クラウディオ・モンテヴェルディ《ポッペアの戴冠》|藤堂清

クラウディオ・モンテヴェルディ
歌劇《ポッペアの戴冠》全3幕(演奏会形式、アラン・カーティス版)

2017年11月25日 神奈川県立音楽堂
Reviewed by 藤堂 清(Kiyoshi Tohdoh)
Photos by 青柳聡/写真提供:神奈川県立音楽堂

<スタッフ>
指揮:鈴木優人
舞台構成:田尾下哲

<キャスト>
ポッペア:森麻季(ソプラノ)
ネローネ:レイチェル・ニコルズ(ソプラノ)
オットーネ:クリント・ファン・デア・リンデ(カウンターテナー)
オッターヴィア:波多野睦美(メゾ・ソプラノ)
フォルトゥナ/ドゥルジッラ:森谷真理(ソプラノ)
ヴィルトゥ/ヴェネレ:澤江衣里(ソプラノ)
アモーレ/ヴァレット:小林沙羅(ソプラノ)
アルナルタ/乳母/セネカの友Ⅰ:藤木大地(カウンターテナー)
兵士Ⅰ/ルカーノ/セネカの友Ⅱ:櫻田亮(テノール)
セネカ/警護官:ディングル・ヤンデル(バス)
メルクーリオ/セネカの友Ⅲ/執政官:加耒徹(バリトン)
ダミジェッラ/アモーレⅡ:松井亜希(ソプラノ)
パッラーデ/アモーレⅢ:清水梢(ソプラノ)
兵士Ⅱ/リベルト/護民官:谷口洋介(テノール)

バッハ・コレギウム・ジャパン
リコーダー/ショーム:アンドレアス・ベーレン、三宮正満
ヴァイオリン:若松夏美(コンサート・マスター)、高田あずみ
ヴィオラ:成田寛
〈通奏低音〉
ドゥルシアン:アンドレアス・ベーレン
ヴィオラ・ダ・ガンバ:エマニュエル・ジラール
チェロ:懸田貴嗣
ヴィオローネ:西澤誠治
アーチリュート:野入志津子
ギター/テオルボ:佐藤亜紀子
ハープ:エレーナ・スポッティ
チェンバロ/オルガン:北御門はる
チェンガロ/レガール:鈴木優人

 

モンテヴェルディの生誕450年の掉尾を飾るにふさわしい公演であった。

指揮の鈴木優人のもとに集まった歌手14名、奏者13名、バッハ・コレギウム・ジャパンのコンサートに登場する機会のあるメンバーが多く、古楽の演奏に精通した人が大部分。器楽はそれぞれの楽器の名手であるし、歌手もヴィブラートを抑えたこの時代にふさわしい歌い方。歌う場面が多いポッペア、ネローネ、オットーネ、オッターヴィア以外の歌手は複数の役を担当した。
今回は、バロック音楽の権威であったアラン・カーティスが、モンテヴェルディ死後の再演時の筆写譜に基づき作成した版が用いられた。楽器声部や通奏低音の扱いは演奏者に任される部分が多いが、鈴木優人は多くの古楽器をとりいれている。

オペラは天上の世界で美徳の神と運命の神が互いに相手を否定しているところから始まる。そこへ登場した愛の神が自分の力で世界が変わると言い、その証として地上の物語が動き出す。ローマ皇帝ネローネとポッペアの不倫のカップルが、ネローネの皇妃オッターヴィアとポッペアの夫オットーネを追放し、愛を成就し、ポッペアが皇妃となる。と約めてみれば現代の倫理観からみると首をかしげたくなるようなものなのだが、オッターヴィアもオットーネにポッペア殺害を命ずるなど正義があるとは言いがたい。彼ら主役たちだけでなく、その周りの人々の心の動きや行動が緻密に描かれている。
レチタティーヴォでの通奏低音の弾みのある音楽とそれに載った歌手の明晰な言葉さばきが、ストーリーをぐいぐいと進めていく。どの歌手も個性を持ちながら、確実な技術に支えられた歌であった。

将軍オットーネのクリント・ファン・デア・リンデは細身の声だが、響きはしっかりしている。外地から帰還した喜びがポッペアの裏切りを知り愕然とするところなど見事な表現力。
ついで、ネローネとポッペアが別れを惜しんで歌う二重唱、ポッペアの森麻季の輝きのある声とネローネのレイチェル・ニコルズの厚みのある声が美しく響きあう。二人とも古楽に合った発声で、音程が安定しているのが気持ち良い。
ポッペアの乳母アルナルタとオッターヴィアの乳母はともに藤木大地。腰に巻いていたエプロンを裏返して早変わり、波多野睦美のオッターヴィアとの場面に移る。哲学者セネカがオッターヴィアに忍耐を説くが、ディングル・ヤンデルのバスの若々しく厚みのある声は説得力がある。第2幕のセネカの死の場面でのヤンデルは、舞台を降り客席の中に立ち別の世界に行く決意を歌った。
オットーネは、オッターヴィアの命令を受けポッペアの殺害へ向かうが、その際彼に想いを寄せる女官ドゥルジッラの服を借りる。寝ているポッペアを殺そうとする企みは愛の神にさえぎられ失敗に終わる。目を覚ましたポッペアとアルナルタはドゥルジッラが犯人と思いこむ。
第3幕で、ドゥルジッラは逮捕され死刑を宣告されるが、愛するオットーネの身代わりとなることを決意する。そこへオットーネが現れ、真犯人が自分であること、オッターヴィアから指示されたことを告白する。ネローネは二人を追放とするが、ドゥルジッラもオットーネとともに行くことを望み、それを許される。小舟で海に流されるオッターヴィアの〈さらば、ローマ〉を波多野が切々と歌った。
すべての障害がなくなり、ポッペアの戴冠式が行われる。ここでのポッペアとネローネの二重唱は終幕にふさわしいものであった。

器楽でも、リコーダーとショームのアンドレアス・ベーレン、アーチリュートの野入志津子、ハープのエレーナ・スポッティ、チェンバロとオルガンの北御門はるなどは多くの場面で際立っていた。
もちろんこの公演の最大の立役者は、指揮者でありチェンバロも担当した鈴木優人である。どのような編成で演奏するか、演奏者をどうやって選定するかといったことから決定しなければならず、公演にいたるまでに様々なステップを踏んできていることだろう。大いに称賛したい。

今回の成果を一回限りのものとはせず、再演を期待したいし、舞台公演もと夢がふくらむ。また、モンテヴェルディの他の作品、《オルフェオ》や《ウリッセの帰郷》への挑戦も楽しみに待ちたい。