宮田大 チェロ・リサイタル|丘山万里子

宮田大 チェロ・リサイタル

2018年2月10日 所沢市民文化センター ミューズ アークホール
Reviewed by 丘山万里子
写真提供:所沢ミューズ

<演奏>
チェロ:宮田大
ピアノ:ジュリアン・ジュルネ

<曲目>
サン=サーンス:『動物の謝肉祭』より第13曲「白鳥」
フォーレ:夢のあとに
ドビュッシー(小林幸太郎 編曲):小組曲
  1.小舟にて 2.行列  3.メヌエット 4.バレエ
ブリテン:チェロ・ソナタ ハ長調 Op.65
  1.対話 2.スケルツォ–ピッツィカート 3.哀歌 4.行進曲 5.無窮動
〜〜〜〜
フランク:チェロ・ソナタ(ヴァイオリン・ソナタ) イ長調

(アンコール)
カッチーニ:アヴェ・マリア
ピアソラ:リベルタンゴ

 

宮田大は日本音楽コンクール優勝を皮切りに2009年ロストロポーヴィチ国際チェロ・コンクール日本人初優勝など数々の受賞歴を誇る。桐朋からスイス、ドイツで研鑽を積み、今や引く手あまたで飛び回る若手のスターだ。使用楽器は1693年ストラディ“シャモニー”。

私はアンサンブルでは何度か聴いていたが、ソロは初めて。
先日も(1/18)クァルテット・エクセルシオのゲストでブラームスの弦楽六重奏を弾き、そのぐいぐい音楽を引っ張って行く牽引力に、目を見張った(藤原聡評)。際立って豊かな響きに、楽器のせいかしら、とも思ったが。
彼はいつでも、パッショネイトで力感溢れる演奏、の印象が強い。

まず、『白鳥』、『夢のあとに』がアミューズなんて、恐ろしく自信があるのかも(ただの迎合路線じゃないぞ、的な)と耳をこらす・・・ジュルネの最初の細心の打鍵から鏡の湖面がかすかに波立ち、チェロがすぅーっと白鳥の輪郭を現すとその姿の品格の高さに打たれてしまう。うわあ、この二人、こんなノーブルな音楽、持っているんだ。
チェロはまっすぐ、しなやか。というと矛盾のようだが、要するに届いてくる光(音)がまっすぐで、だけども実にしなやか、そういうボウイングとビブラートと言えば良いか。ピアノはその周りをヴェネチアンレースのように繊細に縁取ってゆく。それら、すべてpp~mpの間(大ホールだからと声を張り上げない)、歌心満開の世界。やっぱりソロでなくては、これは味わえない。
『夢のあとに』はもう少し響きに膨らみが加わり、ほのかな香気が立ち上る。
続くドビュッシーも同じテイストで、この二人のフレンチは清潔な抒情と軽みのある甘さがほどよく、音符一つ一つを手のひらで慈しみつつ丁寧に紡ぎだして素敵だ。
ふと気づいたのは、宮田の高音域の美しさ。チェロの高音は痩せてしまいがちだし、そうそう出てくるものではないが、彼のは中身が詰まってよく響く。すべての音域が自然な歌声になって、しかもそれぞれの味を持ちつつひとつながり(一流の歌手と同じ。継ぎ目なく、ムラがない)。
その歌声を決して邪魔しないピアノが見事で、なんてセンスがいいんだ、この人は、と感心しきりだった。

ガラリと雰囲気が変わってのブリテン。
私はこれを当日のベストとする。
「おい」「何だい?」と一音ずつの声の交わしから始まる<対話>。2度を中心としたやり取りから、「実はね」と結構深刻っぽい打明け話に「いいじゃん、別に」の励まし、時に「そうだよね」としんみり頷き、あるいはちょっとした言い争いに、などなどとにかくあちこち話が飛ぶ。思わず、聴き手もふんふん、と相槌打ちしそうになる、そんな他愛なくも親密な会話を、この二人、幼馴染の少年同士みたいに聴かせるのだ。楽しい。
全編ピッツィカートの<スケルツオ>はピアノのコロコロ走句の上を野うさぎのように跳ね回るチェロの野性味、ピアノのパーカッシブでクリアな打鍵と弦の弾けっぷりがめざましく、こちらもヴィヴィッドな掛け合いに。
一転<哀歌>は静かなピアノのハーモニーに忍び足でチェロが訥々と歌うが、哀歌と言うより深海の底でのモノローグ風。周りをピアノが揺らしたり、鈴のような高音で飾ったりと、ゆったり静寂の中にもくるくる変化する表情が魅力的。
諧謔味に富んだ<行進曲>に鋭角音形で猛進の<無窮動>、撃ち込まれるピアノのソリッドな高音がチカチカ発光、目を射る。
と、ともかく、この二人、ブリテンらしい保守・前衛双方へのやぶにらみ感が随所にのぞく全5章を、エッジの効いた曲さばきで好演した。巧い。

後半のフランクは、いささか一本気だったか。
循環主題やその変容、一つの物語を編むにもう少し工夫が欲しい。いろいろな角度から光を当て、その都度の見え方(聴こえ方)をきめ細やかに扱うこと・・・戻ってくるテーマやフレーズに、お、来る来る、と待ちかまえるこちらのトキメキ感をさらっとかわされるような物足りなさがあるのだ。そういう細部の組み立て、彫琢から、ドラマの奥行と幅が出て全体のスケールがぐんと大きく、ロマンも色濃くなるであろうに、と惜しい。

アンコールは、胸にしみるカッチーニ、熱血ピアソラで会場を沸かせた。
4月に佼成ウインドオーケストラとグルダのチェロ協奏曲をやるとか。指揮は川瀬賢太郎というから面白そう。

(2018/3/15)