注目の1枚|ジャン=ギアン・ケラス&アレクサンドル・タロー/ブラームス|藤原聡

ジャン=ギアン・ケラス&アレクサンドル・タロー/ブラームス

text by 藤原聡(Satoshi Fujiwara)

<演奏>
ジャン=ギアン・ケラス(チェロ)
アレクサンドル・タロー(ピアノ)

<曲目>
ブラームス:チェロ・ソナタ第1番 ホ短調 Op.38
      チェロ・ソナタ第2番 へ長調 Op.99
      ハンガリー舞曲集より第1、4、5、7、11、14番(ケラス&タロー編曲版)

録音:2017年4月、ベルギー、モンス、サン・アルソニック
レーベル:ERATO(WARNER CLASSICS)
商品番号:0190295723934

Harmonia mundiよりシューベルトの『アルペジオーネ・ソナタ』やドビュッシーのチェロ・ソナタなどのデュオ作をリリースしていたケラスとタローの新譜がこの度ERATOから登場。タローはこのレーベルに移籍しているのだから、再度共演するにはどちらかが相手のレーベルに登場しなくてはならない。ケラスはERATOに移籍した訳ではなく、Harmonia mundiの厚意により登場、とクレジットにはある。今後はどちらから発売されて行くのだろうか。

レーベルのことはさておき、演奏は大変に見事なものだ。1696年のジョフレド・カッパ製チェロの音が実に美しく、それはまるで練り絹のような趣。もちろんケラスが弾くからこそこの楽器の美質が生きているであろうことは想像に難くない。ホ短調という調性、低音域が多用され、それゆえブラームスの室内楽曲の中でも晦渋で沈鬱さが際立つ第1番のチェロ・ソナタが、ケラスの滑らかかつしなやかなフレージングで実に非常に見通しよく、そして聴き易く耳に飛び込んで来る。テンポは中庸。ヴィブラートは基本的に抑制されているが、卓越したボウイングによって巧みに音色の変化が付けられていることが聴き取れる。ブラームス独特の情感にももちろん不足はない。タローも抑えて落ち着いたタッチでしっとりとした曲の情緒を見事に生かしているが、この2人の音楽的呼吸感がいかにマッチしているかは第2楽章の中間部で明確に感知できる。うねうねと上下にくねるチェロの旋律に絡みつくピアノ。時にはユニゾンになったりもするこの部分の美しさは様々な演奏の中でも最高のものだろう。終楽章の自由なフーガでは音の扱いが厳格ながら終楽章らしい高揚感もあり、技術的に余裕があって力みがないからこそこういった厳格さと自由さが同居したような演奏が可能となるのだろう。名演。

へ長調で第1番とは対照的に高音域が多用される第2番ではケラスもより素直に振るまっているように聴こえるが、演奏全体の印象としてはなぜか(?)第1番の方が良い。恐らく、この第2番のキモ(と思っている)第2楽章の演奏が軽いことによるものなのかも知れない。嬰へ長調(シャープ6個)というレアな調を取るこの楽章は全体の中でもちょっと不可思議な情緒を醸し出しており、その音楽はいかにもブラームスらしい逡巡と屈折に満ちている。若き日の第1番より53歳時に書かれた第2番はそれがより微妙かつ繊細な形で現れていると思うのだが、この演奏ではやや流れが良すぎるのではないか、という印象。また、反対に終楽章ではさらに浮き立つ感じが欲しい(しかし浮き立ち過ぎてもブラームスらしくないので、この匙加減は難しいだろうが…)。とは言え、トータルに見ればこれもまた名演奏には違いない。

そして、ソナタの後にはケラスとタローが編曲したというブラームスのハンガリー舞曲が6曲収録されている。このアレンジがなかなかに秀逸で楽しい聴き物だが、中でも第4番中間部で突如現れるまるで人声のような高音ハーモニクス(一瞬ケラスが裏声で歌い出すかハミングし始めたのかと思った)が非常な聴き物。

(2018/2/15)