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加藤訓子プロデュース|スティーヴ・ライヒ プロジェクト|齋藤俊夫

めぐろパーシモンホール開館20周年記念 加藤訓子プロデュース スティーヴ・ライヒ プロジェクト
Meguro Persimmon Hall 20th Anniversary Kuniko Kato Produce Steve Reich Project

2022年12月10、11日 めぐろパーシモンホール
2022/12/10,11 Meguro Persimmon Hall
Reviewed by 齋藤俊夫(Toshio Saito)
写真撮影・提供:特定非営利活動法人芸術文化ワークス

<曲目、演奏>        →foreign language
全てスティーヴ・ライヒ作曲

第1日 カウンターポイント・ライヴ

『マレット楽器、声とオルガンのための音楽』(1973)
  ボイス:吉川真澄、丸山里佳、向笠愛里、キーボード:加藤訓子
  マリンバ:眞鍋華子、、松野弥咲、濱仲陽香、横内奏
  グロッケン:高良真剣、青柳はる夏、ヴィブラフォン:谷本麻実
『ナゴヤ・マリンバ』(1994)
  マリンバ:篠崎陽子、三神絵里子
『マレット・カルテット』
  ヴィブラフォン:岩間美奈、悪原至、マリンバ:篠崎陽子、藤本亮平
『シックス・マリンバ・カウンターポイント(加藤訓子編曲)』(1986/2010加藤訓子編曲)
  ソロ・マリンバ:加藤訓子
  マリンバ:戸崎可梨、古屋千尋、中野志保、横内奏、細野幸一
『ヴァーモント・カウンターポイント(ヴィブラフォンとグロッケンのために加藤訓子編曲)』(1982/2010)
  ソロ・ヴィブラフォン:加藤訓子
  ヴィブラフォン:三神絵里子、 横内奏、 細野幸一、谷本麻実、齋藤綾乃、東廉悟
  グロッケン:富田真以子、青柳はる夏、松野弥咲
『ニューヨーク・カウンターポイント(マリンバのために加藤訓子編曲)』(1986/2012)
  ソロ・マリンバ:加藤訓子
  マリンバ:眞鍋華子、藤本亮平、古屋千尋、青柳はる夏、富田真以子、横内奏
       篠崎陽子、東廉悟、濱仲陽香、中野志保

(アンコール)
ワークショップ参加者全員による、ライヒ『クラッピング・ミュージック』

第2日 ドラミング・ライヴ
『4オルガンズ』(1970)
  キーボード:横内奏、齋藤綾乃、松野弥咲、戸崎可梨
  マラカス:加藤訓子
『木片のための音楽』(1973)
  クラベス:悪原至、古屋千尋、岩間美奈、濱仲陽香、高良真剣
『Know What is Above You』
  ボイス:吉川真澄、丸山里佳、向笠愛里、石田彩音
  打楽器:加藤訓子、谷本麻実
『ドラミング』
  打楽器:東廉悟、細野幸一、篠崎陽子、三神絵里子、横内奏、富田真以子
      戸崎可梨、高良真剣、青柳はる夏
  ホイッスル:藤本亮平、ピッコロ:井上紗織、ボイス:吉川真澄、丸山里佳
(アンコール)
ワークショップ参加者全員による、ライヒ『クラッピング・ミュージック』

 

キラメキにトキめいてドキドキ、中年になっても音楽にこんな胸の高鳴りを覚えるとは。

まずは第1日。

『マレット楽器、声とオルガンのための音楽』の冒頭から胸が高鳴った。声とキーボードが絵画におけるキャンバスを作り、そこにマリンバとグロッケンが綾を描く。頭が冴えるが心は安らぎ、この錯綜する音の綾をいつまでも聴いていられる。
『ナゴヤ・マリンバ』作品の基本テーマが実にライヒ的。そのテーマに基づいてのフェイズ・シフトが展開されていくと、マリンバ2台の演奏とは思えないほど複雑に絡まりあうテクスチュアで作られた、過不足が一切ない完璧な音世界が浮かび上がってくる。
『マレット・カルテット』マリンバの深い余韻に包まれる。これは録音では味わえない体験だ。空間を埋め尽くすマリンバサウンドの中にヴィブラフォンが鋭い音での旋律的パターンを刻む。ポップであるのに媚びた所、軟弱な所は一切なく、エッジが効いているのに痛くない。中間で静かな音楽に転換しても気持ちが良い。静かだが興奮が持続し続ける。さらに今度はビートに乗って4人の奏者が疾走する。カッコ良すぎる。これはテクノポリスの音楽だ。これはSF音楽だ。
『シックス・マリンバ・カウンターポイント』冒頭4人での反復に2人が加わってライヒのカウンターポイント(対位法)が花開く。フェイズの転換でぐっと暗めの音楽になったりもするが、結末のクレシェンドを夢心地のまま迎える。
『ヴァーモント・カウンターポイント』筆者は以前元の編成での生演奏(細かく言うと録音との合奏)を聴いたことがあるが(若林かをり フルーティッシモ!plus)金属鍵盤打楽器版でもこの作品はやはり只物ではなかった。多声部書法による金属音の輝き方が尋常ではない。あっちで輝いたと思えばそっちでまた輝きが放たれ、その音源・光源の動き方はおそらく規則正しいのだが、その規則は人間には把握困難もしくは不可能なカウンターポイント論理に従っている。キラめく音場を加藤のソロ・ヴィブラフォンが疾走する、その様はクール!ビューティフル!トキメキ!
『ニューヨーク・カウンターポイント』マリンバのロールによるクレシェンド&デクレシェンドがしみじみと美しい。やがてマリンバがカウンターポイントの合奏を始めると、音と音の重なりによりモアレ的、錯視(聴?)的に旋律のようなパターンがこちらの中で響き始める。中間部は冒頭に似た、マリンバのロール・クレシェンド&デクレシェンドの波の上を加藤のソロが波乗りする。さらにフェイズ転換して、全員で軽妙洒脱にリズミカルな踊りを始めてモアレ・錯視現象がまた増大してきた所でスパリと終曲。耳も心も爽やかに洗われた心地がする。

ここから第2日。

『4オルガンズ』4つのキーボードが、互いに協和をなす音を始まりはごく短く弾き、少しずつ少しずつ音を長くしていき最後は長大な音価の和音が鳴り響く。その中で加藤のマラカスは延々と同じ速度で拍を刻み続ける。協和音って良いものだ、と思いつつ気が遠くなりそう……なのを、マラカスのビートが引き止めてくれる。このあたりライヒの音使いの上手さが冴える。
『木片のための音楽』プチ・ドラミングとも言うべき本作(作曲は『木片~』の方が後)はドラミングほどの壮大さはないものの、その分、作曲家がこの作品に〈仕掛けた〉技術・仕掛けがはっきりと認識できる。全く感情表出をしない木片だけのアンサンブルがかくも鮮やかに聴こえ、それにこれほど心動かされるとは。
『Know What is Above You』これはライヒの『テヒリーム』に近い作品。手持ち膜鳴楽器で単純なリズムが奏される中、歌手が2人と2人の小集団に分けられ、おそらく宗教的な意味を持った歌が澄んだ発声でうたわれる。ごく短い小品ながら、敬虔な心を呼び覚まされる音楽であった。
そして今回の企画のメイン、『ドラミング』13人による生演奏である。トン、トン、トン、トン、という単音から、トント、トント、トント、トント、トントトント、トントトント、トントトント、と音が増殖してゆき、さらに奏者ごとの演奏が重ね合わされて音のテクスチュアは複雑を極め、またさらに膜鳴楽器によるアンサンブル、金属打楽器によるアンサンブル、鍵盤楽器によるアンサンブル、全ての楽器種によるアンサンブルと主たる楽器群が交代していき、こちらの聴覚ゲシュタルト認識が錯乱していく。ミニマル・ミュージックならではの執拗な反復での、この錯乱こそ妙味なりとじっくり感じ味わい、出現してくる微妙な、あるいは急激突然な音の変化に耳と脳の舌鼓を打つ。実に贅沢極まりない。だがそのような音楽的美食家な態度はライヒも加藤も許してはくれない。音によって空間が刻まれ刻まれ刻まれ、音が会場中でキラめきキラめきキラめき、筆者の心はトキめきトキめきトキめき、誰が人間だか誰が妖精妖怪鬼怪獣だかわからない不可思議の世界へと皆が誘われる。音楽がただ純粋に音楽であるという不思議がなせる業。最後の最後でクレッシェンドから大音量の頂点に至って会場の全員が勢いよく天に召されたように感じられた。

ドキドキしていた。少年時代、音楽を音楽として初めて認識した時の喜びと楽しみがよみがえったかのようだった。この感覚が味わえる限り、音楽をやめることはできないだろう。

(2023/1/15)

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<Pieces & Players>
(All pieces are composed by Steve Reich)

DAY 1 COUNTERPOINT LIVE

Music for Mallet Instruments, Voices & Organ
 Voice: Masumi Yoshikawa, Maruyama Satoka, Airi Mukasa
 Keyboard: Kuniko Kato
 Marimba: Hanako Manabe, Misaki Matsuno, Haruka Hamanaka, Kana Yokouchi
 Glockenspiel: Mahaya Takara, Haruka Aoyagi
 Vibraphone: Asami Tanimoito
Nagoya Marimbas
 Marimba: Yoko Shinozaki, Eriko Mikami
Mallet Quartet
 Vibraphone: Mina Iwama, Itaru Akuhara
 Marimba: Yoko Shinozaki,Ryohei Fujimoto
Six Marimbas Counterpoint (arr.Kuniko Kato)
 Marimba Soloist: Kuniko Kato
 Marimba: Karin Tozaki,Chihiro Furuya,Shiho Nakano,Kana Yokouchi, Koichi Hosono
Vermont Counterpoint [Version for Vibraphone and Glockenspiel] (arr.Kuniko Kato)
 Marimba Soloist: Kuniko Kato
Vibraphone: Eriko Mikami, Kana Yokouchi, Koichi Hosono, Asami Tanimoito, Ayano Saito, Rengo Azuma
 Glockenspiel: Maico Tomita, Haruka Aoyagi, Misaki Matsuno
New York Counterpoint [Version for Marimba] (arr.Kuniko Kato)
 Marimba Soloist: Kuniko Kato
 Marimba: Hanako Manabe, Ryohei Fujimoto, Chihiro Furuya, Haruka Aoyagi, Maico Tomita, Kana Yokouchi, Yoko Shinozaki, Rengo Azuma, Haruka Hamanaka, Shiho Nakano
(encore)
“Clapping Music” by all members of the workshops.

DAY 2 DRUMMING LIVE

Four Organs [4 Keyboards+Maracas]
 Keyboards: Kana Yokouchi, Ayano Saito, Misaki Matsuno, Karin Tozaki
 Maracas: Kuniko Kato
Music for Pieces of Wood [5 Claves]
 Claves: Itaru Akuhara, Chihiro Furuya, Mina Iwama, Haruka Hamanaka, Mahaya Takara
Know What is Above You
 Voice: Masumi Yoshikawa,Satoka Maruyama, Airi Mukasa, Ayane Ishida
 Percussion: Kuniko Kato, Asami Tanimoito
Drumming
 Percussion: Rengo Azuma, Koichi Hosono, Yoko Shinozaki, Eriko Mikami, Kana Yokouchi, Maico Tomita, Karin Tozaki, Mahaya Takara, Haruka Aoyagi
 Whistle: Ryohei Fujimoto
 Piccolo: Saori Inoue
 Voices: Masumi Yoshikawa, Satoka Maruyama