藤原歌劇団公演 ロッシーニ:《ランスヘの旅》|藤堂清

藤原歌劇団公演 (共催:新国立劇場・東京二期会)
ロッシーニ:《ランスヘの旅》ドランマ・ジョコーゾ1幕〈字幕付き原語上演〉
Fujiwara Opera / G.Rossini:IL VIAGGIO A REIMS
(Opera in 1 Act in Original Language)

2019年9月5日 新国立劇場オペラパレス
2019/9/5 New National Theatre, Tokyo Opera Palace
Reviewed by 藤堂 清(Kiyoshi Tohdoh)
Photos by 林喜代種(Kiyotane Hayashi)撮影:9月3日(ゲネプロ)

<スタッフ>              →foreign language
総監督:折江忠道
指揮:園田隆一郎
演出:松本重孝
合唱指揮:須藤桂司
美術:荒田良
衣装:前岡直子
照明:服部基
舞台監督:菅原多敢弘

<キャスト>
コリンナ:砂川涼子
メリベーア侯爵夫人:中島郁子
フォルヴィル伯爵夫人:佐藤美枝子
コルテーゼ夫人:山口佳子
騎士ベルフィオーレ:中井亮一
リーベンスコフ伯爵:小堀勇介
シドニー卿:伊藤貴之
ドン・プロフォンド:久保田真澄
トロンボノク男爵:谷 友博
ドン・アルヴァーロ:須藤慎吾
ドン・プルデンツィオ:三浦克次
ドン・ルイジーノ:井出 司
デリア:楠野麻衣
マッダレーナ:牧野真由美
モデスティーナ:丸尾有香
ゼフィリーノ:山内政幸
アントーニオ:岡野 守

合唱:藤原歌劇団合唱部/新国立劇場合唱団/二期会合唱団
管弦楽:東京フィルハーモニー交響楽団

 

遠くからせせらぎの音が聴こえてくる。
それがあっという間に膨らんでいくと同時に、女中頭マッダレーナの女中たちを叱責する声が入ってくる。
音の流れがスムーズでシャープ、一気にロッシーニの世界に引き込まれた。

《ランスヘの旅》、ロッシーニがパリに出て初めてのオペラ作品であり、イタリア語の台本による最後のオペラとなった。1825年のシャルル10世の戴冠式を祝うために作曲され、パリで4回公演が行われた。そののち彼は楽譜を回収し、演奏を許さなかった。しかし、音楽のかなりの部分は3年後に作曲されたフランス語によるオペラ《オリー伯爵》に転用される。
1970年代以降のロッシーニ・ルネサンスの動きの中、この作品の復元が試みられ、1984年ペーザロのロッシーニ・オペラ・フェスティバルにおいてクラウディオ・アバドの指揮、ルカ・ロンコーニの演出で上演された。日本初演は、アバドがウィーン国立歌劇場を率いた1989年の来日公演。
藤原歌劇団では、2006年と2015年にアルベルト・ゼッダの指揮により上演しており、その時のメンバーの一部は今回も加わっている。ペーザロのロッシーニ・オペラ・アカデミーでゼッダの指導を受けた歌手、中井や小堀といった若手もキャスティングされた。藤原歌劇団だけでなく、二期会やフリーの歌手も入った強力な布陣。指揮の園田は、2007年ペーザロでゼッダの指導のもと、このオペラを指揮している。

この日の演奏、まず称えるべきは園田の指揮。
オーケストラの歌わせ方、そして歌手の力を引き出す手腕、どの場面でもワクワクさせてくれる。第3曲の六重唱、トロンボルク男爵の歌に始まり、ドン・プロフォンド、ドン・アルヴァーロ、メリベーア侯爵夫人、リーベンスコフ伯爵と加わり、アルヴァーロとリーベンスコフが決闘かという時に、詩人コリンナの美しい歌が響く。こういった音楽の表情が変わるところの処理も絶妙。
歌手も主役クラスはかなりのレベルでそろっている。
騎士ベルフィオーレの中井亮一の全音域での安定感と細かな音型の粒ぞろいなところ、リーベンスコフ伯爵の小堀勇介の高音域の魅力とアジリタの正確さ、メリベーア侯爵夫人の中島郁子の低音域での声の厚みとそれをベースとした歌の勢い、コリンナの砂川涼子の丁寧な歌と表情付けのうまさ、フォルヴィル伯爵夫人の佐藤美枝子が巧まずして喜劇役者として聴かせ、見せた。シドニー卿を歌った伊藤貴之が、力みのない声と丁寧な音の取り方で、長大なアリアを歌い上げた。バスという声種でロッシーニにふさわしいスタイルをもっている歌手、今後が楽しみ。登場場面は少ないが、アントーニオの岡野守が役をよく捉えた歌と演技であった。

残念だったのは演出。台本に書かれていることを可視化すればよいというだけのものであってほしくない。
たしかに、オペラとしてはドラマも愛憎劇もあまりなく、次々と出てきて歌えばよいという考えもあり得るかもしれない。
戴冠式の行われるランスに向かうべく集まった人々が、馬の手配ができず旅を断念せざるを得なくなるが、パリでも式が行われると分かり、皆でそちらに行くことにする。積み立てていた費用が不要となるので、町の人も招いて祝賀会を開きそれぞれの国の歌を披露する。それだけのストーリーだ。
しかし1825年がどんな時期だったかを考えると、このオペラをとりまくものが単純ではないことが分かる。フランスだけをみても、1789年から1799年のフランス革命、1804年から1814年にかけてのナポレオン帝政、1814年から1830年のブルボン家による王政復古、とはげしく変化する。1825年のシャルル10世の戴冠はこの最後の時期にあたるが、5年後には彼は退位に追い込まれている。権力者からの支援を得て創造活動を行っていた芸術家たちはさまざまな影響を受け続けたことだろう。著作権が確立され、それによる収入で安定した生活と創作が可能となった時代とは較べるべくもない。また多くの作品は事前に検閲を受け、変更を余儀なくされることも多かった。
登場人物の国をみれば、当時のフランスをとりまく国際情勢がある程度みえてくる。オーストリアのハプスブルク家は除外されている。
現代に通じる問題、課題といったものを浮き上がらせることも演出の役割ではないだろうか?現代において「シャルル10世戴冠おめでとう」と歌い上げるだけならば、演奏会形式で充分。

歌手だけでなく、合唱団も藤原歌劇団のほか、二期会、新国立劇場のメンバーで編成するなど、3つの団体の共同体制をとり、その点でも成果があったと思う。今後もこのような共催によりレベルの高い上演を実現していってほしい。

(2019/10/15)

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<STAFF>
General Artistic Director:Tadamichi ORIE
Conductor:Ryuichiro SONODA
Stage Director:Shigetaka MATSUMOTO
Chorus Master:Keiji SUDO
Scenery Designer:Ryo ARATA
Costume Designer:Naoko MAEOKA
Lighting Designer:Motoi HATTORI
Stage Manager:Takahiro SUGAHARA

<CAST>
Corinnar:Ryoko SUNAKAWA
La Marchesa Melibea:Ikuko NAKAJIMA
La Contessa Di Folleville:Mieko SATO
Madama Cortese:Yoshiko YAMAGUCHI
Il Cavalier Belfiore:Ryoichi NAKAI
Il Conte di Libenskof:Yusuke KOBORI
Lord Sidney:Takayuki ITO
Don Profondo:Masumi KUBOTA
Il Barone di Trombonok:Tomohiro TANI
Don Alvaro:Shingo SUDO
Don Prudenzio:Katsuji MIURA
Don Luigino:Tsukasa IDE
Delia:Mai KUSUNO
Maddalena:Mayumi MAKINO
Modestina:Yuka MARUO
Zefirino:Masayuki YAMAUCHI
Antonio:Mamoru OKANO

Chorus:Fujiwara Opera Chorus Group / New National Theatre Chorus / Nikikai Chorus Group
Orchestra:Tokyo Philharmonic Orchestra