NISSAY OPERA 2018『魔笛』|藤堂清

NISSAY OPERA 2018 『魔笛』 全2幕
(ドイツ語歌唱・日本語台詞・日本語字幕付)

2018年6月17日 日生劇場
Reviewed by 藤堂 清(Kiyoshi Tohdoh)
Photos by 林喜代種(Kiyotane Hayashi)

<スタッフ>
指揮:沼尻 竜典
演出・上演台本:佐藤 美晴
ドラマトゥルク:長島 確
美術:池田 ともゆき
照明:伊藤 雅一(RYU)
衣裳:武田 久美子
ヘアメイク:橘 房図
映像:須藤 崇規
合唱指揮:田中 信昭
演出助手:手塚 優子、平戸 麻衣
舞台監督:幸泉 浩司、井坂 舞(アートクリエイション)
副指揮:大川 修司、鈴木 恵里奈、キハラ 良尚
コレペティトゥア:平塚 洋子、高橋 裕子、渡辺 治子

<キャスト>
ザラストロ:伊藤 貴之
タミーノ:山本 康寛
パミーナ:砂川 涼子
夜の女王:角田 祐子
パパゲーノ:青山 貴
パパゲーナ:今野 沙知恵
モノスタトス:小堀 勇介
侍女Ⅰ:田崎 尚美
侍女Ⅱ:澤村 翔子
侍女Ⅲ:金子 美香
童子Ⅰ:盛田 麻央
童子Ⅱ:守谷 由香
童子Ⅲ:森 季子
弁者&僧侶Ⅰ:山下 浩司
僧侶Ⅱ:清水 徹太郎
武士Ⅰ:二塚 直紀
武士Ⅱ:松森 治
管弦楽:新日本フィルハーモニー交響楽団
合 唱:C.ヴィレッジシンガーズ

 

音楽と演出がかみ合ったよい公演であった。

序曲のはじめから一人の童子が登場。暗めの照明のもとおもちゃのピアノを弾くと、ほのかに音符が映し出され、天にのぼっていく。二人目、三人目の童子も現れ、のぼる音符の数もふえていく。
幕が開くと、タミーノが机に向かい勉強している。「助けて、助けて」と歌いだすと、前に置かれた本から、文字や図形が抜け出し彼の回りを渦巻いていき、それとともに多くのネズミ色のスーツを着た人々が彼を糾弾するように取り巻く。タミーノを襲う怪獣は、大人たちと彼らが強いる勉強?この設定にまずニヤリ。
演出家(とドラマトゥルク)の読み解いた《魔笛》、タミーノ、パミーナ(そしてパパゲーノとパパゲーナ)という若者たちと、夜の女王、ザラストロに代表される大人たちを対比し、若者たちの成長物語とした。タミーノ、パミーナは童子たちと同じ白い服、夜の女王はごてごてと飾りのついたドレス、侍女たちは網タイツを穿き異性を惹きつけようとするような姿、一方のザラストロの配下はタミーノが気絶する場面で登場したスーツ姿。
夜の女王は、亡き夫から「太陽の国の支配を女には任せられない」としてザラストロに権限が移されたと嘆くが、その太陽の国では、女性が掃除などの雑用をしており、一方、男性は酒を飲み、タバコを吸っている、まさに男尊女卑の世界。モノスタトスの配下の者は、スーツをまとっている者たちより下の階層の存在としてえがかれる。太陽の国の場面のはずなのに、スーツ姿の者たちが傘を差して集まってくる。
第一幕と第二幕では正邪が逆転すると説明されることが多いが、この演出では、どちらの世界もそれぞれに問題を抱えているとしてえがいている。
それを解決するのは、若者たち(というか子供たち)。音楽の力を借り、新たな道へと進んでいく。水と火の試練のとき、どちらも笛を吹くのは最初のうちだけ、すぐに取り落とし、寝入ってしまう。それを三人の童子が取り囲んで守る。
タミーノとパミーナが手を取り合い、奥に進んで行くのに、ついて行く大人(女性が多かった?)、逡巡している大人とこちらも分かれる。舞台前方には、敗北した夜の女王らが倒れているが、ザラストロは彼女を抱き起し、和解したかのような状況で幕となる。
パターン化した舞台でみることの多い《魔笛》から、さまざまな差別や問題を抉り出し、視覚化してみせた演出家、佐藤美晴に大きな拍手を送りたい。

演奏面でも負けていない。
沼尻の指揮する新日本フィルハーモニー交響楽団が、序曲から緻密な音を聴かせた。最初にふれた「のぼっていく音符」に見事に同期した音楽。
童子の出る場面での少し抑えめの響き。パミーナとパパゲーノが男と女の愛について歌う場面の美しさ。
どの場面もていねいに、歌手に配慮しながらも緩むことなく演奏された。
歌手も粒ぞろい。
夜の女王の角田の切れ味鋭い歌。パミーナの砂川のしっとりとした声と人形遊びをする女の子といった演技、モノスタトスの小堀のリズム感あふれる歌と差別され疎外されている存在を示す動き、青山のパパゲーノのどこかユーモラスな印象の歌と演技。侍女たち、童子たちのハーモニーも美しかった。

この公演は、歌唱はドイツ語、セリフは日本語で行われた。セリフは単純な翻訳ではなく、意訳や現代の問題と結びつけるようなところもあり、客席の笑いをさそっていた。歌とセリフのつなぎがスムーズに流れるよう、よく考えられていた。このプロダクションは公開の一般公演だけでなく、全国各地で中高生を対象に上演される。その点への配慮もいきとどいていたと思う。

上質な公演、おおいに楽しむことができた。

(2018/7/15)