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第46回サントリー音楽賞受賞記念コンサート 広上淳一と京都市交響楽団|藤原聡

第46回サントリー音楽賞受賞記念コンサート 広上淳一と京都市交響楽団

2017年9月18日 サントリーホール
Reviewed by 藤原聡(Satoshi Fujiwara)
Photos by 林喜代種(Kiyotane Hayashi)

<演奏>
京都市交響楽団
指揮:広上淳一
中山航介、宅間斉、福山直子、大竹秀晃、高橋篤史(打楽器、武満作品)

<曲目>
武満徹:『フロム・ミー・フローズ・ホワット・ユー・コール・タイム』~5人の打楽器奏者とオーケストラのための
ラフマニノフ:交響曲第2番 ホ短調 作品27
(アンコール)
チャイコフスキー:組曲第4番~第3曲『祈り』

 

前回広上淳一と京都市交響楽団(以下、京響)の組み合わせがサントリーホールに来演したのは、確か2014年3月だったと記憶する。筆者の京響初実演がそのコンサートだったのだが、大げさではなくて相当に驚かされた。京響の演奏がいかにも日本のオーケストラ離れしていたからだ。響きは肉厚でダイナミック、その演奏は押し出しが強く物怖じするところがない。合わせること優先のアンサンブルではなくメンバー1人1人という「個」の顔が見えるが――それが各パートの躍動に繋がり、さらにパート間のスポンティニアスな呼応関係を呼び込む――しかし全体は1つの響きに完全に収斂し、決して暴れ馬のように各人が暴走しない。
さらにその年の年末には京都コンサートホールまで赴いて大野和士の指揮するベートーヴェンの『第9』を聴く。指揮者とオケの微妙な齟齬は感じたが、オケ自体の優秀さは明白であり、いかんせん遠方にてそう年中京響の実演に接することは出来ない訳であり、この度のサントリー音楽賞受賞に際しての東京公演はまさに待ちかねたものだ。

さて、当夜のコンサート1曲目は武満徹の『フロム・ミー・フローズ・ホワット・ユー・コール・タイム』。1990年の武満還暦の年に作曲された、そして滅多に実演で演奏されない曲だが、2012年5月には下野竜也がN響と演奏しており、初のベルリン・フィル客演で佐渡裕もこれを取り上げていたな、などと思い出す。この曲はカーネギーホールの創立100年記念作品として同ホールから武満に委嘱されたものであり、武満は素晴らしいホールを寿ぐ意味合いを持つ当曲でそれに応えた。作曲者によれば、タイトルの「ミー」とはカーネギーホールであり、すわなち「100年に渡ってカーネギーホールから流れ続けた音楽」というイメージを喚起することを狙いとしている。また、ステージからホール左右の壁面に繋げられた非常に印象的な5色のリボンは――その先には鈴が付いている――、会場にいる人にホール内の空間性と内的構造を意識させるようにも仕向けられており、広上が演奏後に聴衆に向けて行なったスピーチによれば、「リニューアルオープンしたサントリーホールへの感謝」を念頭に置いたプログラミングだったと言う。実ににくいではないか。演奏自体についてはいかんせんサンプルケースが少ないものの、当曲の初演団体であるネクサスが録音に参加したカール・セント・クレア盤(ソニー)の演奏と比較するならば(このために聴き直した)、全体によりゆったりとした間合いを感じさせ、響きの入念さの点で広上に軍配が上がると思う(むろん実演と録音を単純に同一線上で比較は出来ないにせよ…)。武満晩年の作品における「無防備に近い美しさ」に心理的な抵抗感がないと言えば嘘になるが、この日の演奏はそんな疑念を吹き払うような美があった、いささか危険な。

後半のラフマニノフはもう広上節全開の濃厚かつ豊潤な演奏であり、京響は指揮者の要求する細かいアゴーギクにも完璧に付けて行って間然とするところがない。またはどこを取っても躍動感に富み(指揮者氏はいつも以上によく踊って飛び上がる!)、それは後半2楽章に至って思わず快哉を叫びそうになるほどのものへ。それにしてもオケが京響でなければここまで一体化した演奏にはなっていなかったのは明らかだろう。この積極性はベルリン・フィルすら想起させた、と書いてもオーバーではあるまい。正直に記すと筆者はこの曲が苦手なのだが、これほどの演奏を聴かされるとさすがに惹かれざるを得まい。

先述した演奏後の広上氏スピーチ。「何よりもオーケストラが賞を頂いたことが大変嬉しい」。プログラムに書かれている岡田暁生氏のように長年京響を定点観測的に聴いて来た地元のファンの方も同様の思いなのではなかろうか。「今や京響こそ日本で一番うまくてエキサイティングなオーケストラだと、私は地元民として思っている。」(岡田氏)。筆者もそれなりに数多くの日本のオーケストラを聴いて来た自負はあるが、決してオーバーではないと思う。