Menu

@調布国際音楽祭2020|能登原由美

@調布国際音楽祭2020
Chohu International Music Festival 2020

2020年6月14日〜21日 オンライン開催
2020/6/14-21 Live Streaming
Reviewed by 能登原由美(Yumi Notohara)
Photos:調布国際音楽祭の動画より執筆者が撮影

 

今年8回目を迎えた調布国際音楽祭。2013年に始まり、毎年初夏の時期に調布市内を舞台に開催されてきた。だが、今年は新型コロナ・ウィルス感染症拡大防止のため5月4日に開催中止を発表。同時に、オンラインでの開催も予告された(主催者公式ツィッターによる)。そればかりか、ほどなくして開催に向けたクラウドファンディングを開始。世界を揺るがす災禍の中、深刻な危機に直面している音楽界には暗いムードが漂いがちだが、その前向きな姿勢に勇気が与えられる思いがしたものだ。

だがそればかりではない。終わってみると、予想以上の実りをもたらしたことに誰もが気づいたのではないだろうか。というのも、オンライン、クラウドファンディングはともに、クラシック音楽界ではこれまでほとんど見向きもされなかったものだ。それが単に急場をしのぐ代替処置としてだけではなく、新たな時代における音楽の可能性を照らし出すものとなったのだから。

そもそも、これまでこの音楽祭の存在は知りながらも、関西に住んでいる私にとっては「よそのムラの出来事」と言った印象があったというのが正直なところだ。が、オンラインでの開催となって、にわかに親近感を帯びてきた。やはり、どんな形であってもその場にアクセスできるかどうかが大きな問題である。それがリアルタイムであれば、同じ時間を共有する喜び、そこに参加しているという所属意識のようなものも芽生えてくる。それは必ずしも「ライブ配信」だけではない。今回も一部がそうであったように、たとえあらかじめ録画・編集された「ビデオ配信」であったとしても、その公開の瞬間をともに味わえることが鍵となるように思う。

「@調布国際音楽祭」と正式名称も決まり、当初の予定と同じ、6月14日から21日までの8日間にわたる開催となった。初日は2回、その後は毎日3回ずつイベントが行われ、計23のプログラムが行われた。午前10時から子供向けの番組を、午後3時には30分程度の気軽に楽しめる音楽会を、そして夜8時から本格的なコンサートを、といったルーティンがあったのも良かったかもしれない。これにより、個別の公演のみならず、音楽祭全体を味わう気分も生み出された(音楽祭のプログラムについては下記参照)。

5月25日から6月12日にかけて行われたクラウドファンディングも成功したようだ。同音楽祭のエグゼクティブ・ディレクターの鈴木優人のツィッターによれば、計630人の支援者から750万円余りの支援が集まったという。さらに、音楽祭が始まると同時に第2弾のファンディングが始まる。音楽祭の進行と同時に寄付を募ることで、反響もうかがえるというわけだ。こちらは目標金額の倍以上を集め、2週間後に終了している。

このように、話題となる仕掛けがいくつも施されていたことも重要だが、最終的に音楽祭を成功へと導いたのは、やはり音楽的な水準の高さであろう。バッハ・コレギウム・ジャパンを中心に、世界の第一線で活躍する奏者たちが集う。もちろん、来日は難しいため、海外在住者はそれぞれの自宅から演奏の様子を届けた。生誕250年を迎えたベートーヴェンが全体の核になっており、大抵のプログラムにはそれに因んだ演目が取り入れられていた。なかには、《自動オルガンのためのアダージョ》(演奏:鈴木雅明)や、アルカン編曲による《ピアノ協奏曲第3番》(演奏:森下唯)など、珍しい演目もあった。

また、オランダの自宅から演奏を届けた佐藤俊介は、ベートーヴェン時代のヴァイオリンとピアノ・フォルテを使用。調布の会場で全体の進行役も務めた鈴木優人とネットを介した対話も行われたが、その際この珍しい楽器の説明などもあった。奏者の自宅ばかりか、その使用する歴史的楽器まで見ることができる。通常のコンサートならありえないことだ。あるいは、ホルンの歴史を紹介するべく野外撮影を行ったものさえも(演奏:福川伸陽)。オンラインならではの楽しみ方を見せたのも、人々を惹きつけた理由であろう。

注目はやはり、音楽祭のトリを飾った「第9」終楽章のリモート合奏。100名余もの奏者や歌手たちが自宅などで自撮りした演奏動画が、一つの合奏へと編集され、配信された。実は公開を目前にして、編集作業に時間がかかり予定時刻を過ぎても始まらないというトラブルが発生。冒頭から登場していた鈴木、森下、鈴木雅明の3人が、鼎談をしながら穴を埋めつつ公開を待ち続けた。その中で、鈴木雅明は「コンサートを取り巻く全てのことが、演奏やその享受に繋がっている」といった趣旨のことを述べていたが、まさにこの演奏の配信を「待つ」時間もそうなのだろう。オンラインによる音楽祭、そして100人を超えた奏者によるリモート合奏の「第9」だからこそ遭遇した時間。場所は違えど画面の前でこれから始まる音楽の行方を見守り続ける人々が、この瞬間、この時間を共有している。そして、40分余り後についに出会えた「歓喜の歌」。その喜びの歌声を聴きながら、この音楽を作り上げるまでの過程までもが胸に迫り、ジンときた。

それにしても、音楽で繋がる、音楽に繋がるとはどういうことなのだろうか。同じ場所、同じ空気を吸いながら作り上げるのが音楽の醍醐味であることは言うまでもないが、だからと言って、ウィルスによる分断が音楽を完全に否定したわけではないことはこの音楽祭を見ても明らかだ。我々はいま、音楽とは何かという根本的な問いを改めて考える必要に迫られているのではないだろうか。

(2020/7/15)

【@調布国際音楽祭2020プログラム】
(注)動画は再公開に向けて準備中とのこと。
1. 14日15時〜
オープニングコンサート
ベートーヴェン:エリーゼのために
J.S.バッハ:ゴルトベルク変奏曲より「アリア」

ピアノ:森下 唯(調布国際音楽祭アソシエイト・プロデューサー)
チェンバロ:鈴木優人(調布国際音楽祭エグゼクティブ・プロデューサー)

2. 14日20時〜
鈴木優人オンラインチェンバロリサイタル
J.S.バッハ:半音階的幻想曲とフーガ BWV 903
J.S.バッハ:平均律クラヴィーア曲集 第1巻より第5番 ニ長調 BWV 850
J.S.バッハ:平均律クラヴィーア曲集 第2巻より第12番 ヘ短調 BWV 881
ベートーヴェン:マンドリンとチェンバロのためのソナチネ ハ短調 WoO 43a*
ベートーヴェン:マンドリンとチェンバロのためのアダージョ 変ホ長調 WoO 43b*
ベートーヴェン:マンドリンとチェンバロのためのソナチネ ハ長調 WoO 44a*
F.クープラン:神秘的なバリケード
ラモー:優雅なインドの国々より野蛮人の踊り

ギター:大萩康司*
チェンバロ:鈴木優人

3. 15日10時〜
栗コーダーカルテット 親子で楽しむショートショートプログラム
静かに静かに!
小鳥が自己紹介します!
マヨネーズ第二番
小組曲「ピタゴラスイッチ」
うれしい知らせ

栗コーダーカルテット
栗原正己:リコーダー、ピアニカ
川口義之:リコーダー、サックス
関島岳郎:リコーダー、テューバ
+タバティ:リコーダー、ギター

4. 15日15時〜
西原稔が語る『ベートーヴェンとその時代』
お話:西原稔(桐朋学園大学大学院教授)
聞き手:鈴木優人

5. 15日20時〜
鈴木雅明オンラインオルガンリサイタル
J.S.バッハ:トッカータとフーガ ニ短調 BWV 565
ベートーヴェン:自動オルガンのためのアダージョ
リンク:コンチェルト ヘ長調
J.S.バッハ:いと尊きイエスよ、われらはここに集いて BWV 730
J.S.バッハ:ファンタジー ト長調 BWV 572

オルガン:鈴木雅明(片倉キリストの教会にて演奏)

6. 16日10時〜
鈴木優人のピアノでうたおう
「ぞうさん」
「ふるさと」
「早口ことばのうた」

うた:中山美紀
ピアノ:鈴木優人

7. 16日15時〜
フェスティバル・オーケストラ・セレクション
チャイコフスキー:弦楽セレナーデ ハ長調 Op. 48(2016年公演より)

指揮:鈴木雅明
オーケストラ:調布国際音楽祭フェスティバル・オーケストラ
案内:鈴木優人

8. 16日20時〜
カルテット・アマービレ plays ベートーヴェン
ベートーヴェン:弦楽四重奏曲op.132 全楽章
カルテット・アマービレ
篠原悠那、北田千尋(ヴァイオリン) 中 恵菜(ヴィオラ) 笹沼 樹(チェロ)

9. 17日10時〜
木版画家 沙羅と楽しむ段ボール版画づくり

10. 17日15時〜
福川伸陽オンラインホルン・リサイタル
ウェーバー:魔弾の射手 序曲より
ロッシーニ:狩のランデブー
J. S. バッハ:ブランデンブルク協奏曲第1番より
ベートーヴェン:ホルン・ソナタ作品17より 第1楽章
チャイコフスキー:交響曲第5番 第2楽章より

ホルン:福川伸陽
ピアノ:鈴木優人

11.17日20時〜
佐藤俊介&スーアン・チャイ オンラインリサイタル
フェルディナント・リース:ヴァイオリン・ソナタ ト短調 Op. 38 No. 3
ベートーヴェン:ヴァイオリンソナタ第5番 ヘ長調 Op. 24

ヴァイオリン:佐藤俊介
フォルテピアノ:スーアン・チャイ
(オランダの自宅から)

12.18日10時〜
鈴木雅明のBach for Kids
J.S.バッハ:《アルマンド》(フランス組曲第5番ト長調より)
《プレリュード》ハ長調 (平均律クラヴィーア曲集第1巻第1番)
《初めてのアプリ》ハ長調(フリーデマン・バッハの音楽帖より)
《メヌエット》ト長調/ト短調 (アンナ・マグダレーナの音楽帖より)
《ガヴォット I・II》 ニ長調 (無伴奏チェロ組曲第6番より(G. レオンハルトによるチェンバロ編曲版))
《ジグ ニ長調》(無伴奏チェロ組曲第6番より(G. レオンハルトによるチェンバロ編曲))

チェンバロ:鈴木雅明

13.18日15時〜
フェスティバル・オーケストラ・セレクション
フェスティバル・オーケストラ講師陣及びシンガポール大学ヨン・シウ・トゥ音楽院学生によるメッセージと演奏

ホルン:今井 仁志
トランペット:斎藤 秀範
ヴァイオリン:白井 圭
ヴァイオリン:瀧村 依里
シンガポール大学ヨン・シウ・トゥ音楽院の学生たち

14.18日20時〜
加耒徹オンライン・バリトンリサイタル
ベートーヴェン:遙かなる恋人に寄す Op. 98
シューマン:詩人の恋 Op. 48
バリトン:加耒 徹
ピアノ:松岡あさひ

15.19日10時〜
ねんドル岡田ひとみのオンラインねんど教室

16.19日15時〜
フェスティバル・オーケストラ・セレクション
フェスティバル・オーケストラ講師陣及びシンガポール大学ヨン・シウ・トゥ音楽院学生によるメッセージと演奏

オーボエ:荒木 奏美
フルート:上野 星矢
コントラバス:西山 真二
シンガポール大学ヨン・シウ・トゥ音楽院学生

17.19日20時〜
鈴木秀美オンラインリサイタル
J. S. バッハ:無伴奏チェロ組曲第1番
ヨーゼフ・クレマン・ダラバコ:カプリッチォより
J. S. バッハ:無伴奏チェロ組曲第4番より サラバンド

チェロ:鈴木秀美

18.20日10時〜
たたいてあそぼう
ハチャトゥリアン:剣の舞
同上:山の音楽家
出演:桐朋学園大学打楽器科、伊藤綾香、江刺家仁実、荻野詩織、鈴木理伽、高野景、西尾香音、三森友美

19.20日15時〜
木嶋真優&鈴木優人 オンラインライブ
エルガー:愛の挨拶
シューマン:幻想小品集 op.73 より 最終楽章

ヴァイオリン:木嶋真優
ピアノ:鈴木優人

20.20日20時〜
マルティン・シュタットフェルト オンラインピアノリサイタル
ベートーヴェン:交響曲第6番「田園」第2楽章より
ベートーヴェン: ピアノ・ソナタ第23番 ヘ短調 Op. 57「熱情」
ヘンデル: 私を泣かせてください~「リナルド」より(シュタットフェルト編)

ピアノ:マルティン・シュタットフェルト(ドイツの自宅から)

21.21日10時〜
加羽沢美濃のピアノでうたおう
「となりのトトロ」より「さんぽ」
「くまの子ウーフ」より ほか

ピアノ・お話:加羽沢美濃
うた:清水 梢

22.21日15時〜
森下唯プレイズ・ベートーヴェン

ベートーヴェン=アルカン: ピアノ協奏曲第3番第1楽章(カデンツァ付き)

ピアノ:森下 唯

23.21日20時〜
世界初!オリジナル楽器で奏でる音楽家100人が参加したオンライン合奏

J. S. バッハ:ゴルトベルク変奏曲 BWV 988 より 第30変奏とアリア

チェンバロ生演奏:鈴木優人

ベートーヴェン:交響曲第9番ニ短調 作品125 より第4楽章(全曲)

指揮:鈴木雅明
ソプラノ:アン=ヘレン・モエン
アルト:オリヴィア・フェアミューレン
テノール:ベンヤミン・ブルンス
バス:クリスティアン・イムラー
合唱&管弦楽:バッハ・コレギウム・ジャパン