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東京都交響楽団 シベリウス《クレルヴォ交響曲》|藤堂 清

東京都交響楽団 第842回定期演奏会Aシリーズ
シベリウス:《クレルヴォ交響曲》

2017年11月8日 東京文化会館
Reviewed by 藤堂 清(Kiyoshi Tohdoh)
Photos by 林喜代種(Kiyotane Hayashi)

<演奏>
指揮:ハンヌ・リントゥ
メゾソプラノ:ニーナ・ケイテル
バリトン:トゥオマス・プルシオ
合唱:フィンランド・ポリテク男声合唱団
合唱指揮:サーラ・アイッタクンプ
管弦楽:東京都交響楽団

<曲目>
シベリウス:クレルヴォ交響曲 Op.7
I 導入部
II クレルヴォの青春
III クレルヴォと彼の妹
IV 戦いに赴くクレルヴォ
V クレルヴォの死
——————-(アンコール)——————
シベリウス:フィンランディア(合唱付き)

 

壮大な合唱が英雄クレルヴォの死を悼む。しばしの沈黙のあと、大きな歓声と拍手がわきおこった。

シベリウスの初期の大作《クレルヴォ交響曲》、東京都交響楽団がフィンランドから指揮者、独唱者、合唱を招き、定期公演で取り上げた。
フィンランドの民族叙事詩『カレワラ』から採った青年クレルヴォの悲劇に基づく作品、5楽章からなり、長大な第3楽章と最後の第5楽章のみ声楽が加わる。1892年の初演はシベリウスの名を広めることとなったが、しばらくして作曲家自身が曲を封印し、彼の死後1958年まで演奏されることはなかった。

第1楽章冒頭のはずむ低弦に惹きつけられ、それに続く金管楽器の強奏に圧倒される。ゲネラルパウゼのあとの強奏が緊迫感を強め、クラリネットやホルンが雄弁に歌う。ハンヌ・リントゥの指揮が東京都交響楽団から、ダイナミクスの大きな、リズムの明確な音楽を引きだす。
各楽器群の音もよく整っている。とくに金管楽器の厚みのある響きは、国内のオーケストラではなかなか聴けないレベルのもの。
第2楽章には抒情的な部分もあるが、そこでの弦楽器群の美しい音も魅惑的であった。

物語は、滅ぼされたカレルヴォ一族の生き残りクレルヴォが主役。第3楽章では、彼が旅の途中で出会った乙女を誘惑、二人に拒絶され、三人目を無理やり引きずり込み、宝物で誘惑し思いを遂げる。互いに名乗りをあげると、実の兄妹であることが分かり、彼女は自死する。第3楽章は、この経過を、クレルヴォ役のバリトン、乙女らを歌うメゾ・ソプラノ、そして話の進行役の合唱という形で展開していく。
フィンランド・ポリテク男声合唱団はヘルシンキ工科大学の学生、卒業生で構成される。100名もの団員が載った舞台は壮観だが、その声はそれ以上に圧倒的なもの。強い声を張り上げる時でなくとも厚みのある響きが会場全体をうめる。”Kullervo Kalervon poika,(クレルヴォ、カレルヴォの子は、)”と歌いだしたときに、背中に電気が走るような衝撃をうけた。
バリトンのトゥオマス・プルシオとメゾソプラノのニーナ・ケイテルは安定した歌いぶり。指揮者リントゥはプログラムの中で、「《クレルヴォ》はフィンランド語特有の要素があるため、フィンランド人の歌手で演奏されるべき」と述べている。二人の中堅のフィンランド人歌手は彼の要請に応えていた。
妹の死をうけて、自らの存在を呪うクレルヴォの悲痛な歌でこの楽章が終わる。

第4楽章は一族の仇を討ちに出発するクレルヴォをえがく。オーケストラだけだが、弾むような音楽は前の楽章の気分を転換してくれる。ここでも東京都交響楽団の充実がきける。

最終第5楽章は、戦いに勝利したクレルヴォが故郷に戻り、妹を汚した場所で剣に身を投げ死ぬ場面。男声合唱がその経緯を歌い上げる。クレルヴォの言葉や剣の言葉の緊迫したやりとりが行われ、最後にクレルヴォの死が歌われる。

なりやまない拍手に応え、《フィンランディア》が演奏された。ここでも合唱の威力・魅力が発揮された。オーケストラ曲としても名曲だが、よい合唱が加わるとさらに聴き映えがする。
金管楽器の充実した音、弦楽器の厚い響き、オーケストラもリントゥの指揮を受け止め、盛り上がりをみせた。

フィンランドにどっぷりつかったすばらしい一夜となった。
終演後着替え終えた合唱団のメンバーがホワイエに集まり、帰りかけた聴衆の拍手に応えるように、合唱を始めた。本当に歌うのが好きなのだろう。美しい響きが追加のアンコールとなった。