande
  40. Gigue
  42. Rondeau
  47. Chaconne

Forqueray: Pièces de viole mises en pièces de clavecin 1ère Suite(1747)
  Allemande. La Laborde
  La Forqueray
  La Cottin
  La Bellmont
  La Portugaise
—————(Intermission)————–
Marin Marais : From « Pièces à une et à deux violes, Livre I »(1686)  with « parite de basse continue chiffrée »(1689)
 18 Pieces for 2 viols and continuo
  66. Prelude (D minor)
  67. Allemande (D minor)
  68. Courante (D minor)
  69. Sarabande (D minor)
  70. Gigue (D minor)
  71. Gavotte (D minor)
  72. Minuet (D minor)

Marin Marais : 83. Tombeau de Mr Méliton (G minor)
Marin Marais : 82. Chaconne pour deux violes et basse continue (G major)
——————(Encore)—————–
Marin Marais : From « Pièces à une et à deux violes, Livre I »(1686)  with « parite de basse continue chiffrée »(1689)
 18 Pieces for 2 viols and continuo
  76. Sarabande (G major)
  77. Gigue (G major)