ウィーン便り|ウィーンの緑とオットー・ヴァーグナー|佐野旭司

ウィーンの緑とオットー・ヴァーグナー

text & photos by佐野旭司(Akitsugu Sano)

4月の半ば頃から急に暖かくなりはじめ、最近では夏日も多い。こちらでも4月の中旬から下旬の頃には桜もすっかり散って、至るところで新緑が目立つ。
そんな中、4月の終わりにはウィーンの西の端にある緑の多い場所を回ってみた。

自宅からウィーンの中心地に出るには地下鉄U2でショッテントーアに出るのが最も早い。リング通りにあるこの駅はウィーン大学やヴォティーフ教会、日本大使館などの最寄り駅でもあり、地下鉄U2やシュテファン広場行きのバス(1A)のほかに、10本もの路面電車の路線が通っている。フォルクスオーパーや、マーラーの墓があるグリンツィング方面に行く路線もここから出ている。ここから出る路面電車の多くはウィーンの北西部に行くが、その中でもウィーンの森に最も近いところに行くのが43番だろう。
この路線はショッテントーアからアルザー通りを西に進み、17区のヘルナルスやドルンバッハなどの住宅街を通り、この区の西の端にあるノイヴァルデッグに至る。ドルンバッハを過ぎるとだんだんに建物よりも緑の方が目立ってくる。特に終点に近くなると右手に大きなブドウ畑のようなものが見える。そして終点の停留所の周りは、ショッテントーアのような都会とは対照的に、緑に囲まれた郊外のような街並みである。そしてここからさらに足を延ばすとウィーンの森の一部からなるSchwarzenbergparkという公園に辿り着く。この公園にはノイヴァルデッグの停留所から43Aというバスで2~3分ほどで行けるが、この地域のバスは休日だと1時間に1本しか走っていない。私が行った時も40分ほど待たなければならなかったので、公園まで15~20分ほどかけて歩いて行った。
公園に入ると、あたり一面森に囲まれているのが印象的だった。80ヘクタールもの広さで、その大部分はウィーンの森の北部に属しているという。そしてその中を進んでいくと大きな原っぱに出た。ここにはHunde-Auslaufplatzと書いた立て札があって、犬を自由に放すことができる。写真を撮っていたら、足元の周りを小さなテリアがうろうろしていたり、目の前を棒っきれをくわえた犬とそれを追いかける飼い主が走っていたりした。
ちなみにこの公園、もともとはアイルランドの貴族ラーシー家の所有で、山小屋やラーシー家の墓などもあるらしい。ただ、いかんせんあまりに広かったのでそれらを見て回る余裕はなかった(時間的にも体力的にも)。

この日は、この公園を出た後はオットー・ヴァーグナーゆかりの場所を見て回った。
公園の前の通りには43Bというバスが走っている(この路線も休日は1時間に1本しかない)。そしてこのバスに乗って緑に囲まれた道を7,8分ほど進んでいったところで停留所を降りると、辺りは木々に囲まれて建物もあまり見られない。少し歩くと右手にはハルター川という小さな川があり、さらに左手には白亜の建物が見える。これがエルンスト・フックス美術館である。もともとは世紀末ウィーンを代表する建築家オットー・ヴァーグナーがウィーンの森のはずれに建てた別荘で、オットー・ヴァーグナー・ヴィラともいう。この建物はのちに、20世紀後半~今世紀初頭に活躍したウィーン幻想派の画家エルンスト・フックスが買い取り、現在はフックスの作品が展示されている美術館となっている。
建物の中に入ると、オットー・ヴァーグナーらしい白と金色を基調とした壁や天井が印象的だが、その中に色彩豊かなフックスの作品の数々が並んでいて、2つの異なる様式が見事に一体となっている。さらに今の季節だと窓から木々の緑も見え、それもまたこの建物の中を彩っているかのようだ。

そしてこの美術館を見た後は、路線バスと地下鉄U4を乗り継いでシュタインホーフ教会(オットー・ヴァーグナー教会)に足を延ばした。14区にあるウィーンでも有名な教会で、Otto Wagner Spitalと呼ばれる病院の奥にある小高い丘に建てられている。この教会に行くには病院の敷地を通るが、構内は奥に行くほど土地が高くなっているので、階段を何段ものぼらなければならない。この日は4月にしては暑く、また日ごろの運動不足もあって辿り着くのも一苦労だった。そして一番上までのぼったところに教会がある。
オットー・ヴァーグナーによるこの建物は、白い壁と金のドームが特徴的で、金色のキャベツと呼ばれるドームで有名なゼセッションとも色彩的に似ている(ちなみにこちらはヴァーグナーの弟子ヨーゼフ・マリア・オルブリヒの設計による)。教会の中はやはり前述のヴィラと同じように白と金色を基調としている。中でも奥にある祭壇は、燭台やその周りの装飾などがみんな金色で、一瞬日本のお寺の祭壇かと思ってしまった。さらに礼拝堂の左右の壁にある大きなステンドグラスはウィーン分離派の画家コロマン・モーザーのデザインによる。ちなみに前回紹介したプラハ城の聖ヴィート大聖堂にもアルフォンス・ミュシャによるステンドグラスがあるけれど、こちらは建物自体はゴシック様式なのに対し、シュタインホーフ教会は全体がユーゲントシュティールの様式である。この教会はウィーンでも特に有名だが、ウィーンではバロック様式やゴシック様式の教会が多い中でこのような近代の様式による教会はかなり異彩を放っている。
そしてこの教会の裏にもまたSteinhofgründeという大きな公園があり、また病院の敷地内も木々に覆われており、まさに大自然に囲まれた教会といえる。

春から夏にかけてのウィーンでは、このように自然の中で近現代の美術に触れるという変わった楽しみ方もできるのである。

(2018/5/15)

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佐野旭司 (Akitsugu Sano)
東京都出身。青山学院大学文学部卒業、東京藝術大学大学院音楽研究科修士課程および博士後期課程修了。博士(音楽学)。マーラー、シェーンベルクを中心に世紀転換期ウィーンの音楽の研究を行う。
東京藝術大学音楽学部教育研究助手、同非常勤講師を務め、現在オーストリア政府奨学生としてウィーンに留学中