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東京リコーダー音楽祭2019 「華やぎ」~リコーダー協奏曲~|大河内文恵

東京リコーダー音楽祭2019 「華やぎ」~リコーダー協奏曲~
Tokyo Recorder Festival 2019 Recorder Concerto

2019年8月25日 東京文化会館小ホール
2019/8/25 Tokyo Bunka Kaikan Recital Hall
Reviewed by 大河内文恵(Fumie Okouchi)
Photos by Lasp Inc./写真提供:東京リコーダー音楽祭事務局

ディレクター:本村睦幸        →foreign language
司会:朝岡聡

<プログラム>
本村睦幸(リコーダー)
ヴィヴァルディ:協奏曲 ト短調 作品1-2「夜」RV 439

ホ・ヨンジン(リコーダー)
ヴィヴァルディ:ソプラノリコーダーのための協奏曲 ト長調 RV 443

太田光子(リコーダー)
ヴィヴァルディ:ソプラニーノリコーダーのための協奏曲 イ短調 RV 445

~休憩~

山岡重治(リコーダー)
テレマン:リコーダー協奏曲 ハ長調 TWV 51:C1

ダニエレ・ブラジェッティ、田中せい子(リコーダー)
テレマン:2本のリコーダーのための協奏曲 イ短調 TWV 52:a2

深井愛記音、伊藤麻子、斉藤文誉、本村睦幸(リコーダー)
ハイニヒェン:4本のリコーダーのための協奏曲 ハ長調 S 211

◇伴奏者◇
池田梨枝子、廣海史帆(ヴァイオリン)
秋葉美佳(ヴィオラ)
山本徹(チェロ)
角谷朋紀(ヴィオローネ)
鈴木愛美(チェンバロ)

 

「東京リコーダー音楽祭」っていうのがあったらしい。リコーダーを意識して聴くようになってまだそれほどたっていない筆者にとって、それは都市伝説のようなものだった。ところが今年、10年ぶりに丸2日間にわたって開催されるということでこれはいかねば!ということで、2日目の夜公演に足を運んだ。

東京文化会館小ホールのホワイエには、公式ガイドブックをはじめ、楽譜やCD,DVDのブースの奥にリコーダー製作者の展示ブースがいくつも設けられ、試し吹きをする人が開演直前まで途絶えることがなかった。リコーダーを吹く人ってこんなに多かったのかと目を丸くした。

10年前と同じく本村がディレクターをつとめるこの音楽祭は、昼頃からの愛好家ステージに続き、夕方と夜の各2回公演がおこなわれ、1日目は独奏曲/リコーダー・アンサンブル、2日目は様々な楽器とのアンサンブル/協奏曲と、おおよそ編成別に仕立てられている。そのうち、6曲の協奏曲を集めた2日目夜公演を聞いた。

前半3曲はすべてヴィヴァルディの協奏曲。リコーダーという楽器は現代の他の管楽器に比べて音量が小さいイメージがあり、小ホールといえども後ろまで聞こえるのか心配だったが、まったくの杞憂だった。少なくともリコーダーソロで聴こえないことは全くない。ただし、伴奏が(全部の楽器が演奏する)トゥッティでリコーダーも同じ旋律だったりすると埋もれてしまうことがあるのはしかたないだろう。

1曲目のト短調の協奏曲は、フルート協奏曲として知られるが、元来リコーダー用として作曲された可能性を本村は示唆している。「Fatasmi(亡霊たち)」と題されたプレストの部分やその後のプレストの部分といった急速楽章はいかにもヴィヴァルディらしい、溌溂とした快速さをみせるが、間にはさまれた「Il sonno(眠り)」のラルゴの部分がしみじみ良い。冒頭、低いほうから楽器が1つずつ足されていって、満を持してリコーダーが入る。楽譜でみると、下降音型がゼクエンツで続くだけの何の変哲もない楽章がリコーダーの音色1つでこれだけ魅力的になるとは。ヴィヴァルディの新たな一面に気づかされた。

2曲目は、ソプラニーノリコーダーのために書かれた協奏曲がソプラノリコーダーで演奏された。超絶技巧の連続なのだが、ホの演奏は抜群の安定感で、まったく危なげがない。細かいパッセージの1音1音の粒立ちが心地よい1楽章、時折尺八を思わせるアジアっぽい響きがした2楽章に続き、3楽章では速いパッセージの1音1音が高い密着度をもち、流れるように聞こえる。まさに圧巻。

3曲目は指定通りソプラニーノリコーダーでの演奏。前の曲よりも音色が軽い。アルト、ソプラノ、ソプラニーノと並べて聞くと、同じ作曲家の作品でもまったく様相が異なることが歴然。ヴィヴァルディを3曲続けて聞いてもまったく飽きることがないのはプログラミングの妙であろう。演奏後のインタビューで太田は「この曲は、一瞬でも集中が途切れたらもうどこを吹いているかわからなくなる」と話していたが、1楽章の速い3連符や3楽章のソロ部分など、聴きどころが多く楽しめた。

休憩後は、ドイツもの3曲。派手な技巧やノリの良い愉しさを聴かせるヴィヴァルディ(イタリアもの)と対照的に、とくにテレマンのハ長調の協奏曲は、山岡の演奏の性質もあるのか、非常にノーブル(貴族的)な印象をもった。2楽章はアレグロと速い楽章だが、やはり端正さは変わらない。3楽章はよくJ.S.バッハの曲で出てくるような「泣き」のメロディーがふんだんに使われていおり、それがリコーダーの音色ととても良く合っている。最後のメヌエットは速いテンポの曲だが、ここでもノーブルさは失われない。

山岡は自分が吹いていないときには、時折アンサンブルの指揮もし、ソリストとしてだけでなくアンサンブル全体の統率もする。ソリストがアンサンブルをうまくのせていき、それにのっかってアンサンブル・メンバーも生き生きと弾いていたのが印象的だった。

テレマン2曲目は2本のリコーダーのための協奏曲。通常協奏曲というのは、ソリストは少し前に出て、伴奏とは別に演奏するのだが、今回は左からヴァイオリン1、リコーダー1、リコーダー2、ヴァイオリン2、ヴィオラとアンサンブルの中に同列に入って演奏された。リコーダー2人の息がぴったりなのもあり、協奏曲というより、室内楽を聴いているような親密さが感じられた。さらに、テレマン自身がリコーダーの名手でリコーダーの手練手管を知り尽くしていたということが如実にわかる、ハイセンスな演奏だった。

最後はハイニヒェンの4本のリコーダーのための協奏曲。4本が同等ではなく、いろいろな組み合わせでペアを組んだり、ソロになったりするほか、4本のリコーダーだけの部分があり、そのSoli部分にリコーダーの音色の魅力がたっぷり詰まっていた。2楽章は弦楽器がドローンのように同じ音を伸ばしている中でリコーダーがメロディーを奏でるのだが、生できくと音楽が立体的に聴こえてきて、非常に面白かった。

編成が若干異なるとはいえ、リコーダーの協奏曲ばかり6曲集めて退屈にならないか心配したが、実際には山岡がインタビューで語っていた「リコーダーの多彩さ」がかえって浮き彫りになった。最後に、司会者を務めた朝岡についてふれておこう。こうした演奏会では、ともすれば司会者だけが浮いてしまうこともあるが、リコーダーの仕組みや音楽用語に奏者と変わらないレベルで長けており、かといって専門用語はさりげなくフォローするなど、専門家にも素人にもよく目配りの効いた采配が、演奏会の盛り上げに貢献していた。

今回作成された公式ガイドブックも充実しており、リコーダーのプロでなくても気軽に楽しめるよう配慮されていたように思う。次は10年後といわず、もっと早く第3回を開催して欲しい。そして2日間全公演、聴きたい。

(2019/9/15)

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<Program>
Director: Motomura, Mutsuyuki
MC: Asaoka, Satoshi

Recorder: Motomura, Mutsuyuki
Antonio Vivaldi: Concerto in Gminor Op. 10-2 “La Notte” RV 439

Recorder: Hur, Youngiin
Antonio Vivaldi: Concerto for soprano recorder in G major, RV 443

Recorder: Ota, Mitsuko
Antonio Vivaldi: Concerto per flautino in la minore RV 445

–intermission—

Recorder: Yamaoka, Shigeharu
Georg Philipp Telemann: Konzert C-dur

Recorder: Daniele, Bragetti / Yanaka, Seiko
Georg Philipp Telemann: Concerto for 2 Recorders in A Minor, TWV 52:a2

Recorder: Fukai, Akine / Ito, Asako / Saito, Fumitaka, Motomura, Mutsuyuki
Johann David Heinichen: Concerto for 4 recorders in C major S211

Ensemble
Violin: Ikeda, Rieko / Hiromi, Shiho
Viola: Akiha, Mika
Baroque Cello: Yamamoto, Toru
Violone: Sumiya, Tomoki
Cembalo: Suzuki, Manami