第15回 ヘンデル・フェスティバル・ジャパン《テオドーラ》|藤堂清

第15回 ヘンデル・フェスティバル・ジャパン オラトリオ《テオドーラ》全曲

2018年1月14日 浜離宮朝日ホール
Reviewed by 藤堂 清(Kiyoshi Tohdoh)
Photos by 青柳聡/写真提供:ヘンデル・フェスティバル・ジャパン実行委員会

<出演>
テオドーラ:阿部早希子
ディディムス:山下牧子
ヴァレンス:牧野正人
セプティミウス:辻裕久
イレーネ:波多野睦美
使者:前田ヒロミツ
コンサートマスター:川久保洋子
首席チェロ:懸田貴嗣
オルガン:勝山雅世
管弦楽:キャノンズ・コンサート室内管弦楽団(古楽)
  (1vn:4、2vn:4、va:2、vc:2、viol:1、ob:2、fl-trv:2、fg:1、nat-hr:2、
   nat-trp:2、timp:1、cemb:1、pos-org:1、lute:1)
合唱:キャノンズ・コンサート室内合唱団
  (sop:6、alt:5、ten:4、bass:5)
指揮:三澤寿喜

 

15回目となるヘンデル・フェスティバル・ジャパン、オラトリオ《テオドーラ》を取り上げた。作曲家の存命時には4公演しか行われなかった不人気な作品だったが、近年その充実した音楽が評価され、上演される機会が増えている。
ローマ帝国支配下の古代シリアの首都アンティオキア、テオドーラとディディムス、二人のキリスト教徒の殉教を描く。

第1部冒頭、ローマの総督ヴァレンスが「ローマの神々への祭儀を行うように」と布告、それに加わらない者には死を、と歌う。彼のアリアと続く異教徒たちの合唱、トランペットやホルンが加わる派手なもの。
命令を受けたローマ人将校セプティミウスとディディムスの間で、キリスト教徒への弾圧について対話が交わされ、命令には従わざるをえないとするセプティミウス。
第3場以降は、テオドーラとイレーネ、キリスト教徒たちが集まっている場面。享楽を避け、真理を貴ぼうと歌っている。
使者が異教徒による弾圧が迫っていると告げるが、彼らは留まる。セプティミウスが登場し、総督の命に従わない彼らを非難。テオドーラを売春宿へと連れ去る。入れ替わりに入ってきたディディムスは彼女を救うと歌う。
キリスト教徒たちが彼に天の助けがあるようにと祈る静かな合唱で第1部が終わる。この合唱はヘンデルの合唱の中でも優れたものの一つだろう。

第2部はローマの神々を賛美し酒宴に興じる異教徒の場面から始まる。ナチュラル・ホルンの響きが湧き立つような曲想を彩る。牢獄に囚われているテオドールは神の救いを希求する。フラウト・トラヴェルソのひなびた響きが彼女の思いを伝える。ディディムスが現れ、服を取り換えて彼女が牢から出ていくように説得する。彼が罰せられると拒否するテオドールだったが、最後には彼の説得を受け入れる。天上での再会を期する二重唱が美しい。
場面は変わって、キリスト教徒たちがテオドーラの身を案じ祈り、キリストが死者を蘇えらせた奇跡を歌う。イレーネが教徒たちを鼓舞する。

第3部、イレーネとキリスト教徒もとに、ディディムスの服を身にまとったテオドーラが戻ってくる。彼女が解放されたことを皆喜ぶが、使者がディディムスが死刑となることを伝える。それを聞くとテオドーラは、イレーネの制止を振り切り、彼を救うためにヴァレンスのもとへ向かう。ヴァレンスの前で、ディディムスの代わりに自分に死をという彼女に対し、彼もまた自分のみが死ぬことを求める。その様子に、セプティミウスや他の異教徒も驚き、感動する。ヴァレンスは両者に死を宣告し、テオドーラとディディムスはともに天に上る気持ちを歌う。ここでの二重唱も聴きもの。
最後は、彼らがすでに旅立ったことを予期し、キリスト教徒たちはその気持ちを受け止めて行こうと歌う合唱。

このオラトリオ、演奏時間は3時間半以上と長い、しかも最後まで救いのない物語ではある。しかし、そこにはヘンデル65歳の充実した音楽がつまっている。アリアも合唱もどれをとっても聴きごたえ十分。

演奏面に入ろう。
テオドーラの阿部の透明な声は、高貴な生まれのキリスト教徒という役割に合っている。第1部から第3部まで、さまざまな場面のアリアは、それにふさわしい表情を持って歌われた。とくに第2部第2場、牢獄の中での嘆き、天へ上ることを求める二つのアリアは心打つものであった。一方、レチタティーヴォの表現が少し平板に感じられた。
ディディムスの山下は東京二期会や新国立劇場などのオペラの舞台に立つことも多いが、ヘンデル・フェスティバル・ジャパンへも毎年のように出演している。多様な音色が魅力。牢獄でテオドールから殺してくれと頼まれたとき、それを断る強い表現にはこれまでの経験が活きていた。
イレーネはテオドーラとともにキリスト教徒の中核となる存在。この役を歌った波多野はバロックの分野では欠かせぬ歌手、このフェスティバルの常連である。実に言葉がクリアでレチタティーヴォでもアリアでもはっきり聴き取れる。キリスト教徒の合唱に先立つ場面のレチタティーヴォでの一言一言が重みを持って響く。
ローマの総督ヴァレンスを歌った牧野は、細かな動きの多い音楽をよく歌いこなしていた。また、第3部での判決を下す場面での威圧的な歌も迫力が感じられた。
ローマ人将校セプティミウスの辻だが、第1部では声(体も?)が去年と較べ、やせたように感じられた。第3部で、テオドーラ、ディディムスが互いに自分だけに死をと主張しあうことに驚き、感動し、彼らに救いをと歌うが、そこでは抑えた声で思いを伝えていた。彼のレチタティーヴォは、言葉がはっきりしていて、的確にドラマを描き出していた。

キャノンズ・コンサート室内管弦楽団、キャノンズ・コンサート室内合唱団が三澤の指揮のもと、ヘンデルの音楽はこういったものだと自信をもって演奏していた。各部の最後に置かれたキリスト教徒の合唱は感動的であった。

ヘンデル・フェスティバル・ジャパン15回という積み重ねが感じられる熱い演奏であった。

なお、役名は歌われるときの英語読みとは異なるが、プログラムの表記に従った。

(2018/2/15)