パーヴォ・ヤルヴィ&N響 オペラ《フィデリオ》 演奏会形式|大河内文恵

パーヴォ・ヤルヴィ&N響 オペラ《フィデリオ》 演奏会形式
L.v.Beethoven: Fidelio (concert style)

2019年9月1日 Bunkamuraオーチャードホール
2019/9/1 Bunkamura ORCHARD HALL
Reviewed by 大河内文恵(Fumie Okouchi)
Photos by 林喜代種(Kiyotane Hayashi)

<演奏>        →foreign language
パーヴォ・ヤルヴィ(指揮)

ドン・フェルナンド:大西宇宙
ドン・ピツァロ:ヴォルフガング・コッホ
フロレスタン:ミヒャエル・シャーデ
レオノーレ:アドリアンヌ・ピエチョンカ
ロッコ:フランツ=ヨーゼフ・ゼーリッヒ
マルツェリーネ:モイツァ・エルトマン
ジャキーノ:鈴木 准
囚人1:中川誠宏
囚人2:金子宏

合唱指揮:冨平恭平
合唱:新国立劇場合唱団

管弦楽:NHK交響楽団

 

Bunkamuraの40周年記念とベートーヴェン生誕250周年記念(正確には生誕250年は2020年)として上演された、ベートーヴェンのオペラ《フィデリオ》。その2日目の公演を聴いた。

ベートーヴェンが唯一完成させたオペラである『フィデリオ』はそのストーリーから、当時フランスで流行していた「救済オペラ」として文脈で捉えられがちであるが、その一面だけで語ることのできるオペラではないことを実感させる演奏だった。

序曲は、さすがパーヴォ&N響と思わせる快活で生き生きとした演奏。快速ながら締めるところはきちんと締め、もうこの序曲だけでもすでにBravoが出そうな勢い。歌手が入ってきて本篇が始まると、従来わりと平板な印象だったオーケストラ伴奏が、ときにモーツァルトのオペラっぽく聞こえたり、ベートーヴェン特有の、長調が続く中で突然短調の和音が飛び込んでくるなど、意外と面白く書かれていることが感じられた一方、歌手との連携がうまくいかず、微妙なずれがしばしば生じるのが気になった。

第6曲の行進曲でいったん持ち直し、第8曲のピツァロとロッコの二重唱。ピツァロ役のコッホとロッコ役のゼーリヒはともに今回の芝居上手メンバーの上位2人で、ドイツ語が心地よく、丁々発止の掛け合いが絶妙なのだが、歌の部分になるとオーケストラと合っていないのが非常に残念だった。

やはり普段からオーケストラ・ピットに入り慣れているオーケストラでないと、いくらN響とはいえ、歌手と合わせるのは難しいのだろうかと考え始めた直後、第9曲でレオノーレ役のピエチョンカが歌い始めて驚いた。今日初めてオーケストラとぴったり合った歌を聞いた。オケと歌が合うかどうかは、オーケストラや指揮者の技量の問題のように考えてしまいがちだが、じつは鍵を握っているのは歌手のほうなのではないか。当然のように、このアリアの終わりには大きな拍手が沸き起こった。

『フィデリオ』は、レチタティーヴォとアリアのほかに台詞の場面が多くあり、ジングシュピールの一種に数えられる。今回のキャストはメインキャストにドイツ人が多いこともあり、ドイツ語が達者で芝居上手な歌手が多かったことから、芝居の場面が非常に楽しめた。一般にオペラの第1幕は、人物と設定の紹介に大半が費やされるためにあまり心惹かれないことが多いのだが、軽妙なやり取りに時間を忘れてしまった。

『フィデリオ』は3稿あり、3幕構成の第1稿から、その第1幕・第2幕を合わせて1幕とした2幕構成の第2稿になり、第3稿では第1幕の冗長さを解消すべくベートーヴェンは苦心した。その成果を前面に出した上演だったと言えるだろう。

第1幕のフィナーレは囚人たちの合唱から始まる。「小声で話せ」の部分の囁く声が秀逸。その後それを何度も繰り返すことによって、さらに切迫感が真に迫って聞こえた。

第2幕はレオノーレ序曲第3番で幕を開けた。『フィデリオ』の序曲は実際には使われなかったものも含めて4曲存在するが、その中で第2稿のために作曲されたのがこの第3番である。こちらも名演で、拍手が沸いた。この序曲も含め、第2幕では舞台裏でのトランペットが効果的に使われていた。2幕になると、ストーリーは一気呵成に進み、それにぐいぐい引っ張られてあっという間にフィナーレ。

フィナーレには再び合唱が入り、ここで『第九』によく似た響きが聴こえる。それはオクターヴの跳躍や3度や5度の下行音程、説教臭い歌詞、ソリストの入りの感じなど、私たちがおよそ「第九」的と感じるあらゆる要素が詰め込まれている。『フィデリオ』第3稿の初演が1814年、その翌年には『第九』の初演と、この2つの作品が非常に近い時期につくられたことを考えると、『フィデリオ』の成功が『第九』のベースになったのかもしれないと思われた。

「終わりよければすべて良し」という言葉がぴったりなエンディング。こんなハッピーエンドで幸せな気分になって帰ることができるオペラだったのかと、改めてこの作品を見直した。牢獄とか救出といったキーワードから「暗い」オペラとして敬遠されがちだった『フィデリオ』だが、これを機にもっと上演されてもよいのではないかと思いながら帰途についた。

(2019/10/15)

—————————————
<Performers>
Conductor: Paavo Järvi

Don Fernando: Takaoki Onishi
Don Pizarro: Wolfgang Koch
Florestan: Michael Schade
Leonore:Adrianne Pieczonka
Rocco: Franz=Josef Selig
Marzelline: Mojca Erdmann
Jaquino: Jun Suzuki
Erster Gefangener: Masahiro Nakagawa
Zweiter Gefangener: Hiroshi Kaneko

Chorus Master: Kyohei Tomihira
Chorus: New National Theatre Chorus

Orchstra: NHK Symphony Orchestra, Tokyo