オペラシアターこんにゃく座公演 林光歌劇場2019 オペラ『ふしぎなたまご』『おじいちゃんの口笛』|齋藤俊夫

オペラシアターこんにゃく座公演 林光歌劇場2019 オペラ『ふしぎなたまご』『おじいちゃんの口笛』
Opera Theater Konnyakuza
Hikaru Hayashi Memorial Opera Performance 2019
Opera ‘The Mysterious Egg’ and Opera ‘The Grandfather’s Whistle’

2019年9月15日 俳優座劇場
2019/9/15 Haiyuzagekijou
Reviewed by 齋藤俊夫(Toshio Saito)
Photos by 和久井幸一(Koichi Wakui)/写真提供:オペラシアターこんにゃく座

オペラ『ふしぎなたまご』        →foreign language
原作:カレル・チャペック(林和加子訳による)
台本・作曲:林光

オペラ『おじいちゃんの口笛』
原作:ウルフ・スタルク(訳:菱木晃子 ホルプ出版刊「おじいちゃんの口笛」より)
台本:広渡常敏

作曲:林光

<スタッフ>
演出:加藤直
美術:池田ともゆき
衣裳:武田園子
振付:白神ももこ
舞台監督:八木清市
舞台監督助手:松村若菜
音楽監督:萩京子
演出助手:小林ゆず子
宣伝美術:小田善久(デザイン)伊波二郎(イラスト)

<出演>
『ふしぎなたまご』
ホジェラ巡査 など:高岡由季
アミナ王女 など:飯野薫
大家 など:西田玲子
トルチナ など:髙野うるお
ポウル、保健所の役人、魔法使いボスコー など:島田大翼
銀行の課長 など:沢井栄次

『おじいちゃんの口笛』
ウルフ:沖まどか
ベッラ:熊谷みさと
ニルス:大石哲史
トーラ:梅村博美
コロス:白石静香
コロス:花島春枝
コロス:泉篤史
コロス:北野雄一郎

ピアノ:五味貴秋(9/12・14・16・17夜)
入川瞬(9/13・15・17昼・18)

 

最近、「学芸会的」という単語を知った。「日本のオペラ歌手の所作は本場に比べてどうにも学芸会的だ」といったように貶す言葉のようだが、果たして、こんにゃく座のオペラ、特に今回の『ふしぎなたまご』にとってこの「学芸会的」という単語は蔑称になるだろうか?

『ふしぎなたまご』の粗筋は「他愛も無い」ものである。

道端に大きな卵が転がっていて皆がいぶかしんでいるので、巡査がそれを署に運ぶ。そうすると卵の中から7つの首を持つ竜が生まれてくる。警察も動物園も保健所も大学やらも皆それを引き取らない。だがトルチナさんという親切な人は竜を哀れに思って家に連れて帰る。そうするとトルチナさんは変人として家の大家に追い出され、職場の上司にもクビを言い渡される。それでも竜と一緒に居ることをトルチナさんが選ぶと、竜にかかっていた魔法がとけて王女様が現れ、最後は皆で「愛」の素晴らしさを合唱して終わる。
ギリシア神話劇を母体として生まれたオペラからこのようなものが生まれるとは、400年以上昔の西洋人には想像できたであろうか?もちろん、オペラにはメルヘン・オペラというジャンルがあることは承知だが、それにしてもこの徹底的な「他愛も無さ」の愛らしさは「学芸会的」なこんにゃく座でなければ実現できないものだ。
また、こんにゃく座的には「ソング」の総称で良いのだろうか、独唱、合唱、歌ではない台詞がどれも実にこれまた愛らしいことこの上ないのである。学芸会的かつ「絵本的」オペラとも言い得るだろう。
絵本というものは実に不思議なものである。小さな子供が熱心に見つめるそれには粗筋や構造といったものは必要ない。だが絵本にしかない魅力(それが何なのかはわからないが)があれば、名作は幾世代にも渡って読まれ続ける。そんな、(やや陳腐な物言いではあるが)童心に帰ることができる「学芸会的オペラ」であった。

『おじいちゃんの口笛』、これもやはり伝統的オペラとは全く異なる粗筋と主題とメッセージを持ち、滋味に満ちた「こんにゃく座のオペラ」であった。
粗筋は……いや、これこそ粗筋がほとんどないオペラではあるまいか。あるのは音楽と一体となった「情景」群である。昔の美しい邦画の中にあった目に焼き付く情景と同種のそれである。
子供が2人シーソーで遊んでいる。その1人が、おじいちゃんに会うと5クローネを貰えると言う。もう1人が、自分にはおじいちゃんがいないと応える。2人はおじいちゃんがたくさんいる所、すなわち老人ホームへ行く。そこで見知らぬおじいちゃんに「自分のおじいちゃん」になってもらう。おじいちゃんの友人のおばあちゃん(おじいちゃんの奥さんは早くに亡くなり、息子たちは戦争で死んだ)と4人で凧を挙げたり、桜の木に登ってサクランボを採って食べたりして遊ぶ。そしておじいちゃんは死んでしまう。
物語としての構造といったものはない。だが、オペラ内のこれら全ての情景(それはコロスや口笛も含む)が愛おしい。自分の人生には何もなかったと笑うおじいちゃんが、自分で木登りをして採ったサクランボを食べ、若い頃の流行歌「ヨハンナの歌」(ヨハンナとは奥さんの名前でもあった)を歌いながら、もういないヨハンナ奥さんとダンスを踊る情景の哀しいまでの美しさ。大石哲史の、演技なのか自然となのかわからないが、涙が喉につまるようにして歌うその歌声より温かいものを評者は聴いたことがない。
おじいちゃんが死んだ後も、子供たちは笑いながらシーソーで遊んでいる。そこで溶暗した時にこみ上げる感動。それは人間の真実、飾りのない真実に触れた感動であろう。

人間として生きるとは、愛し、笑い、幸せになることなのだと。

(2019/10/15)

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Opera ‘The Mysterious Egg’
Original:Karel Čapek(translated by Wakako Hayashi)
Libretto and composer:Hikaru Hayashi

Opera ‘The Grandfather’s Whistle’
Original:Ulf Stark(translated by Akirako hishiki)
Libretto:Tsunetoshi Hirowatari
Composer:Hikaru Hayashi

Stage director:Tadashi Kato
Art director:Tomoyuki Ikeda
Costume:Sonoko Takeda
Lighting:Shigeo Saito Shigeo
Choreography:Momoko Shiraga
Stage manager:Seiichi Yagi
Assistant stage maneger:松村若菜
Music director:Kyoko Hagi
Assistant director:Yuzuko Kobayashi
Advertisement:(Design)Yoshihisa Oda / (Illustration)Jirou Iha

<cast>
Opera ‘The Mysterious Egg’
ホジェラ巡査 など:Yuki Takaoka
アミナ王女 など:Kaoru Iino
大家 など:Reiko Nishida
トルチナ など:Uruo Takano
ポウル、保健所の役人、魔法使いボスコー など:Daisuke Shimada
銀行の課長 など:Eiji Sawai

Opera ‘The Grandfather’s Whistle’
ウルフ:Madoka Oki
ベッラ:Misato Kumagai
ニルス:Satoshi Oishi
トーラ:Hiromi Umemura
コロス:Shizuka Shiraishi
コロス:Harue Hanashima
コロス:Atsushi Izumi
コロス:Yuichiro Kitano

Piano:Takaaki Gomi(9/12・14・16・17night)
   Shun Irikawa(9/13・15・17noon・18)