Menu

ヘンデル: 歌劇 《リナルド》 |藤堂清

ヘンデル: 歌劇 《リナルド》 (セミ・ステージ形式)
Georg Friedrich Handel: Rinaldo
(HWV7a 1711年版/全3幕/イタリア語上演・日本語字幕付)

2020年11月3日 東京オペラシティ コンサートホール
2020/11/3 Tokyo Opera City Concert Hall
Reviewed by 藤堂 清(Kiyoshi Tohdoh)
Photos by 林喜代種(Kiyotane Hayashi)

<スタッフ>        →foreign language
演出: 砂川 真緒
衣裳コーディネイト: 武田 園子
照明: 稲葉 直人
舞台監督: 幸泉 浩司
演出助手: 水野 明人
ドラマトゥルク: 菅尾 友
副指揮: 平野 桂子

<キャスト>
指揮・チェンバロ: 鈴木 優人

リナルド: 藤木 大地
アルミレーナ: 森 麻季
アルミーダ: 中江 早希
ゴッフレード: 久保 法之
エウスタツィオ: 青木 洋也
魔法使い: 波多野 睦美
アルガンテ: 大西 宇宙
使者: 谷口 洋介
セイレーン(人魚たち):松井 亜希
澤江 衣里

管弦楽: バッハ・コレギウム・ジャパン

 

充実した演奏、遊びにみちた舞台・演出、楽しかった。重かった心を解きほぐしてくれた。

筆者撮影

会場に入るとあちこちに手作りめいたポスターが貼られている。「Händel」というマークがあるし、「リナルド」と大きく書かれている。この日のために作られたもの、そうとしか思えない。でも「新発売」って何?一回の上演で、このメンバーでの演奏は初めてだから「新」なのか?と考えながら席に着く。
舞台上手側にいろいろ積み上げた一角があり、その真ん中に男(の子)が座っている。何か準備をしているのだろうか?そのうちに箱を持った人が入ってきて彼にそれを渡す。箱には大きなRの文字。楽天の配達みたい。うれしそうに箱を開け、中身を取り出す男。紙は貼ってあったポスターのよう。そしてゲームソフト?最後に女性のフィギュア。
あのポスターに書いてあったのは何だったのだろうと思うが、演奏が始まっており確認することはできない。

鈴木優人がバッハ・コレギウム・ジャパンを率いて上演するオペラ・シリーズの第2弾。3年前のモンテヴェルディの《ポッペアの戴冠》での好演もあり、今回も期待が高かった。だが新型コロナ・ウイルスの感染拡大のため、海外からの参加は不可能となり配役は大幅に変更。それでも、カストラートに替わるカウンターテナー3名を国内で用意できるようになったことに時代の変化を感じる。
曲はゲオルク・フリードリッヒ・ヘンデルの《リナルド》。彼がロンドンを初めて訪れたときに作曲し、大成功を収めた作品である。第1次十字軍によるエルサレム奪取を題材(タッソーの『解放されたエルサレム』)とし、イスラム教徒側の魔女アルミーダとキリスト教徒側の騎士リナルドの間の愛憎劇を絡めたもの。オペラではアルミーダをタイトルロールとするものが多くつくられている(リュリ:《アルミード》、ロッシーニ:《アルミーダ》など)。
リナルドの恋人アルミレーナがイスラム側のアルミーダ、アルガンテに攫われ、彼女を救おうとしたリナルドもアルミーダの魔法で捕まってしまう。アルガンテ等は、これにより不利な状況になっていた戦いを逆転しようと考えていたのだが、アルガンテはアルミレーナに、アルミーダはリナルドに惹かれるようになり、アルガンテとアルミーダの間はギクシャクしたものとなる。キリスト教徒側は魔法使いの助けを得て、アルミーダの庭園を攻撃、リナルドとアルミレーナを救出する。リナルドを加えた軍勢はエルサレムを奪還する。アルガンテとアルミーダはキリスト教に改宗する。
とまあ、なんともご都合主義的なストーリー。

今回の上演はセミ・ステージ形式としているが、オーケストラの前にスペースを作り、道具を置き、歌手はそこで演技する。
演出の砂川、ドラマトゥルクの菅尾(ヨーロッパで演出家として活躍中)は、ゲームオタクの青年が遊んでいるうちにゲームの中に入り込み、主役リナルドとして活躍、アルミレーナと結ばれる、という枠組みをこのオペラに与え現代の物語とした。ひきこもり、宅配での荷物の受け取り、たくさんのゲームソフトを積み上げた部屋など、いまどきのオタクの世界から変身していくことで、あまり現実味のないストーリーを身近なものとした。登場人物、特にアルミレーナは最初に送られてきたフィギュアの服装で、彼が飛び込んだのが、冒頭で受け取ったロール・プレイング・ゲーム(RPG)だと示される。「バロックRPG」、「囚われの姫を救出せよ」、「初回特典はキャラクターフィギュア!」、なぜポスターが貼られているのか、第1幕が終わったところでようやく理解できた。
そのほかの場面でもさまざまな小ネタで笑いをとる。リナルドに拒絶されたアルミーダが焼酎を一升瓶からあおり、すっかり酔ってしまう。その足取りをチェンバロが模す。
遊び心が感じられるだけでなく、それがストーリーとも上手につながり余計なところがない。
聴衆は大喜び。
演出家の術中に嵌っているのは間違いないが、それを心地よく受け止められた。

鈴木優人が指揮とチェンバロを兼任し、生き生きとした表情を生みだしていた。小編成*のバッハ・コレギウム・ジャパンの反応も良く、弾みのある音楽が会場を埋める。
歌手たちも優れた出来栄え。
アルミレーナの森麻季、アルミーダの中江早希の二人の対象的な歌がともに説得力があった。
森の歌う「涙の流れるままに」はリサイタルでも聴くことが多いが、オペラの中で歌われると心に響く。同じ言葉を繰り返しても、微妙に色合いを変化させ感情を表現する、そのバランスが見事。
中江の「私は戦いを挑み」での厚みのある声での細かな音の動かしや高音の輝き。ここでは鈴木のチェンバロも大活躍。
カウンターテナーではリナルドの藤木が光った。10月の新国のオベロンに続く主役だが、オペラの舞台でも他の声種にひけを取らない響きを聴かせてくれた。
アルガンテの大西の声も威力がある。バロックの歌唱というよりロマン派のオペラ側から攻めたような印象はあるが、魅力的であった。以前のリサイタルでも感じたが、言葉が声の響きに埋もれてしまうところがある。曲によりそのバランスを変えていければよいのだが。
その他の歌手もバッハ・コレギウム・ジャパンの公演でおなじみの人が多く、出番は少ないがしっかりとした歌であった。

楽しい公演。鈴木の第3弾のオペラを期待したい。
コロナのことを忘れることのできた時間。

(2020/12/15)

—————————————
<STAFF>
Stage Director: Mao Sunakawa
Costume Coordination: Sonoko Takeda
Stage Lighting: Naoto Inaba
Stage Manager: Hiroshi Koizumi
Assistant Stage Director: Akihito Mizuno
Dramaturg: Tomo Sugao
Assistant Conductor: Keiko Hirano
<CAST>
Conductor and Harpsichord: Masato Suzuki

Rinaldo: Daichi Fujiki
Almirena: Maki Mori
Armida: Saki Nakae
Goffredo: Noriyuki Kubo
Eustazio: Hiroya Aoki
Mago Cristiano: Mutsumi Hatano
Argante: Takaoki Onishi
Araldo: Yosuke Taniguchi
Due Sirene: Aki Matsui
Eri Sawae
Orchestra: Bach Collegium Japan

———————————————–
*バッハ・コレギウム・ジャパン編成

フラジオレット:水内 謙一
リコーダー :水内 謙一
向江 昭雅
三宮 正満
オーボエ:三宮 正満
荒井 豪
トランペット:斎藤 秀範
大西 敏幸
杉村 智大
霧生 貴之
ティンパニ & パーカッション
菅原 淳
ヴァイオリン I:若松 夏美
荒木 優子
原田 陽
ヴァイオリン II:高田 あずみ
髙橋 奈緒
山内 彩香
ヴィオラ:成田 寛
秋葉 美佳
チェロ:山本 徹
コントラバス:西山 真二
ファゴット:村上 由紀子
チェンバロ:大塚 直哉
リュート:野入 志津子

Bach Collegium Japan
Flageolet : Kenichi Mizuuchi
Recorder : Kenichi Mizuuchi
Akimasa Mukae
Masamitsu San’nomiya
Oboe : Masamitsu San’nomiya
Go Arai
Trumpet : Hidenori Saito
Toshiyuki Onishi
Tomohiro Sugimura
Takayuki Kiryu
Timpani/Percussion : Atsushi Sugahara
Violin I : Natsumi Wakamatsu
Yuko Araki
Akira Harada
Violin II : Azumi Takada
Nao Takahashi
Ayaka Yamauchi
Viola : Hiroshi Narita
Mika Akiha
Violoncello : Toru Yamamoto
Contrabass : Shinji Nishiyama
Bassoon : Yukiko Murakami
Harpsichord : Naoya Otsuka
Lute : Shizuko Noiri