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砂川涼子 ソプラノ・リサイタル|藤堂清

砂川涼子 ソプラノ・リサイタル
Ryoko Sunakawa Soprano Recital

2019年12月5日 紀尾井ホール
2019/12/5 Kioi Hall
Reviewed by 藤堂 清(Kiyoshi Tohdoh)
Photos by 林 喜代種 (Kiyotane Hayashi)

〈出演者)        →foreign language
ソプラノ:砂川涼子
ピアノ:園田隆一郎
バリトン:上江隼人(*)

〈曲目)
ヴィヴァルディ:歌劇《ジェスティーノ》より〈喜びをもって会おう〉
ヴィヴァルディ:歌劇《ポントの女王アルシルダ》より〈私はジャスミンの花〉
ヘンデル:歌劇《セルセ》より〈喜び満ちて小川は〉
ヘンデル:歌劇《リナルド》より〈なんて素敵な喜び〉
中田喜直:さくら横ちょう
別宮貞雄:さくら横ちょう
ドナウディ《古典様式による36曲のアリア》より
  私は望みを失ってしまった
  いつかまた君に逢えるだろうか
  私は心に感じる
ロッシーニ:《ヴェネツィアの競艇》
競艇前のアンゾレータ
競艇中のアンゾレータ
競艇後のアンゾレータ
———————(休憩)——————
モーツァルト:歌劇《フィガロの結婚》より〈おいでください、膝をついて〉
ドニゼッティ:歌劇《ドン・パスクワーレ》より
  〈準備はできたわ〉(砂川、上江)
  〈天使のように美しい〉(上江)
グノー 歌劇《ファウスト》より〈ああ、私が微笑んでいるのが見えるわ〉(宝石の歌)
ビゼー 歌劇《カルメン》より〈恐くないと言ったけれど〉
プッチーニ 歌劇《ラ・ボエーム》より〈あなたの愛の呼ぶ声に〉
プッチーニ 歌劇《トゥーランドット》より〈氷のような姫君の心も〉
——————-(アンコール)—————
ヴェルディ 歌劇《ラ・トラヴィアータ》より第二幕第一場 ヴィオレッタとジェルモンの二重唱

 

藤原歌劇団のソプラノ砂川涼子が、初CDリリースを記念しリサイタルを行った。
《トゥーランドット》のリュー、《ラ・ボエーム》のミミ、《カルメン》のミカエラといった彼女が持役とする得意のオペラ・アリアのほか、ヴィヴァルディ、ヘンデルのオペラから、ロッシーニの《ヴェネチアの競艇》、日本歌曲など多彩なプログラムが歌われた。
ピアノは、彼女との共演も多い、指揮者の園田隆一郎が担当。《ドン・パスクワーレ》の二重唱では若手のバリトン上江隼人が賛助出演した。

ヴィヴァルディのアリア〈喜びをもって会おう〉、出だしのゆったりとした美しい響きに惹きつけられた。力みのない声が自然にホールをうめる。二曲目の〈私はジャスミンの花〉も、ていねいな歌い方ではあるが、少し弾みがほしいところ。
続くヘンデルの二曲は選曲に驚かされる。《セルセ》であれば〈オンブラ・マイフ〉、《リナルド》であれば〈涙の流れるままに〉という定番があるが、それを避け別の曲を取り上げた。最初のアリアは彼女の声にあった役のもの、明るく歌いあげる。細かな音の動きをより精緻にという気もするが、今後の課題となるだろうか。どちらもイタリア語の美しさがきわだち、気持ちよく聴けた。

つづくプログラムは歌曲。
最初は中田喜直と別宮貞雄が加藤周一の詩に作曲した〈さくら横ちょう〉。この詩への付曲は多いが、この二人の作品はよく取り上げられる。続けて聴くと、作曲家の感性の違いがわかり面白い。砂川の日本語は自然にからだにしみこんでくる。
ドナウディは20世紀に活躍した作曲家だが、この作品は良く知られた「イタリア古典歌曲」を模したもの。彼女ののびやかな歌声がよく合う。
ロッシーニの《ヴェネツィアの競艇》、レースに出て勝利した恋人への気持ちをそれぞれの場面で歌うもの。砂川の歌い分けが楽しい。

後半はオペラの世界。
《フィガロの結婚》からスザンナのアリアといえば第4幕のものを思い浮かべるのが普通だろう。ここで歌われたのは第2幕でケルビーノを着替えさせる場面の〈おいでください、膝をついて〉。仏頂面の小姓を前に、女性二人がうなづきあっている舞台がみえるよう。園田のピアノの情景描写の巧みなこと。
《ドン・パスクワーレ》からノリーナとマラテスタの二重唱〈準備はできたわ〉は演技をつけて歌う。びわ湖ホールで実績があるからか、余裕の舞台。
《ファウスト》、《カルメン》とフランス語のアリアをはさみ、最後の二曲は劇場で歌ったことのあるもの。《ラ・ボエーム》からは第3幕の〈あなたの愛の呼ぶ声に〉という選択に、またにやり。
どのオペラ・アリアでも、”砂川”ではなく、その役にサッとなりきれるところがすごい。

アンコールでは歌手二人が登場、さて何をと思ったら、《ラ・トラヴィアータ》の第二幕第一場、ジェルモンの”二人の子どものために”から始め、二重唱の最後まで。熱気あふれる歌と演技。コンサート全体の印象がこれに持っていかれた感があった。

CD発売を記念してと銘うってはいたものの、そこに収録されていない曲も入れたプログラム。リサイタル全体として現時点での砂川の集大成といってよいだろう。
今後という意味では、日本歌曲、バロック・オペラなどへのさらなる挑戦を期待したい。

(2020/1/15)

—————————————
<Performers>
Soprano: Ryoko Sunakawa
Piano: Ryuichiro Sonoda
Bariton: Hayato Kamie(*)

<Programme>
A.Vivaldi:”Giustino”, Vedro’ la mia diletto
A.Vivaldi:”Arsilda, regina di Ponto”, Io son quel gelsomino
G.F.Handel:”Serse”, Va godendo vezzoso e bello
G.F.Handel:”Rinaldo”, Bel piacere
Y.Nakada: Sakura Yokocho
S.Bekku: Sakura Yokocho
S.Donaudy: 36 Arie di Stile Antico
  Perduta ho la speranza
  Quando ti rivedro
  Sento nel core
G.Rossini: La Ragata Veneziana
  I. Anzoleta avanti la regatta
  II. Anzoleta co passa la regatta
  III. Anzoleta dopo la retatta
—————Intermission—————-
W.A.Mozart:”Le Nozze di FIgaro”, Venite inginocchiatevi
G.Donizetti:”Don Pasquale”, Pronto io son (Sunakawa, Kamie)
G.Donizetti:”Don Pasquale”, Bella siccome un angelo (Kamie)
C.Gounod:”Faust”, Ah, je ris de me voir
G.Bizet:”Carmen”, Je dis, que rien ne m’epouvante
G.Puccini:”La Bohème”, Donde lieta uscì
G.Puccini:”Turandot”, Tu, che di gel sei cinta
——————-Encore——————
G.Verdi:”La Traviata”, D’Alfredo il padre~Pura siccome un angelo
           ~Siate felice Addio! (Sunakawa, Kamie)