レイチェル・ポッジャー ヴァイオリン・リサイタル|藤堂清

レイチェル・ポッジャー ヴァイオリン・リサイタル

2018年7月1日 調布市文化会館たづくり くすのきホール
Reviewed by 藤堂 清(Kiyoshi Tohdoh)
Photos by 林喜代種(Kiyotane Hayashi)

<演奏>
レイチェル・ポッジャー(ヴァイオリン)

<曲目>
J. S. バッハ:無伴奏フルートのためのパルティータ イ短調 BWV 1013(ポッジャー編、ト短調版)
タルティーニ:ソナタ 第13番ロ短調
マッテイス:ヴァイオリンのためのエアー集より
壊れたパッサッジョ、匿名の楽章、ファンタジア、コッレンテ
———————–(休憩)———————–
ビーバー:パッサカリア ト短調「守護天使」
J. S. バッハ:無伴奏ヴァイオリン・パルティータ 第2番 ニ短調 BWV 1004
——————–(アンコール)——————–
J. S. バッハ:無伴奏ヴァイオリン・ソナタ 第3番 第3楽章
モンタナーリ:ジーガ
J. S. バッハ:無伴奏ヴァイオリン・ソナタ 第1番 第1楽章

 

調布国際音楽祭の最終日、レイチェル・ポッジャーの無伴奏ヴァイオリンによるリサイタル。この日のためだけの6年ぶりの来日、客席500の小さなホールということもあり、チケットは早くから完売であった。

プログラムは、彼女が2013年に録音した「守護天使」というCDに収められた曲を中心とし、バッハの《無伴奏ヴァイオリン・パルティータ第2番ニ短調》を加えたかたち、17世紀末から18世紀初めの作品が並ぶ。タルティーニ、ビーバーといった、この時代に作曲家/ヴァイオリニストとして有名であった人の曲をとりあげる。とはいうものの、冒頭と最後に置かれたバッハの作品が大きなウェイトを占めるであろうことは想定できる。

最初の曲は、J.S.バッハの《無伴奏フルートのためのパルティータ イ短調》を彼女がヴァイオリン用に編曲したもの。
第1楽章の伸びやかな曲想、第2楽章の細かい動き、第3楽章での低い音域を中心とする暗めのゆったりとした音の流れ、第4楽章は早いパッセージとたっぷり歌わせるところが入り混じる。技巧的な音型はあるが、彼女にとっては問題ではない。細かい音、一つ一つまできちんと響かせる。もともとがフルートの曲ということがあるのか、重音はほとんど使われない、その一方タンギングのように短く刻んだり、息を吹き込む向きを変えて音を飛ばすといった奏法にあたると思われる部分も目立つ。

二曲目はタルティーニの《ソナタ 第13番ロ短調》。彼は、技巧的な《悪魔のトリル》で有名だが、この曲ではなだらかな音の動きがほとんど。ポッジャーは安定した弓使いで、弱い音から強い音まで自然に響かせる。

前半の最後はマッテイスの《ヴァイオリンのためのエアー集》から4曲。イタリア生まれでイギリスで活躍したヴァイオリニスト、人の声の美しさを思い起こさせる音楽の流れ。ガット弦の音のやわらかさが引き立つ。

後半はアルバムのタイトルになっているビーバーの《パッサカリア ト短調「守護天使」》から始まる。16曲からなるロザリオ・ソナタの最後におかれた唯一の無伴奏の曲。この曲集は聖母マリアの一生を描いており、曲ごとに様々な調弦が指定されている。この「守護天使」と第1曲だけが通常の調弦による。
この曲で、ポッジャーの弾きだす音は豊かで張りがあるが、その音はどこか悲しみをたたえている。

プログラムの最後は、バッハの《無伴奏ヴァイオリン・パルティータ 第2番 ニ短調》、5曲目が有名なシャコンヌ。前回、6年前の来日のときには「レイチェル・ポッジャー トリフォニーホール・バッハ・フェスティバル2012」として、ソロ、協奏曲など17曲を2日間にわたり演奏したが、この曲も当然取り上げられている。このときは大ホールを会場としていたのに対し、今回は小規模なホールでの演奏。彼女の音楽を間近で聴くことができた、30分の濃密な時間。
リサイタルの最後にふさわしい曲であり、演奏であった。彼女の音のダイナミクスは大きく、また弱音の美しさがその幅をより拡げているように思えた。

バロック・ヴァイオリンにガット弦、バロック弓を使うということで音量や音色に制約があるかというと、まったくそのようなことはなく、温かい音が会場全体をつつみこむ。ノンヴィブラートの響きが体に共鳴するようで心地よい。
バロック・ヴァイオリンの女王という呼び名にふさわしい充実したリサイタルであった。

「国際」という言葉を加えられてから二度目になる調布国際音楽祭、この日のポッジャーのリサイタルだけでなく、イギリスのソプラノ、ジョアン・ランと音楽祭のプロデューサー、鈴木優人のフォルテピアノによる歌曲の夕べなど「国際」の名にふさわしいプログラムが並ぶ。その一方で開催地である調布市や市民によって支えられ、市民音楽家によるオープンステージなど、地元に根付いた音楽祭として着実に土台を固めてきている。来年以降のさらなる発展を期待したい。

(2018/8/15)