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12人の優しい日本人を読む会|齋藤俊夫

12人の優しい日本人を読む会~よう久しぶり!オンラインで繋がろうぜ~

Reviewed by 齋藤俊夫(Toshio Saito)

<脚本>
三谷幸喜

<キャスト>
1号…甲本雅裕
2号…相島一之
3号…小林隆
4号…阿南健治
5号…吉田羊
6号…近藤芳正
7号…梶原善
8号…妻鹿ありか
9号…西村まさ彦
10号…宮地雅子
11号…野仲イサオ
12号…渡部朋彦
守衛…小原雅人
(特別出演)…三谷幸喜

<スタッフ>
演出:冨坂友
管理人:妻鹿ありか
発起人:近藤芳正
ピアノ演奏:佐山雅弘
バリアフリー日本語字幕制作:特定非営利活動法人シアター・アクセシビリティ・ネットワーク(TA-net)

 

『12人の優しい日本人』とは三谷幸喜が30年ほど前に劇団「東京サンシャインボーイズ」のために書いた戯曲であり、筆者は映画版(1991年中原俊監督作)で見たことがある。映画版とは少々脚本が異なるようだったが、執筆に当たってその詳細を確認することができなかったことはご容赦願いたい。
今回は、1992年東京サンシャインボーイズ公演のキャストを中心に集まった12人の有志が、5月6日に前後編に分けて朗読劇を「生配信」し、筆者はその録画アーカイヴをYouTubeで無料公開したものを視聴した。

戯曲の粗筋は、とある〈殺人事件〉に当たって、〈陪審員制度が取られている日本〉で、〈いかにも典型的日本人な〉人々が、付和雷同したり自分の意見に固執したり言葉尻を捉えて口論したり敵味方に分かれたりして、てんやわんやの議論の末に大団円を迎える、というものである。

本稿は脚本については置いておいて、「映画」とは異なる〈3かける4=12マスに分かれた役者の顔の同時映像〉という「映像作品」としての本作の特徴について述べてみたい。

12人全ての登場人物が平等に映り続けるという映像作品は正直初めて見たのだが、筆者は見ていて非常に〈目が疲れた〉のである。20分くらいおきに休憩を入れつつ最後まで見終えた。この疲労はどこに由来するのであろうか?
それは、この動画では誰がどのような流れで発言するかがほとんどわからず、常に同時に12人全員の顔に注目していなければならないことによるだろう。例えば、劇の序盤で飲み物をオーダーする場面など、各自がほぼ好き勝手に発言するので、筆者の目玉は画面上での発言者を追うのにてんやわんやとなり、あたかもシューティングゲームで弾除けをするかのような状況を呈した。だが、終盤に近づいて劇の流れが整い、誰がどのように発言するかが大体予測できるようになると目の疲労は軽減されていった。
映画ならば、「絵コンテ」というものがあり、ショットごとシーンごとにどこに〈画像の焦点〉つまり、画像のどこの誰(何)を見せたいかの視点誘導があるのだが、本動画にはそれがない。従って12マス全部を一度に見つつ、発言ごとにその発言者を見つけねばならなくなる。
この目の疲労は映像作品としての否定的な点の1つとも思えるが、12人全員の顔が常に見られるということの肯定的な側面にこそ注目したい。ある1人が議論に参加せずにずっと下をむいている、ある1人がすねてしまってずっとそっぽを向き続けるのを映し続けることなど、他の映像形態では不可能であろう。そのような「脇役」的存在だった人物が一言で議論を一転させて「主役」的存在になるというスリリングな展開が続く、12人全員が平等で、定まった「主役」のいないこの群像会話劇にはうってつけの映像形態でもあった。また、筆者のように発言者、主役、〈画像の焦点〉を追うのではなく、ある人物をずっと見続けるという、映画とは異なった視聴アプローチ(これはゲームにも似ている気がする)も本動画は可能にする。一流の役者の顔と声の芸をこれだけ〈間近〉で見続けられるという機会はこれまでなかったのではないか?
さらに、先に筆者が体験した目玉のてんやわんやも、本作の作劇法としての意図的なてんやわんやとして捉えることもできる。12人皆が好き勝手いい加減な陪審員としてバラバラな状態から、次第に議論に集中してそれが収束していくのが、先述の通り、筆者には序盤と終盤の目の疲労加減の差として体験できたのではないだろうか。そして最後の大団円でこの疲労感は達成感に変わった。

今後の課題は、「そちらの方、発言どうぞ」と言った時の「そちらの方」がどちらを指しているのかわからない、「そちらから順番にいきましょう」と言ったときの「順番」がわからない、ある人が他の誰かに話しかけているときの聞き手が誰なのかわからない、といった、位置と方向のような空間情報が必要とされるときの混乱を、いかに演出で収めるかにかかっていると筆者は見た。今回もグラスの手渡し(勿論役者は遠距離にいるのでそのグラスは別物である)などで補っていたが、もっとこのようなことを意識的に取り入れればこの映像形態の「映像作品」としての完成度はさらに上がっていくだろう。

今回の企画主旨は「どんなに、ぐだぐだになっても最後まで続ける。」コレです。

とホームページにはあるが、どこにもぐだぐだな所を見つけることのできない、集中力に満ち、見るものを惹きつけ続ける見事な芝居、いや、映像作品であった。コロナ禍の中でのこの旺盛な創造力に敬意を払いたい。

(2020/6/15)

特設サイト:https://12nin-online.jimdofree.com/
配信動画(5月末日で終了):https://www.youtube.com/watch?v=3e2aKThmhXM (前編)
               https://www.youtube.com/watch?v=ZDagy7MmFhY (後編)