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特別企画|新型コロナウィルス感染症と日本の音楽文化 ―4―|戸ノ下達也 

新型コロナウィルス感染症と日本の音楽文化 ―4―
Music Culture in Japan under COVID-19 (4)

Text by 戸ノ下達也 (Tatsuya Tonoshita)

◆はじめに
本稿では、7月中旬から今月上旬に至る、新型コロナウイルス感染症と音楽文化の課題について、前号に続き、内閣、立法、音楽界の対応を整理する。

現在の新型コロナウイルス感染症対策は、内閣官房に設置された「新型コロナウイルス感染症対策本部」(以下「対策本部」)が、令和2年5月25日変更として発表した「新型コロナウイルス感染症対策の基本的対処方針」(以下「基本対処方針」)が基本となっている。そして、基本的対処方針に基づき、7月17日付けで都道府県知事に事務連絡された「感染が拡大している都道府県における対応について」(以下「都道府県の対応」)及び、7月23日付けで都道府県知事に事務連絡された「8月1日以降における催物の開催制限等について」(以下「催物の開催制限」)、さらに本稿で言及する対策本部や新型コロナウイルス感染症対策分科会(以下「分科会」)の提言等に基づいて実施されている。
以下、この状況下の音楽文化を取り巻く現状を考えてみたい。

1.内閣(首相官邸・内閣官房)の対応
(1)安倍内閣の姿勢
安倍内閣総理大臣は、6月18日の記者会見以降、新型コロナウイルス感染症対応に関し、記者会見を行っていない。唯一、記者会見で見解を表明したのは、8月6日の広島平市原爆死没者慰霊式並びに平和祈念式後と、8月9日の長崎原爆犠牲者慰霊平和祈念式後の記者会見だった。しかし、この記者会見は、あくまで恒例となっている平和祈念式後の会見であり、新型コロナウイルス感染症対策のために記者会見したわけではない。PCR検査数が増えた事情はあるにせよ、東京都をはじめとする地域で感染者数が飛躍的に増加していること、また野党の憲法第53条に基づく臨時国会の開催要請を受けてもなお、国会開催を拒否し、対応を分科会や地方公共団体に丸投げし、沈黙を続けているのが安倍内閣である。一方で、全国知事会は、8月8日に「新型コロナウイルス感染症に関する緊急提言」と「大切な「ふるさと」と命を守るために~お盆の帰省について」を発表、さらに8月11日には、国との意見交換会を開催し、地方創生臨時交付金の増額を要請すると同時に、休業要請に応じない業者への罰則規定の検討なども求めたほか、「全国の知事からのお願い~「おもいやり」と「やさしさ」の輪を広げましょう」という人権メッセージなどを公表するなど、危機的状況の解決を多方面から要請した。しかし、この意見交換会でさえ安倍総理は出席せず、西村稔康内閣府特命担当大臣のみが対応した。ここでも、地方公共団体の危機感と、内閣の他人事のような意識のズレが顕著となっている。

国会が開催されず、安倍総理が何ら国民目線での対応を行わない中で、この間の感染拡大防止対策は、内閣官房に設置された分科会が中心となり、この分科会の提言等を受けて、西村大臣が記者会見を行って内閣の方針を発信していた。

7月22日開催の第3回分科会では、直近の感染状況について、
●体制がひっ迫している一部の保健所への人的・物的な支援、入院・宿泊施設の確保等に早急に取り組むことが必要。
●3密の回避、大声を上げる環境の回避、接待・会食での飛沫防止、換気の徹底などの必要性が改めて強く示唆。
●感染は若年層が中心であり、中高年層への拡大が懸念される。改めて、若年層に行動変容とお願いすることが必要。
と分析し、「政府への提案」として「感染拡大が継続したときや爆発的な感染拡大に備えて、判断に係る指標等及び取るべき対策について可及的速やかに検討する」と指摘した(配布資料3「知直近の感染状況等の分析と評価」(構成員提出資料))。また同時に、イベント開催について、「大規模なイベントでは、全国的な移動を伴うこと等により、一部地域の感染リスクが拡散する可能性」を指摘していた。そして、スーパーコンピューターの富岳による「コンサートホール内近接飛沫感染リスク評価」のシミュレーションを行い、
●客席で大声を伴う場合、マスク着用に加え、隣席との身体的距離の確保が有効
●演者が歌唱(発声)する場合、
 ①舞台から客席までを2mとすることが有効、
 ②適切な換気が有効(ホールの換気設備を稼働させ、客席がない上空へ空気を循環させることがより有効)
という結論を明記した(同資料5「イベント開催制限のあり方について」)。
この提言を受けて、前述の7月23日付け「催物の開催制限」が事務連絡されている。

7月31日開催の第4回分科会では、感染状況のレベル判断の考え方が提示され「接初期機械接触機会の低減」の重要性が指摘されると同時に、ワクチン接種の考え方、経済状況の分析、COCOA活用、保健所施策と予算の要望、クラスター事例の検証などが議論された。

そして8月5日には、「お盆休みにおける帰省等のあり方について」を提言として発表した後、第5回分科会では、直近の感染状況を、
●憂慮すべき状況である
●重症者も徐々に増加しつつある
●感染経路不明の感染者の割合が高水準で推移している
●基本的な感染対策が行われていれば、近隣のスーパーでの買い物や通勤時の公共交通機関、オフィスなどで感染が拡大する状況ではない
●保健所や医療機関の対応には既に悪影響が生じており、一部地域では医療提供体制ひっ迫の懸念が見られる。
●新規感染者数を減少させるための迅速な対応が求められる状況
●十分な医療提供体制を早急に確保していく必要がある
と指摘して、「指標及び目安」を公表した(配布資料1「直近の感染状況等」)。

このように、分科会は、色々な批判や限界が指摘されつつも、状況分析とそれに基づく対策や注意・意識喚起を地道に行っている。この提言や指摘を、内閣が真摯に受け止め、課題解決を主導しているのか、またメディアが的確に報道しているのかについては、私たちも注視しなければならない。
安倍内閣が、国民目線に立ち、国民のための対策を的確かつ継続的に推進しているのか、推進する意思があるのかを見極め、私たちも、声を上げ続けていくことが必要なのではなかろうか。

(2)内閣のねらい
安倍内閣の、新型コロナウイルス感染症対応は、社会経済活動との両立が大前提となっている。それは、内閣官房に設置された未来投資会議が、7月30日開催の第42回の議事で、「新型コロナウイルスの時代、さらにその先の新たな社会像の検討」を掲げて、拡大未来投資会議の検討項目を掲げ、構成員を拡充していることに顕著である。

また、同じく内閣官房に設置された経済財政諮問会議は、7月30日の第12回会合で、金融政策と物価等に関する集中審議を、7月31日の第13回会合で、中長期の経済財政に関する試算を議論しているが、いずれも「経済財政運営と改革の基本方針2020」(いわゆる「骨太方針」)を軸に、内需喚起による経済活性化の議論に特化されている。わずかに、民間議員の提案説明の中で、竹森俊平氏(慶応義塾大学経済学部教授)が「文化・科学技術について、日本の社会や産業に欠けているのは、ホームランだと思う(中略)ホームランを打てるように変えていければ、初めて国内投資が活性化され、企業精神が芽生え、デフレ脱却の視野に入ってくるのではないか」と言及しているが、この議論も「誰もが実感できる「質」の高い経済成長の実現」と「経済・財政一体改革の着実な推進」すべきという持続可能な経済成長・財政を第一義とした認識と言える。

内閣の方向は、常に国民目線ではなく、あくまで経済優先であり、従来の議論よりも更に文化振興への意識が後景に押しやられていることは留意すべきであろう。

(3)注視すべき内閣の姿勢
周知のように、安倍内閣は、「Go Toキャンペーン」の三本柱のうち、「Go Toトラベル」を7月22日から実施した。

その一方で、イベント開催については、「基本的対処方針」の方針をすぐに変更した。「催物の開催制限」で、8月1日以降の人数上限(5,000人)の撤廃という当初の予定を見直し、
●屋内、屋外ともに5,000人以下
●上記人数要件に加え、屋内にあっては収容定員の半分程度以内の参加人数とすること。屋外にあっては、人と人との距離を十分に確保できること(できるだけ2m)
とすることを示達した。

これは、7月22日の専門家分科会と対策本部の議事を受けてのものであるが、大規模イベントに対しては、感染拡大抑止が優先され、取扱いが変更されている。特に東京都の新規感染者数が、7月2日に102人となり、以降7月8日に75人となった以外は、100人以上を記録して飛躍的に増加し、7月31日~8月1日、8月8日は400人を越えている状況は、まだ大規模イベントが解禁できる状況にないことを物語っていることは事実だろう。しかし、この状況にあってなお、内閣は「Go Toトラベル」のみを強行して実施しているのが現実である。

以上のとおり、内閣は「経済の活性化を推進していく」(安倍総理の第13回経済財政諮問会議での締めくくり発言に象徴されている。国民生活に直結する経済の健全化は重要課題であるが、「Go Toトラベル」に顕著な経済優先施策のみを推進し、新型コロナウイルス感染症の感染拡大防止や今後の感染対策、さらにその影響を受けている文化振興への視点は、一層後景に退いていることは、更に注視していかなければいけない。

2.内閣(文化庁)の対応
文化庁は、令和2年度補正予算で確定した、新型コロナウイルス感染症対策に伴う文化芸術に関する各種支援に取り組んでいる。
ただ、令和2年度補正予算による文化芸術支援は、本連載の第1回と第2回でも指摘したとおり、活動停止を余儀なくされた文化芸術活動や文化芸術団体への速やかな給付ではなく、助成や活動経費の一部補助というレベルの支援に止まっていること、更にこれからの活動への助成や補助であり、休止を余儀なくされた活動や損失への補填ではないことが最大の問題であろう。これは、日本国の文化芸術振興の現状を端的に物語っている。この現実は、令和2年度補正予算成立まで、文化庁が、新型コロナウイルス感染症の感染拡大に伴う文化芸術振興のための具体的施策を主体的に推進することなく、また補正予算成立後は、予算化された金額をいかに行使するかという場当たり対応が基本的姿勢であると捉えざるを得ないのではないか。文化庁は、果たして、実演家や実演団体、スタッフの活動が存亡の危機にあることを認識しているのか、また活動継続の危機を乗り越えられるのかという正念場に立たされていることを理解しているのか、内閣の責任が問われる状況にあることを、真摯に受け止め、考えるべきであろう。

その文化庁が所管する支援策は、次の取組みである。
まず、既に採択が公表されているのが、「文化施設の感染症防止対策事業」であり、全国の劇場・音楽堂等の732施設に総額12憶1712万5000円の補助が決定した。また実演家への最大の支援策である「文化芸術活動の継続支援事業」(予算額509億円)は、7月の第一次募集から9月の第三次募集(予定)まで段階的に申請期間を設けているが、第三次募集は行わない場合があると注記されている。7月31日に締め切られた第一次募集は、申請件数11,239件で、8月7日時点での交付決定は、272件(内訳は、標準的な取組みを行うフリーランス等向け(上限20万円)が263件、より積極的な取組みを行うフリーランス向け(上限150万円)が9件)と発表されている。まだ最終決定していない現段階でコメントするのは適切ではないかもしれないが、それにしても8月7日時点で10,000件以上の申請が寄せられているにも関わらず、決定件数が申請件数の2.4%に過ぎない現実をどのように考えればよいのであろうか。可及的速やかに支援すべきフリーランスの実演家への支援が、行き届いていないと言わざるを得ない状況である。

今後の事業は、「文化芸術収益力強化事業」(事業規模50憶円)が、8月6日に企画提案書提出期限、「生徒やアマチュアを含む地域の文化芸術関係団体・芸術家によるアートキャラバン」(事業規模13億円、運営業務は公益社団法人日本芸能実演家団体協議会)は、「ライブ・ライブ・フェスティバル(仮称)」として8月24日応募締切、「子供のための文化芸術体験機会の創出事業」(事業規模13億円)が、9月3日申請締切が発表され、それぞれに選考と実施がなされていく予定である。例えば、「文化芸術収益力強化事業」は、中・大規模な文化芸術団体を支援することを目的としている。しかしその「公募要領」によれば、採択予定件数は10件程度であり、対象は、舞台芸術等と博物館とされている。この規模で、全国で活動するオーケストラなどの中・大規模実演団体の支援となるのか、内閣の見識が問われる状況にあることは、改めて指摘しておきたい。

ちなみに、文化庁は、新規感染者増加やクラスター発生事例を受けて、7月14日に「業種別ガイドラインに即した感染防止策の徹底について」を、文化関係独立行政法人の長と、文化関係団体の長に対して事務連絡していることは、引き続き文化芸術においても感染拡大を徹底して欲しいという危機意識だろう。しかし、これもガイドラインは各業種に丸投げであり、責任の所在を曖昧にしているように感じられる。

このように、文化庁による新型コロナウイルス感染症に伴う、文化芸術に関する各種支援策は、文化芸術振興の観点からは、ほど遠い内容と言わざるを得ない。しかし、曲がりなりにも令和2年度補正予算で創出された施策が動き始めたのであるから、これらの施策が速やかに、着実に実施され、文化芸術の活動再開・継続への第一歩を踏み出す契機になることを願いたい。支援の限界はあるにせよ、ようやく歩みだした文化芸術の取組を軌道に乗せ、有意義な施策が展開することを期待するしか方策がないのが現実である。そして、存亡の危機にある文化芸術の担い手をいかに救済し、支援していくのか、更に引き続きの最大の課題として内閣が真摯に向き合い、継続して取組むことを指摘し続けなければいけない。

3.立法・政党の対応
通常国会閉会後も、立法は、新型コロナウイルス感染症や令和2年豪雨、イージスショアなどに対応している。衆議院では15ある常任委員会のうち、内閣、文部科学、厚生労働、国土交通、安全保障、予算の各委員会が1回づつ、参議院では18ある常任委員会のうち、内閣、外交防衛、文教科学、厚生労働、経済産業、国土交通、予算の各委員会が1回づつと、決算委員会が2回、開催された。
衆議院では、7月15日の第29回予算委員会で、日本維新の会の杉本和巳議員が、業種別ガイドラインにおける施設の利用制限等を見直す必要性について、7月22日の衆院文部科学委員会では、公明党の浮島智子議員が、新型コロナウイルス感染症拡大の影響を踏まえた文化芸術関係者への支援について質問した。
参議院では、7月16日の閉会後第1回予算委員会で、日本維新の会の片山大介議員が、イベントにおいて収容人数の50%まで入場を認める措置のエビデンスについて、また7月22日の閉会後第1回文教科学委員会では、自由民主党の赤池誠章議員が、新型コロナウイルス感染症の流行により、新しい日常が要求されること等を踏まえた文教科学行政の中期的展望の質問で、スポーツ政策と文化政策の見通しと支援を、また日本共産党の吉良よし子議員が、新型コロナウイルス感染症の影響を受けた文化芸術活動への支援の在り方について、質問した。

特に、衆院文科委員会では、浮島議員の質問に対し、萩生田文部科学大臣は、
「このような困難な時期にこそ、人々に勇気や希望を与える文化芸術活動の再開、継続、発展を力強く支援していくべきと考えておりまして、報道などでも、同じような舞台関係者の皆さんが、やはりきちんとみんなでつくったルールを守ることが大事で、こういった逸脱した行為があったことで舞台関係者の皆さんへ新たな萎縮を与えるようなことがあってはならないということは、繰り返し我々も申し上げているところでございます。」
と答弁している。ぜひ、内閣と立法がこの意識を真摯に共有し、文化芸術の振興に対する支援と、自主性の尊重に向き合っていくことを望みたい。

このように、立法は、引き続き、与野党の枠組みを超えた超党派で、文化芸術への支援と活動再開への道筋について、内閣を鋭く追及している。閉会中審査という限られた国会の場ではあるが、与野党が文化芸術の支援を真剣に考え、議論し、大臣や政府参考人(文化庁次長)の答弁を引き出し、政策に反映させていることを私たちも正視し、受け止め、評価し、協調していくべきである。そして、この立法のスタンスには、文化芸術関係者の立法への懸命な、積極的な働きかけがあってのことであることも認識すべきである。

もっとも、この立法の取組みが、正確に報道され、理解されているかは疑問が残る。例えば、朝日新聞は、令和2年度第二次補正予算について、次のように報じた。
「二次補正には、結果として文化芸術・スポーツ関係者向けに総額560億円の支援策が盛り込まれた。衆院中堅は「芸能人対策もあった」。党関係者は「政権への批判を回避するため、公金を積んだと言われても仕方ない」と自嘲する」
(8月6日付け朝日新聞東京本社版「SNSに批判 続く法案断念 長期政権の果てに 自民党のいま(4)世論」)

しかし、この衆院中堅の意識は一面的であること、文化芸術関係者の切迫した危機意識とその意識を懸命に吸い上げ、国会の場で議論して結実したのが、令和2年度補正予算の文化芸術支援だったことは、本稿の連載でも明らかにしているとおりである。この誤解を招きかねない言説を述べる議員や、その言説だけを取上げて報じるメディアの姿勢もまた、批判すべきであろう。

4.音楽界の動き
7月中旬以降の音楽界では、演奏会が再開されると同時に、各業種別ガイドラインの拡充や、活動再開・継続に向けた検証実験など、具体的な取組みが着実に進行している。

音楽界のトピックとして特筆すべきは、活動再開・継続に向けた取組みである。
7月11~13日に、クラシック音楽公演運営推進協議会と一般社団法人日本管打・吹奏楽学会は、「「#コロナ下の音楽文化を前に進めるプロジェクト」について~クラシック音楽演奏会・音楽活動を安心して実施できる環境づくり~」について検証実験を行った。
また一般社団法人全日本合唱連盟も、合唱活動における飛沫検証実験を8月23日に実施することを発表している。
これらの検証実験の結果が、演奏活動に反映され、活動継続の端緒となることを切に願うものである。

また、特筆すべきは、7月31日に東京芸術劇場で開催された「コン・コン・コンサート2020」で合唱演奏活動を再開し、8月6日には第一生命ホールで開催された「林光メモリアル 東混八月のまつり41」と、立て続けにホールにハーモニーの響きを復活させた東京混声合唱団の取組みだろう。東混は試行錯誤を重ねた結果、歌唱演奏が可能な「歌えるマスク」を開発し、このマスクを着用して演奏会を開催した。「東混マスク」着用でも、言葉の訴えは明晰であり、新型コロナウイルス感染症という状況下での合唱演奏の課題を見事に克服していることは、大いに評価したい。

音楽界は、実演家や実演団体、スタッフが総力を挙げて、演奏活動再開と継続に向けた、検証や試行を継続している。ホールや劇場も、人数制限を余儀なくされる状況下であるが、ホールでのライブの響きが復活していること、そのために必死の懸命の努力が続けられていることに感謝しつつ、この取組みや行動を、引き続き支援し、活路を見出していくことが、私たち一人ひとりの使命である。

◆おわりに
内閣による取組みが不毛の中で、立法の地道な働きかけや、地方公共団体による地域の特性に応じた注意喚起が継続する中で、文化芸術の活動が再開されつつある。
それは、実演家、実演団体、スタッフといった関係者の懸命の努力と願いが結実している。
引き続き、先行きの見通せない中ではあるが、プロやアマチュア、ジャンルの垣根を越えて横の連携を図り、取組みを深化させていく必要がある。その積み重ねが、今後の芸術文化振興の鍵となるのではなかろうか。
(2020年8月12日脱稿)

(2020/8/15)

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戸ノ下達也(Tatsuya Tonoshita)
1963年東京都生まれ。立命館大学産業社会学部卒。洋楽文化史研究会会長・日本大学文理学部人文科学研究所研究員。研究課題は近現代日本の社会と音楽文化。著書に『「国民歌」を唱和した時代』(吉川弘文館、2010年)、『音楽を動員せよ』(青弓社、2008年)、編著書に『戦後の音楽文化』(青弓社、2016年)、『日本の吹奏楽史』(青弓社、2013年)、『日本の合唱史』(青弓社、2011年)、『総力戦と音楽文化』(青弓社、2008年)など。演奏会監修による「音」の再演にも注力している。第 5 回JASRAC音楽文化賞受賞。
7月29日に、㈱ハンナより、ヴィタリ・ユシュマノフとの共著『ヴィタリ~人生って不思議なものですね~ 日本の「うた」に魅せられたロシア人歌手』を刊行。