Menu

川島素晴 works vol.3 by 双子座三重奏団|西村紗知

川島素晴 works vol.3 by 双子座三重奏団
Kawashima Motoharu works vol.3 by Gemini Trio

2019年9月5日 豊洲シビックセンターホール
2019/9/5 Toyosu Civic Center Hall
Reviewed by 西村紗知(Sachi Nishimura)
Photos by ささきしおり、平井洋

<演奏>        →foreign language
双子座三重奏団:曽我部清典(トランペット)、中川俊郎(ピアノ)、松平敬(バリトン/パフォーマンス)
川島素晴(指揮/パフォーマンス)

<曲目>
ポリプロソポス IIb (2000) [曽我部]
インヴェンションIII「発話と模倣の可能性」(2004) [松平/曽我部/中川(talking drum)]
ピアノのためのポリエチュード「ポリポリフォニー」(2007) [中川]
インヴェンションVb (2006/08) [松平/曽我部/中川]
Das Lachenmann II (2006/08) [松平/曽我部/中川]
cond.act/konTakt/conte-raste IVb (2009/19/初演) [曽我部/中川/松平&川島(cond.actor)]
HACTION MUSIC II (2015) [松平&川島(パフォーマンス)]
カードゲーム《ジェミニ》(2018) [松平/曽我部/中川]
山羊座のモトハルと双子座のピペットン(2019/初演)[松平/曽我部/中川/川島(指揮)]

 

我々があの日見たのは、彫刻だったろうか。

「私は彫刻です」――筆者の聞き間違い、記憶違いでなければ、これが最後のシアターピースで川島素晴と双子座三重奏団が発した締めの一言である。最後になんと言って終わるつもりなのか、じっと見つめてたらそれだ。一瞬真顔になった。
自らを、刻み彫られるようにして力動的につくられていくような、ある種受動的な存在であるに過ぎないと伝えて演奏会を閉じるのは、やはりどこか観客の鼻を明かした感がある。双子座三重奏団の三人だけが言うのならまだわかる。なぜ仕掛け人である川島までそれを言うのだろう。川島は彫刻家の方ではないのか。深刻さはもちろんのこと、政治的意図や、あまつさえ意味そのものさえも棄却するような身振りに、さらに加えてそこに主体性はないのだとまで言われてしまったとしたら、さすがにどうしたものか。
なぜそんなことを最後に言ったのだろう。ふと、「書かれた音楽の所在を目視せよ」という要請を、彫刻という言葉から受け取れるように思った。今日のパフォーマンスはおしなべて即興演劇のようであったけれども、それらはすべて音楽だったのだと。それも、あらかじめ書かれた――音楽における身体性を書きながら探った結果としての――音楽だったのではなかろうか。
ここでは、身体表現や即興性は追求の対象とはならない。身体や即興が目的化するや否や、いよいよインプロと変わり映えしないものとなってしまう。そうではなく、身体表現は拡張された音楽の素材だ。しかしながら、元々音楽の素材でないものを音楽の担い手として取り込むのであるから、諸々ひっくるめて音楽として提示するために、帰属先としての書かれた音楽が必要となる。いかにも音楽を音楽たらしめているもの、例えば定型的な形式感が、身体を音楽として迎え入れてくれていたように思える。素材と形式が調和する。それだから奇妙なことに、新しいものを見ているのか古いものを聞いているのか、わからなくなる瞬間もあったのだった。

それぞれ譜面台と共に一台ずつセットされた、ピッコロトランペット、スライドトランペット、そしてナチュラルトランペットを順番に吹いて回り、だんだんそれらの吹奏の間隔が狭くなって、やがてゼフィロス(バルブ+スライドトランペット)でのソロに至るというのが「ポリプロソポス IIb」の内容。発話の要素はなく、芝居らしさもあまりないこの作品は、この日の中で最も純粋な器楽作品に近い。しかしこの作品にはテンポがないのであるから、ピッコロトランペットのジャズの即興パートのような音型や、スライドトランペットのぐにゃぐにゃした分節化の曖昧な音型とが、人間の発話を模倣しているように聞こえる。視覚的にもどことなくインスタレーションめいたとこがあり、舞台での演奏というよりギャラリーでのパフォーマンスといった感が強い。

撮影:ささきしおり

館内放送、時報、政治的アジテーション、石焼きいも、電車の車掌、野球中継など、生活で耳にする様々な音を徒然と模倣する「インヴェンションIII」。松平が発話し、曽我部のトランペット、中川のトーキングドラムがこれを模倣する。それら現実の出来事が彼らのうちに取り込まれ、マッシュアップされていく。現実の出来事が意味から弾き剥がされ、意味が意味をなさなくなっていくことの快感を覚える。

撮影:ささきしおり

ピアノソロの作品「ポリポリフォニー」は、ニュース番組の音楽のような軽快なカプリッチョのようではあっても、そのうち体をポリポリ掻き毟る若干病的な動作が挿入されるようになり、最後の方ではその動作の方が優勢となる。美しいパッセージが掻痒に置き換わるのだ。綺麗は汚い、汚いは綺麗。

撮影:ささきしおり

「パンパン」「スースー」「パスタ」「スーパースター」といったように、なかば機械的にシラブルが生成されていく「インヴェンションVb」。ここでも言葉がひたすら音声情報処理を施され、変奏の原理に転じている。

タイトル通り、笑い声を素材とする試みが「Das Lachenmann II」。この作品は、シュプレヒゲザングを先祖にもつように聞こえてしまう。あるいは、オペラの歌唱においてしばしば取り入れられる、あの笑い声を思い起こさせる。全体を通じて、オペラ「こうもり」のようにしっちゃかめっちゃかした感じ。この喧騒は、休憩時間にまで突入する。ピアニストだけ、スタッフが片づけをしているのに、まぁ捌けないこと。

撮影:ささきしおり

「cond.act/konTakt/conte-raste IVb」では、川島と松平がそれぞれ指揮者に扮して、なんやかんやでバトルする。当然、彼らの紛争に演奏者も戸惑いつつ巻き込まれて、結果的に4人で、視覚聴覚入り混じったへんてこなアンサンブルを展開する。

撮影:ささきしおり

「HACTION MUSIC II」は、これもまた川島と松平による対決、今度は彫刻ゲームである(この演奏会で最初に彫刻という言葉が出たのは、ここだった)。交代々々に、相手の身体のポーズを、アクションフィギュアをいじるようにしてつくっていく。ポージングが決定したら、この身体はそのままポーズにふさわしい発話を行なう。嘔吐したり、痛がったり、笑ったり、かわいこぶったり。正直この作品単体で見たら、これはインプロだと判断せざるを得なかった。しかし、この演奏会一つ目のトランペットのパフォーマンスが効いてくる。順番にトランペットを吹いていくあのテンポのない形式感と、二人の彫刻の形式感とが似通っているので、音楽作品として受け入れる感覚が、ぎりぎり確保されるのだ。

撮影:ささきしおり

もはや、若手芸人が行うネタライブにおけるミニコーナーに見紛うものと化した、偶然性の原理。カードゲーム《ジェミニ》の印象はそんなところだ。あらかじめ出す音を「クラブ=ド」「ダイヤ=レ」「ハート=ミ」「スペード=ファ」などと定め、シャッフルされたカードを素早くめくり、これに応じて演奏するというもの。コーダは観客が担当する。意外に観客が意欲的に参加しており、驚いた。

撮影:平井洋

最後は新作初演、力作と言うべきシアターピース。「私は何者かわからない」などのセリフの早回し、松平・曽我部・中川それぞれの自己紹介ナンバー、湯浅譲二・武満徹・一柳慧への言及、「私は椅子です」のパフォーマンス、それからドレミがずれるちょっとミニマルなアンサンブルがあって――ここでなぜか作品が一旦止まる。川島の作曲が間に合わなかったらしい。これ以降劇中劇に突入する。川島は急いで続きの作曲にとりかかり、なんとか仕上げたが、これに他の三人はなにかと注文をつける。その中でも、松平は頑固にアリアが歌いたいと主張する。しょうがないので(?)川島はアリアを新垣隆に外注する(この日観客席から一番大きな笑い声が起こる)。手元に届いたアリアを早速演奏してみるも、今度はその方向性を巡って対立が生じる。おもむろに、今回の演出家であるしままなぶが舞台に乱入して演技指導を行い、しまと川島の乱闘に繋がる。そんなこんなでその件が収束したのち、なぜか突然川島にピンライト、そして「私はピペットンを愛している」という謎の告白。ここからはエンディングに入り、「私はピペットン」というセリフの反復、ピンク色の大きなバルーンを錐で割り、最後「私は彫刻です」で終わる。いやはや、何を見せられたのかわかったものではない。

撮影:ささきしおり

我々があの日見たのは、それでもやはり、音楽だったのだと思う。

撮影:ささきしおり

(2019/10/15)

—————————————
<Artist>
Gemini Trio:
Kiyonori SOKABE(Tr.), Toshio NAKAGAWA(Pf.), Takashi MATSUDAIRA(Br./Perf.)
Motoharu KAWASHIMA(Cond./Perf.)

<Program>
Polyprosopos IIb (2000) [SOKABE]
Invention III “Possibility of Utterance and Imitation” (2004) [MATSUDAIRA/SOKABE/NAKAGAWA(talking drum)]
Poly-Etude for Piano “Poly-Polyphony” (2007) [NAKAGAWA]
Invention Vb  (2006/08) [MATSUDAIRA/SOKABE/NAKAGAWA]
Das Lachenmann II (2006/08) [MATSUDAIRA/SOKABE/NAKAGAWA]
cond.act/konTakt/conte-raste IVb (2009/19/premiere)
[SOKABE/NAKAGAWA/MATSUDAIRA&KAWASHIMA(cond.actor)]
HACTION MUSIC II (2015) [MATSUDAIRA&KAWASHIMA(パフォーマンス)]
Card Game “Gemini” (2018) [MATSUDAIRA/SOKABE/NAKAGAWA]
Capricorn Motoharu and Gemini Pipetone (2019/premiere)[MATSUDAIRA/SOKABE/NAKAGAWA/KAWASHIMA(cond.)]