三善晃「マリンバの世界」|丘山万里子

à l’occasion du 5ème anniversaire
三善晃「マリンバの世界」

2019年2月6日 杉並公会堂小ホール
Reviewed by 丘山万里子(Mariko Okayama)
Photos by 平井洋

<演奏>
加藤訓子、篠崎陽子、原順子、鈴木彩

<曲目>
組曲「会話」 マリンバ独奏(1962)
トルスⅢ   マリンバ独奏 (1968)
トルスⅤ    3台のマリンバ (1973) 篠崎、原、鈴木
〜〜〜
6つの練習前奏曲 2本マレットのための (2001)
2台のマリンバのための協奏的練習曲(1979) 篠崎、鈴木
リップル   独奏マリンバのための (1999)
アンコール「荒城の月」三善晃編曲:童声合唱とピアノ(1977) ア・カペラ(1978)(未出版/近代音楽館所蔵) 全員

 

作品が演奏を拓く。演奏が作品を拓く。
そうして連綿と、無限の「創造」を生み続ける、人の営為と音楽を思う一夜。

三善晃5周忌を期に捧げられたオマージュ。
打楽器奏者として世界を翔ける加藤訓子企画の《三善晃“マリンバの世界”》。若手奏者3名とともに、のステージである。

プログラミングがいい。

『会話』は、子どもとの、で、安倍圭子の委嘱に応えて。楽しみながら書いているのがよくわかり、それを加藤がまた、「いいことあった、よかったね」「くやしいことあった、うーむ」と、あったかおしゃべりの輪を広げてみせる。
そこには翌年の『小さな目』を含む合唱作品の響きも聴こえ、三善が終生大切に守り続けた「子ども心」、童声への愛の発露もあって。

対して『トルス Ⅲ』はその名の通りの音響実験。発展途上の楽器と挑戦する奏者との協働が斬新、尖鋭な音響を生んでいる。同音連打のリズミックな躍動、グリッサンド・トレモロのあえかな幻想、乱打に飛び散る音礫、硬質な玲瓏高音は星々のさんざめき、緻密な書法と、すべてにわたっての追求、探求がくっきり立ち上がってくる。
ブーレーズの影響を語る作曲家は、だが明らかに、自ら手にすべき音を知っており、あるいは体内にある衝動をも率直に表出することを恐れない。
加藤のめくるめく打奏、打走、三善の情動と論理の音の噴出・断面をそのまま自身の肉体から迸らせる美と真摯に、射抜かれた。

もう一つの『トルスⅤ』は若手3人、バス、グランドを加えた3台マリンバにヴィブラフォンなど各種打楽器が彩りを添える、その音色配合の妙。響の愉悦とともにどこもかしこもこちらの皮膚に、陶酔を這わせ、斬りつける刃先になり、沸き立つ血流を拍動させ、その筆致、さすがの職人技と唸らせる。
それをまた3人が実に生き生きとしなやかに舞い、奏した。

休憩後の『練習前奏曲』。
現代作品の奏法に必須なあれこれを三善が書き置いたものだが、重音、スケール、ハーモニー、ダイナミクス、対位法など、技術と音楽性をみっしり詰め込んだ完成度だ。同時に、「練習・前奏曲」とはいつの時代も作家自身の手腕が試されるものだと実感する。
三善が20年近くかけて向き合った『ピアノ・メソード』をも想起させ、貫かれた教育への目配りに背筋を正す。
加藤の愛着とともに、継がれてゆくであろう想いもそこに見る。

『協奏的練習曲』は2台マリンバ、こちらは若手2人の丁々発止と夢幻ハーモニーを楽しんだ。

『リップル』は岡谷開催の第2回マリンバ世界コンクール2次予選用作品で、「ハッ」といった小さな発声も混じる多面体。マリンバの可能性をひらく創意に満ちた音響世界が繰り広げられ、ふと、やはりコンクール用に書かれたピアノ曲『アン・ヴェール』(1980)を思う。ティボーデの弾くそれに、「地球の風はどんな風であろうと風、僕も風の一陣として飛んでいっていいんだ」と感じた、そういう世界のひらけ方が、ここにもある。
様式とは、過去現在未来の歴史的文脈の中で自身の立つ場を明示する、その確固たるフォルムのことで、それはまた奏者も然り、だろう。
その意味で、世界中の奏者に奏し続けて欲しい一作だ。

最後にアンコールとして、三善編曲の『荒城の月』が4台マリンバで。
加藤の MCによれば2つの編曲版から彼女がマリンバ用に音を拾ったとのこと。
三善は編曲の達人であったが、随所に彼らしい凝った響きが撒かれている。
最後のトレモロが消えた虚空を仰ぎ見つつ、加藤と、その背後で静かに音を紡ぐ若き奏者たちに心からの感謝を。

三善は全方位の人だった。加えて、一つの体系でもあった。
そのように生き得た音楽家は少ない。
西欧世界、そして戦時戦後という時代に、どう対峙するかが三善の創作の筋だったが、私たち戦後世代にもはやそのような「対峙すべき何か」は見えにくい。
だけに余計、まなこを開け、しかと見よ、の声を聴く。

三善の言葉から、5つの「つ」。
つむぎ、つなぎ、つくり、つたえ、つちかう。
それが、このステージにはあったと思う。

(2019/3/15)