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東京二期会 リヒャルト・シュトラウス:《サロメ》|藤堂清   

東京二期会オペラ劇場
ハンブルク州立歌劇場との共同制作公演
リヒャルト・シュトラウス:《サロメ》(日本語字幕付き原語(ドイツ語)上演) 
Tokyo Nikikai Opera Theatre, Co-production with Staatsoper Hamburg
Richard Strauss : Salome

2019年6月8日 東京文化会館 大ホール
2019/6/8 Tokyo Bunka Kaikan Main Hall 
Reviewed by 藤堂 清(Kiyoshi Tohdoh)
Photos by 林喜代種(Kiyotane Hayashi)撮影:6月3日(ゲネプロ) 

<スタッフ>     → foreign language
指揮:セバスティアン・ヴァイグレ
演出:ヴィリー・デッカー
演出補:シュテファン・ハインリッヒス
舞台美術:ヴォルフガング・グスマン
照明:ハンス・トェルステデ
演出助手:家田 淳
舞台監督:幸泉浩司
公演監督:佐々木典子
公演監督補:牧川修一 

<キャスト>
ヘロデ:今尾 滋
ヘロディアス:池田香織
サロメ:森谷真理
ヨカナーン:大沼 徹
ナラボート:大槻孝志
ヘロディアスの小姓:杉山由紀
ユダヤ人1:大野光彦
ユダヤ人2:新海康仁
ユダヤ人3:高柳 圭
ユダヤ人4:加茂下 稔
ユダヤ人5:松井永太郎
ナザレ人1:勝村大城
ナザレ人2/奴隷:市川浩平
兵士1:大川 博
兵士2:湯澤直幹
カッパドキア人:岩田健志
管弦楽:読売日本交響楽団 

 

なんと色彩感を拒絶した舞台だろう。
白から灰色そして黒。
照明も暖色になることがない。
わずかに色が見られるのは、首切り役。上半身はだかの肌とかぶっている赤い冠。 

東京二期会オペラ劇場公演、リヒャルト・シュトラウス《サロメ》。4月にコンチェルタンテ・シリーズとして行われたジュール・マスネの《エロディアード》と同じ、聖書に書かれたヨカナーンの死をめぐる物語。
このシュトラウスのオペラはマスネのものと較べ上演頻度は高い。新国立劇場では2000年のプレミエ以降、6シーズンで公演演目であったし、東京二期会でも2011年にペーター・コンヴィチュニーの演出で取り上げている。オーケストラの定期や、海外のオペラ団体の来日公演の曲目として演奏されることも多かった。

《サロメ》といえば〈七つのヴェールの踊り〉、「新国立劇場の舞台でヌードが」、とプレミエ当時、新聞記事にもなった。
エロティックな側面のみが強調されがちなオペラだが、東京二期会でのコンヴィチュニー演出では、核シェルターの中での閉塞感や暴力から、愛し合うサロメとヨカナーンが外の世界へ脱出していくエンディング。 

今回のヴィリー・デッカーの舞台、初演は1995年だが、2016年にもケント・ナガノの指揮で再演されている「現役」。この演出でも「エロス」は希薄だ。
ステージは上部まで階段でいっぱい。少し斜めに作られた階段線が観客に不安感を与える。三方向の階段のすき間にヨカナーンの閉じ込められている牢があるという設定。歌手は階段を登り降りしながらの演技・歌唱(事故が起きなくてよかった!)。
ヨカナーン以外の人物は髪の毛を持たない、皆同じ丸く白い頭。オペラの冒頭から歌われる月や、あとで重要な役割を持つ銀の皿との関連を感じさせるものだが、人物の個性を制約してもいる。
ナラボートにヨカナーンを牢から出すように迫るサロメ、色仕掛けというより子どもがダダをこねているよう。 ヨカナーンに口づけを求めるサロメに対し、彼は彼女を庇護するかのようにしながら、イエスに救いを求めるよう諭す。サロメはヨカナーンが置いて行った黒いガウンを羽織り、彼につつまれている気持ちにひたる。
〈七つのヴェールの踊り〉はサロメとヘロデ二人だけの舞台。階段を移動しながらサロメを追いかけるヘロデ。銀の皿に頭をのせたヘロデに剣を持つサロメがまたがるところで終わる。
最後、ヨカナーンの首を受け取ったサロメは、それを彼のガウンの上に置き、自らも隣に横たわりモノローグを歌っていく。 ヘロデの「あの女を殺せ」という言葉と同時にサロメは自害する。
デッカー自身が来日し演技を付けたという。主役だけでなく、ユダヤ人、ナザレ人のような脇役の動きも歌詞を反映したものであり、自然に感じられた。 

読売日本交響楽団は、今年4月に常任指揮者に就任したセバスティアン・ヴァイグレのもと、厚みのある音、堅実な演奏を聴かせた。リズムの変化や特定の楽器の強調などが少なかったせいか、R.シュトラウスらしい色合いが不足するように感じられた。
歌手ではタイトルロールの森谷を挙げたい。ドラマティックに歌われることの多い役だが、リリックな声で歌詞をはっきりと歌っていく。ダイナミクスの変化はオーケストラにまかせることで、サロメの心の動きを繊細に表現していた。
ヨカナーンの大沼、ヘロディアスの池田には声の威力が感じられた。ただ、森谷のサロメとは言葉の扱いについて方向性が違うように感じられた。 

東京二期会が《エロディアード》と《サロメ》を時間をおかずに上演したことで、この同じ物語の位置づけが明確にされた。今回の《サロメ》のプログラムに掲載されている「<サロメ文学>その潮流」と題する大鐘敦子氏へのインタビューは、この二つのオペラの背景を知るうえで大変参考になった。 

関連評:第57回大阪国際フェスティバル2019 リヒャルト・シュトラウス『サロメ』|藤原聡

(2019/7/15) 

 

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<STAFF>
Conductor:Sebastian WEIGLE
Stage Director:Willy DECKER
Associate Stage Director:Stefan HEINRICHS
Set & Costume Designer:Wolfgang GUSSMANN
Lighting Designer:Hans TOELSTEDE
Assistant Stage Director:IYEDA, June
Stage Manager:KOIZUMI, Hiroshi
Production Director:SASAKI, Noriko
Assistant Production Director:MAKIKAWA, Shûichi 

<CAST>
Herodes;IMAO, Shigeru
Herodias:IKEDA, Kaori
Salome:MORIYA, Mari
Jochanaan:ÔNUMA, Tôru
Narraboth:ÔTSUKI, Takashi
The Page of Herodias:SUGIYAMA, Yuki
First Jew:ÔNO, Mitsuhiko
Second Jew:SHINKAI, Yasuhito
Third Jew:TAKAYANAGI, Kei
Fourth Jew:KAMOSHITA, Minoru
Fifth Jew:MATSUI, Eitarô
First Nazarene:KATSUMURA, Daiki
Second Nazarene /A slave:ICHIKAWA, Kôhei
First soldier:ÔKAWA, Hiroshi
Second soldier:YUZAWA, Naoki
A Cappadocian:IWATA, Takeshi
Orchestra:Yomiuri Nippon Symphony Orchestra