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調布国際音楽祭 モーツァルト:《後宮からの誘拐》|藤堂清

調布国際音楽祭 午後のオペラ
モーツァルト:《後宮からの誘拐》KV 384
(演奏会形式、セリフ:日本語)
Chofu International Music Festival 2019
W.A.Mozart Die Entführung aus dem Serail

2019年6月28日 調布市文化会館たづくり くすのきホール
2019/6/28 Chofu City Culture Hall, Kusunoki Hall
Reviewed by 藤堂 清(Kiyoshi Tohdoh)
Photos by 林喜代種(Kiyotane Hayashi)

<スタッフ>   →foreign language
指揮/フォルテピアノ/セリム:鈴木優人
演出: 田尾下 哲

<キャスト>
コンスタンツェ[ベルモンテの婚約者]:森谷真理(ソプラノ)
ベルモンテ[スペインの貴族]:櫻田 亮(テノール)
ブロンデ[コンスタンツェの召使]:澤江衣里(ソプラノ)
ペドリッロ[ベルモンテの召使]:谷口洋介(テノール)
オスミン[太守の監督官]:ドミニク・ヴェルナー(バス)
管弦楽・合唱:バッハ・コレギウム・ジャパン

 

序曲の軽やかな響き、打楽器のリズム、管楽器のとがった音色が、すぐモーツァルトの《後宮》の世界に連れて行ってくれる。
そう、この音で聴きたかったのだ。
ピリオド楽器のバッハ・コレギウム・ジャパン(BCJ)オーケストラ、弦楽器は4型と小編成、管楽器は二管編成。
海外では当たり前のように聴くことができる時代楽器によるモーツァルト、日本ではなかなかひろがらない。今回それを可能にしたのは、BCJが長年積み重ねてきた基盤あってのこと、バッハからモーツァルト、ベートーヴェンへと演奏対象を拡大してきている。

序曲が終わると櫻田が登場、若々しい声でアリアを歌う。ヴェルナーとの掛け合いも手慣れたもの。谷口との会話ではもともとのセリフからはずれ、ご当地、調布ネタを入れ聴衆の笑いをさそう。つづくコンスタンツェとセリムの場面、合唱が歌っている間に森谷が一人で登場、指揮台のとなりに立つ。音楽が途切れると鈴木は上着を脱ぎ捨て、セリムに変身、彼女と会話を始める。セリフ部分でのこういった遊び、まったく知らない人は戸惑うかもしれないが、地域に根ざした手作りの音楽祭には合っている。

歌手5人はBCJとともに活動している人たち。そうはいってもそれぞれに個性はある。
コンスタンツェを歌った森谷は、6月初旬に東京二期会で《サロメ》のタイトルロールを歌っている。第一幕の〈Ach ich liebte, war so glücklich〉のゆったりとした悲しみの表現、第二幕の〈Martern aller Arten〉で決意を歌う細かな動きとダイナミクスの大きな歌、オペラ歌手としての成熟を聴かせた。彼女は楽譜を持たずに歌い切った。
ブロンデの澤江は、BCJのほか、宗教曲、歌曲での活動が多い。軽めの声でこの役やツェルリーナ、スザンナといった役柄に合いそう。アリア〈Welche Wonne, welche Lust〉で音程やリズムのよさが感じ取れた。
ベルモンテの櫻田は大ベテラン、宗教曲からオペラまで、16世紀から20世紀まで幅広くこなす。この日もアリアに、重唱にと大活躍。第一幕でコンスタンツェとの再会を思って歌う〈Konstanze, dich wiederzusehen, dich〉の味わいに、彼の舞台経験の厚みを感じた。
ペドリッロの谷口をソロで聴いた記憶はないが、丁寧な歌いぶり、表情付けの的確さで狂言回し的存在のこの役を楽しませてくれた。
オスミンのドミニク・ヴェルナーも50歳間近のベテラン、BCJやこの音楽祭など日本での活動も積極的に行っている。この役には有名な低音がある。ピリオド楽器使用でピッチが低くなったため多少苦労していたが、あまり重すぎない彼の声はモーツァルトに合っている。第一幕、第二幕での重唱での他の歌手とのやりとり、本当に見事。

そして、全体をまとめ引っ張っていった鈴木の統率力がすばらしかった。
来年に向けた計画はあるのだろうが、音楽祭とともに続けて行っていただきたい。

(2019/7/15)

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<STAFF>
Masato Suzuki, Conductor/Fortepiano/Selim
Tetsu Taoshita, Director

<CAST>
Konstanze: Mari Moriya, Soprano
Belmonte: Makoto Sakurada, Tenor
Blonde: Eri Sawae, Soprano
Pedrillo: Yosuke Taniguchi, Tenor
Osmin: Dominik Wörner, Bass

Orchestra & Chorus: Bach Collegium Japan