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BBC PROMS JAPAN PROM1 ファースト・ナイト・オブ・ザ・プロムス|藤原聡

BBC PROMS JAPAN PROM 1 ファースト・ナイト・オブ・ザ・プロムス
BBC Proms JAPAN 2019 PROM 1 First night of the Proms

2019年10月30日 Bunkamura オーチャードホール
2019/10/30 Bunkamura Orchard Hall
Reviewed by 藤原聡(Satoshi Fujiwara)
写真提供:BBC Proms JAPAN 2019

<演奏>        →foreign language
指揮:トーマス・ダウスゴー
ピアノ:ユリアンナ・アヴデーエワ
BBCスコティッシュ交響楽団

<曲目>
メンデルスゾーン:序曲『フィンガルの洞窟』 Op.26
チャイコフスキー:ピアノ協奏曲第1番 変ロ短調 Op.23
マーラー:交響曲第5番 嬰ハ短調
——————(アンコール)—————–
エルガー:『威風堂々』第1番

 

今さら説明の必要もなかろうが、BBC Proms(いわゆる「プロムス」)はロンドンを中心に毎年夏に開催されるクラシック音楽の祭典。ロイヤル・アルバートホールで開催されたプロムスの映像を何らかの形でご覧になられた方は多いだろうし、その演奏はCDにもなっている。この度このプロムスが初めて日本に上陸して10月30日~11月4日までの間に計6回のコンサートとSHIBUYA109、渋谷マークシティ及びグランフロント大阪でイベントが催された。そのうち第1日目―PROMS1―を聴く。

オーチャードホールのステージはダークブルー及び淡いレッドのライティングが施され、その天井に近い左右両側には「BBC PROMS JAPAN」と記されたフラッグが吊るされている。そして開演前にはBBC PromsJAPANのアンバサダーである葉加瀬太郎のアナウンス(本人が登場した訳ではない)。言うまでもなく通例のクラシック・コンサートとは趣が異なり華やいだ雰囲気が場内を覆う。そんな中足早に登場したダウスゴー、1曲目は『フィンガルの洞窟』。スコットランドのオケであるがゆえの選曲であろうが、その指揮はやや早めのテンポを採用し、全体に響きを柔らかくまとめてソツのない仕上がりだが、ダウスゴーであればより冴えた響きが欲しいところではある。楽想を表面的に撫でるだけの演奏に終始した感があり、まあ初日の1曲目であるし、エンジンも掛かっていないのだろうか、などと想像もする。

2曲目、チャイコフスキーの協奏曲ではソリストにアヴデーエワが登場。その演奏はかなり豪快である(冒頭、顔の位置まで派手に両手を持ち上げてまるでルービンシュタイン)。普段のこのピアニストはもっとセンシティヴな演奏をしていたように思うが、この日はある種のお祭りのせいか、鳴らないホールのためか、あるいはこの曲をそういうものと捉えているのかは判然としないが基本的にインテンポで音圧は強く(鳴らないオーチャードの2階正面席まで芯のある音が明晰に飛んで来るのだ)、感傷とは無縁のダイナミズム。オケも基本的にアヴデーエワに沿った演奏を展開していて曲が苦手な方には新鮮に楽しめるであろうが、反面叙情味を求める方には大味な演奏と聴こえる余地なしとしない。筆者はこの演奏を大いに愉しんだが、根っからのチャイコフスキー好きはどう思うのだろうか。

休憩を挟んではマーラーの第5。ダウスゴーとBBCスコティッシュでプロムスなのだからイギリスの曲を持って来ても良さそうなものだが(別の日には彼らにより親和性の高いであろうシベリウスの第2があるが)、ともあれ演奏の出来次第であろう。ところが冒頭トランペットからどことなく不安定であり、ダウスゴーの指揮は必死に指示を飛ばしながらもオケがいまいち「踊らず」表情がのっぺりしがち。マーラーのキモである執拗な強弱と表情の変化が生かされない。表面的にはダイナミックな音が鳴ってはいるのだが、これも『フィンガル~』同様にどことなく「流した」印象。であるから終楽章のコーダに至る流れも有機的に構築されての爆発にはならずに燃焼度も高くはない。どちらかというと流れる音楽を志向するダウスゴーとマーラーの相性ということもあるいはあるのかも知れないが、それ以上にオケの反応の悪さがこういう演奏に繋がっているように思える。もっともこの翌日の大阪公演での同曲演奏がどうであったのかは知らないが、オーチャード公演でのいまいちピリッとしない演奏がこの日の演奏者のたまたまのコンディションの問題だと思いたいところだ。

アンコールは待ってました、の『威風堂々』第1番、ここでのオケはさすがにマーラーとは別物のようにリズム的生彩と表現の豊かさに富む。演奏前に客席に向かって「皆さんもどうぞご一緒に!」とダウスゴー、そこでやや控え目ながら手拍子が発生して盛り上がりが増しつつも、例の中間部では客席に向かって歌うことを促すゼスチュアがありながら当然会場のほぼ全員歌詞を知らないので控えめなハミングにとどまり歌えない。うーん、腰砕け。せっかくなのだから歌詞をパンフレットに挟んでおくとか字幕を流すとか(このためだけの設置は予算上無理か)、やりようはあった気がする。何だか勿体無い。

印象の総括、確かにライティングやら『威風堂々』でプロムスらしい華やかさの片鱗は感じられつつも、場所がオーチャードホールゆえ通常のクラシック・コンサートとさして変わらない。もし来年以降にも開催されるのであれば、もっと祝祭寄りにして近々開場予定の池袋西口公演野外劇場、などどうであろうか。何だかもっと楽しくなりそうじゃないですか(勝手な想像)。

(2019/11/15)

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<Performer>
BBC Scottish Symphony Orchestra
Thomas Dausgaard, conductor
Yulianna Avdeeva, piano

<Program>
Mendelssohn:“The Hebrides” Overture, Op.26<Fingal’s Cave>
Tchaikovsky: Piano Concerto No.1 in B-flat minor, Op.23(Yulianna Avdeeva, piano)
Mahler: Symphony No.5 in C-sharp minor
(encore)
Elgar:”Pomp and Circumstance” No.1