特別寄稿|ゆるっと行こう~イタリア編~|大河内文恵   

ゆるっと行こう~イタリア編~ 

text & photos by 大河内文恵(Fumie Okouchi 

あなたは旅をするとき、きちんと計画を立てる派ですか?それとも、きっちり予定を立てないで出たとこ勝負でいくタイプですか? 

3月末のイタリアを訪れた。勘のいいかたならお気づきだろうが、一番の目的はミラノでのフィギュアスケート世界選手権の観戦である。今や、世界中のフィギュアスケート試合会場に日本人が詰めかけ、羽生選手が出る試合ともなれば、最前列は日本人で埋め尽くさんばかりであるが、残念ながら今回は怪我のため欠場。それでも多くのファンがミラノに押し掛けた。筆者は特定のスケーターのファンではないので、誰が出ようが出まいが問題はない。いい演技が見たい。それだけ。 

ディープなファンはオールチケットを買って練習からすべて観るらしいのだが、そのあたりは遠慮することにして、ローマから入って、フィレンツェを回り、最後にミラノでスケートを見るという行程を組み、飛行機とホテル、都市間移動の電車のチケットとスケートのチケットを握りしめて飛行機に乗った。 

ローマ初日は、スペイン広場に始まり、パンテオン、ナヴォナ広場と定番の観光スポットを廻る。雨降りしきる中だったにもかかわらずパンテオン、トレヴィの泉、コロッセオといった有名スポットには世界中からの多くの観光客が押し寄せていた。だが、そこから少し外れるとそうでもない。石畳のでこぼこ道を歩き回ると、色々小さな発見がある。ヴィットリオ・エマヌエーレ2世記念堂の裏あたりからコロッセオまでの間には、有名なフォロ・ロマーノ以外にもガイドブックに載っていない発掘現場がいくつも見られた。こういう言い方をするとローマに失礼かもしれないが、どこでも掘れば何か出るという意味では京都と似ている。 

コロッセオのチケットの列が長く、その長い列に並んだあと、コロッセオを堪能していたら、フォロ・ロマーノとパラティーノの丘にも入れる共通券を手にしていたのに、そちらに入る門の入場時間を過ぎてしまって入れなかった。次回への宿題にしよう。ちなみにチケットはインターネットで買えるので事前準備が可能。それも宿題だ。 

2日目は早起きしてヴァチカン博物館へ。
Martedì 20 marzo Via Crucis in Vaticano Apertura ritardataといった事情で、午後からしか見られなかったため、かなりの駆け足になったが、この博物館のもつ教会関係美術の圧倒的な質と量を体感できたのは貴重だった。順路の最後にあたるサン・ピエトロ大聖堂は地下墓地も公開されている。ここにはキリスト教が公認される以前からの遺物も展示されており、キリスト教世界というのは、外側から見て想像しているよりも遙かに広大なのかもしれないと感じられた。 

3日目はフィレンツェに移動した後、通称ドゥオーモへ。ジョットの鐘楼に登ると、フィレンツェの街が一望でき、ドゥオーモのクーポラを間近で見ることができる。赤い屋根が連なり、その外側に山が広がる景色は一見の価値がある。鐘楼は階段でしか昇れないが、クーポラはエレベータで昇れるので脚力に自信のないかたはそちらをお勧めする。 

4日目。ウフィッツィ美術館へ。美術品は、海外の作品の現物を日本で観ることも部分的には可能であるといった意味で、音楽よりもグローバルな芸術であるとこれまでは考えていた。現物を持ってこられることは強みである。しかし今回、それが大いなる勘違いであることがよくわかった。「○○美術館展」といった展示であっても、その美術館をそっくりそのまま借りてくるわけではない。もちろん、「日本に来ているものの他にもたくさんあるらしい」ということは頭ではわかっている。しかし、「それ以外」を実際に見ていない状態で想像することは実は難しいことなのだということが、よくわかった。 

ミラノに移動した日、インターネット上に気になる書込みを見つけた。どうやら翌日にスフォルツェスコ城内でコンサートがおこなわれるという。さっそく書込み主に連絡をとって詳細を教えてもらい、男子フリーの表彰式を見届けた後、コンサートに向かった。 

(C)新田壮人

曲目はチプリアーノ・デ・ローレのヨハネ受難曲。ローレというとマドリガルの大家とのイメージがあり、寡聞にして受難曲を作曲していることは知らなかった。始まってみると、受難曲のイメージと少し違う。何が違うのだろう?としばらく考えて気づいた。ラテン語なのだ。これまで聴いてきた受難曲はJ.S.バッハを始め、ドイツの作曲家のものばかり。 

受難曲はプロテスタントの十八番でそれが正統だとなんとなく思い込んできたので、ドイツ語の受難曲は聴き慣れているが、ラテン語で聴くは初めてである。また、いわゆるバロックよりも前の時代の曲なので、曲調も随分違う。加えて、オーケストラの音も歌手の声も非常に柔らかいのだ。特にコントラルトの新田壮人の声は丸みを帯びていて、声量がものすごく大きいわけではないのに豊かに響く声であった。折しも、翌日の3月25日からは受難週が始まるというタイミングに、お城の一角でこのような音楽が聴ける一時が持てたのは、幸運な巡りあわせであった。 

(C)新田壮人

演奏しているのは、クラウディオ・アバド音楽院のバロック・オーケストラと銘打ってはいるが、実際にはこの音楽院の学生以外も含まれているようである。旅先でオペラを観に行ったり有名な演奏家のコンサートに行ったりするのも、それはそれで旅の醍醐味であるが、こうした現地に行かなければ聴くことのできないものに出会えるのも、また別の愉しみである。それは同時に、海外に留学している日本の音楽学生の活躍を直に見られる楽しみでもある。 

旅はしてみるまで、どんな旅になるかわからない。うまくいかなかったことも、予想外にうまくいったことも含めて「旅」。さて次はどんな旅に出ようか。え、帰ってきたばかりじゃないかって? 

註:コンサート写真は新田壮人氏提供 

(2018/4/15)