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東京二期会コンチェルタンテ・シリーズ マスネ:《エロディアード》|藤堂清

東京二期会コンチェルタンテ・シリーズ
ジュール・マスネ:《エロディアード》〈新制作/セミ・ステージ形式上演〉

2019年4月27日 Bunkamuraオーチャードホール
Reviewed by 藤堂 清(Kiyoshi Tohdoh)
Photos by 林喜代種(Kiyotane Hayashi)撮影:4月25日(ゲネプロ)

<スタッフ>
指揮:ミシェル・プラッソン
音楽アシスタント:佐藤正浩
舞台構成:菊池裕美子
映像:栗山聡之
照明:大島祐夫
原語指導:大庭パスカル
合唱指揮:大島義彰
舞台監督:幸泉浩司
公演監督:大野徹也

<キャスト>
ジャン:城 宏憲
エロデ:小森輝彦
ファニュエル:妻屋秀和
ヴィテリウス:小林啓倫
大祭司:倉本晋児
寺院内からの声:前川健生
サロメ:髙橋絵理
エロディアード:板波利加
バビロニアの娘:金見美佳
合唱:二期会合唱団
管弦楽:東京フィルハーモニー交響楽団

 

東京二期会コンチェルタンテ・シリーズの第2弾、ジュール・マスネのグランド・オペラとしては初期の作品《エロディアード》を取り上げた。このオペラの日本での初演は2012年6月東京オペラ・プロデュースによるもの。国内では二度目の上演となる。
指揮はフランスの大ベテラン、ミシェル・プラッソン、85歳。
第1弾の《ノルマ》と同様セミ・ステージ形式での上演。合唱は一番奥に並び、その前のオーケストラより高い位置に舞台を設営、そこで歌手が歌い、演技する。
照明や、正面の壁に映し出される映像はそれぞれの場面によく合っており、その制作や操作の技術が進んできていることがわかる。

主な登場人物は、R.シュトラウスの《サロメ》と同じである。ジャン=ヨカナーン、エロデ=ヘロデ、エロディアード=ヘロディアスといった対応。ローマの総督ヴィテリウス、高僧ファニュエルは《サロメ》には登場しない。
ギュスターヴ・フローベールの原作では、サロメとジャンやエロデとの関係はなく、彼女はエロディアードの指示に従い、エロデを踊りで誘惑し、ジャンの首を求める存在。オペラの台本作家が、彼女のジャンへの思いやそれに応えるジャン、エロデのサロメへの執着とそれを嫉妬するエロディアードといったストーリーを付け加えた。

演奏の中核を担ったのは、指揮者ミシェル・プラッソン。メリハリのある音楽が自然に流れていく。派手に煽り立てたり、大音響で圧倒するといったところはない。マスネを得意としてきたプラッソン、さすがの指揮ぶり。的確に歌い出しを指示していたが、初めてこのオペラを歌う歌手にとって大きな助けになったことだろう。東京フィルハーモニー交響楽団がやわらかな音で応えていた。サクソフォンが使われていることは、この時代のオペラとしてはめずらしいが、特徴的な音はオーケストラのなかで目立つ存在となっていた。

歌手のフランス語歌唱が不安であったが、大庭による原語指導の成果もあったのだろう、問題となることはなかった。
歌の完成度、役との適合という点でソリストをみてみよう。ジャンを歌った城の輝きと厚みのある声は預言者にふさわしいものであった。また、サロメの高橋の透明感があり、よく伸びる高音は若い娘のイメージにぴったり。エロデの小森は以前のような声の力はないが、経験を活かした歌い口。ただ、第3幕第2場でジャンに対する姿勢を逆転させるところ、歌だけでそれを分からせてほしかった。エロディアードの板波の声の力はタイトルロールにふさわしいものだが、ヴィブラートが気になる場面もあった。ファニュエルの妻屋は群衆を鎮める、エロディアードをいさめるといった場面で、それにふさわしい重みのある歌を聴かせた。
合唱もていねいな歌で音楽的には不満は少ないが、冒頭、二つのグループが争う場面でも、実におだやかに歌われた。もう一歩、歌の内容に踏み込んだ表現を期待したい。

演奏の出来栄え以外の点で気になったことを挙げておく。
まず、曲のカットについて。
グランド・オペラにつきもののバレエがカットされるであろうことは想定のうちであったが、それ以外でも多くの曲にカットが入れられていた。演奏される機会が少ないだけに残念であった。
次は、歌手の歌う位置について。
昨年の《ノルマ》のときと同じ舞台の配置なのだが、オーケストラの厚みがちがう。それもあってか、席によっては歌手の声が届きにくいところがあったという。歌手をオーケストラの前におくようにするだけでずいぶん違うだろう。セミ・ステージであるから演出・演技も必要との考えなのだろうが、まず音楽を中心に考えてほしい。
ソリストも合唱と同じように楽譜を持って歌うコンサート形式も選択肢の一つだろう。
もう一点は演奏日程のこと。
この公演は、4月27,28日の両日に行われたが、別の団体のオペラ公演と同じ日であった。オペラの聴き手は多くはなく、両方聴きたいという人が少なからずいるだろう。早い時期に調整していただければと思う。せっかくの機会に空席が目立つのはもったいない。

東京二期会は、6月にR.シュトラウスの《サロメ》を上演する。
この二つのサロメとジャン(ヨカナーン)を中心とするオペラの聴き較べ、マスネとシュトラウス、フランスとドイツ、フローベールとワイルド、などいろいろな面での対比を楽しみたい。

(2019/5/15)