ウィーン便り|シェーンブルンのサマーナイトコンサート|佐野旭司

シェーンブルンのサマーナイトコンサート

text & photos by 佐野旭司 (Akitsugu Sano)

5月から6月にかけてはウィーンでも特に日が長くなり、今くらいの時期だと22時を過ぎてもまだ完全には暗くならない。そしてこの時期には毎年シェーンブルン宮殿の庭でウィーンフィルによるサマーナイトコンサートが開かれる。私もこのコンサートに足を運ぶのは今年で2度目だが、今年は5月31日が祝日(聖体節)で、この日の20時半から行われた。

コンサート当日のシェーンブルン宮殿は、普段とはまるで雰囲気が違い大勢の人で賑わっている。
私は開演の30分くらい前に着くつもりで行ったけれど、最寄り駅(地下鉄U4のシェーンブルン駅)に19時50分頃に着いたら、駅のホームまでがコンサートに訪れる人ですでに混雑していた。
この日は舞台を宮殿の建物の後ろに設置しているため、一般客は正門から入ることができない。マイトリンク側の入口か、ヒーツィング側の入口、裏側にあるマリアテレジア門、チロル門のいずれかの入口から入り、そこから立ち見のスペースまでのルートがそれぞれ決められている。そして会場の近くでは持ち物のチェックも受ける。人が多く集まるのでテロなどを警戒してのことだと思うが、飲み物のペットボトル持っていたらそこで没収されてしまった。まるで空港でのセキュリティチェックのようだ。
ちなみに終演後は開演前よりもさらに混雑し(一度に大勢の人が移動するから当然ではあるけど)、庭園内の歩道に信号機が設置されて交通整理が行われるくらいだ。しかも電車に乗るのもひと苦労で、特に地下鉄のハイリゲンシュタット方面(多分宮殿の周辺を走る交通機関の中でもっとも利用者が多い)は、乗り場が大混雑するため、電車も2、3本待たなければならない。

コンサートの舞台は宮殿の建物の後ろ側に設置され、舞台のすぐ近くには賓客用の座席のスペースが用意されている。そして一般客は立ち見で、この座席の後ろからネプチューンの泉の間のスペースに立つことができる。さらにこの噴水の後ろからグロリエッテまでは芝生が広がっていて、この芝生やグロリエッテの周りでも観ることができる。そしてこれらの場所にはスピーカーやスクリーンが設置されて、それを通して演奏を鑑賞することになる。賓客の席以外の場所では生演奏を聴いているとは言えないけれど、それでもテレビとは違って、会場の空気にじかに触れることができる。

そして演奏のほうはというと、今年はゲルギエフが指揮をしていた。今年は「イタリアの夜」というテーマでプログラムを組んでいて、曲目はイタリアのオペラの序曲やアリアが中心だった(《ウィリアムテル》、《運命の力》、《トスカ》、《マノン・レスコー》など)。ただそんな中で、《白鳥の湖》の《ナポリの踊り》や、プロコフィエフの《ロミオとジュリエット》組曲の《モンタギュー家とキャピュレット家》といった、イタリアと関係のあるロシアの作品も取り上げられており、多彩なプログラムとなっていた。彼の指揮するウィーンフィルの演奏は、綺麗な音色で安定感があり、かつメリハリが感じられた。私はウィーンでゲルギエフの演奏を聴くのはこれで2回目で、今年の3月にも楽友協会に来てベートーヴェンの交響曲第7番やストラヴィンスキーの《春の祭典》などを指揮していた(オーケストラはミュンヘン・フィルハーモニー管弦楽団)。特に《春の祭典》では所々でテンポを自由に変化させたり、また曲のメリハリのつけ方にもゲルギエフ独特のクセが感じられたりした。私はそうしたゲルギエフ特有の響きはどちらかといえば苦手なのだが、今回のサマーナイトコンサートでは、チャイコフスキーやプロコフィエフの演奏でもそのようなクセがあまり感じられなかったように思えた。
またオペラのアリアはアンナ・ネトレプコが歌っていたが、非常に素晴らしい演奏で、これを“生で”(会場のスピーカーを通してではなく)聴けたらどんなに良かっただろうと思った。私が聴いていた場所はスクリーンが見えにくい所だったが、この時私の友人(芸大の後輩で現在ウィーンで勉強している声楽家)はもっと前の方で観ていたそうで、彼女曰く、誰もが緊張するであろう《トスカ》の《歌に生き、愛に生きる》を歌う直前に客席に向かって手を振るほどの余裕ぶりだったという。

ちなみにこのコンサートは日本でも7月30日にNHKで放送するらしい。私は7月半ばに完全帰国の予定で、この放送がある時にはおそらくすでに日本に帰っているので、是非見てみたい。会場に足を運んだうえでさらにテレビで見てみると、また何か新しい発見があるかもしれない。

(2018/6/15)

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佐野旭司 (Akitsugu Sano)
東京都出身。青山学院大学文学部卒業、東京藝術大学大学院音楽研究科修士課程および博士後期課程修了。博士(音楽学)。マーラー、シェーンベルクを中心に世紀転換期ウィーンの音楽の研究を行う。
東京藝術大学音楽学部教育研究助手、同非常勤講師を務め、現在オーストリア政府奨学生としてウィーンに留学中