ドビュッシー:《アッシャー家の崩壊》|藤堂清

ドビュッシー:《アッシャー家の崩壊》
(コンサート形式による試補筆上演)

2019年1月11日〔昼公演〕 ハクジュホール
Reviewed by 藤堂 清(Kiyoshi Tohdoh)
Photos by 林喜代種 (Kiyotane Hayashi)

<演奏者>
ピアノ/トーク:青柳いづみこ
バリトン:松平敬
ソプラノ:盛田麻央
バリトン:根岸一郎
バス:森田学
補筆/ピアノ:市川景之
ピアノ:森下唯
ピアノ:田部井剛

<曲目>すべてクロード・ドビュッシー作曲
スケッチ・ブックから〔1904〕(青柳)
歌曲集《ビリティスの歌》〔1897~1898〕(盛田、青柳)
歌曲集《眠れない夜》〔1899~1902〕(根岸、青柳)
交響詩《海》〔1905〕
  (アンドレ・カプレ編曲による6手2台版・日本初演、森下、青柳、田部井)
——————-(休憩)——————–
プレトーク「音楽における恐怖への前進」(青柳、市川)
オペラ《アッシャー家の崩壊》〔1908~17・未完〕(市川景之による試補筆版)
  ロデリック:松平敬(バリトン)
  マデリーヌ:盛田麻央(ソプラノ)
  医者:根岸一郎(バリトン)
  友人:森田学(バス)
  ピアノ:青柳いづみこ、市川景之

 

青柳のドビュッシーへの愛が会場を満たしている、そんなコンサートであった。

晩年のドビュッシーは、エドガー・アラン・ポーの二つの小説《アッシャー家の崩壊》と《鐘楼の悪魔》のオペラ化を考えていた。後者は断片が残されたのみだが、前者は彼自身の台本が3種類残されており、1幕2場構成のうち第1場はヴォーカル・スコアが完成しているが、第2場は一部だけで、全体のほぼ半分が未完となっている。
コンサートでは、ドビュッシーが作曲しなかった部分を市川が補筆して演奏が行われた。休憩後のプレトークで、市川は今回の版を”試”補筆とすることについて「ドビュッシーの残した台本すべてに補筆したわけではない」ことをあげた。その上で「ドビュッシー自身が書いた音楽はスタティックなものだが、どこかでダイナミックなものに変化すると考えた」と述べている。

1台4手のピアノに伴われて歌う4人の歌手、ピアノが暗めではあるがオーケストラのような色彩感をもたらす。マデリーヌのアリア(「幽霊宮殿」のアリアとプログラムにある)が別の世界からのように響いてくる。ロデリックを訪ねてきた友人と医者の会話、医者の感情の変化の大きさが浮き彫りとなる。
第2場はロデリックの独白で始まる。松平は抑えた表情から、感情の爆発まで、丁寧に言葉を扱いながら歌い上げた。
医師が友人にマデリーヌの死を告げて去った後、友人はロデリックをなぐさめるため、騎士物語を読み聴かせる。朗読は次第に熱をおびていき、物語の頂点で大きな音とともに現実に引き戻される。ロデリックは、マデリーヌが生きたまま埋葬されていたこと、自分には彼女がすぐにあらわれることがわかると語る。マデリーヌの登場に、友人は逃げ出し、アッシャー家の館は崩れていく。
第2場の後半はストーリーの展開も早くダイナミックで、市川がプレトークで語ったような音楽にふさわしいもの。森田の朗読、松平の切迫感あふれる歌唱に惹きつけられた。

《アッシャー家の崩壊》の補筆には、ファン・アジェンデ=ブリン(1977年)やロバート・オーレッジ(2006年)によるものがあり、録音も出ている。
台本が完成しているとはいえ、作曲者自身のメモがない以上、どのように補おうともドビュッシーの意図にそっていると断言はできない。その前提のもとで言えば、市川の補筆版はオペラとして音楽的に一貫性のあるものとなっていたと評価できる。
引き続き彼の手で、今回補筆されなかった部分の作曲や、オーケストラ版の作成が可能になればと思う。

コンサートの前半、歌曲集《ビリティスの歌》を盛田のソプラノ、歌曲集《眠れない夜》を根岸のバリトンで演奏(ピアノはどちらも青柳)。両者とも歌詞をよく表現していた。とくに盛田のしっとりとした感触の歌に惹かれた。
アンドレ・カプレによる6手2台版の交響詩《海》は楽譜が未出版、特別にコピーを借り受け、日本初演を行ったとのこと。1台2手は森下が、もう一方の1台4手は青柳と田部井という割り振り。オリジナルのオーケストラ版の弦楽器の動きや管楽器も含めた音色の変化がかなり細かく取り込まれたすぐれた編曲。演奏者3人の呼吸もよく合っていた。

 (2019/2/15)