木下牧子 作品展4 ピアノ・プラス|大河内文恵

木下牧子 作品展4 ピアノ・プラス

2017年10月05日 東京文化会館小ホール
Reviewed by 大河内文恵(Fumie Okouchi)
Photos by 林喜代種(Kiyotane Hayashi)

<演奏>
永野光太郎(ピアノ)
田中拓也(アルト・サクソフォン)
佐野隆哉(ピアノ)
戸澤哲夫(ヴァイオリン)
小野富士(ヴィオラ)
藤森亮一(チェロ)
藤原亜美(ピアノ)
西久保友広(マリンバ)
小川明子(アルト)

<曲目>
木下牧子:6つのフラグメント [ピアノソロ]
    :夜は千の目を持つ [アルト・サクソフォンとピアノ]
    :もうひとつの世界 [ピアノ・カルテット)

~休憩~

木下牧子:時のかけら [マリンバとピアノ]
    :歌曲『涅槃』(詩:萩原朔太郎) [アルト、チェロ、ピアノ]
    :パズル [2台ピアノ]

 

合唱経験者にとって、木下牧子は特別な存在である。『ティオ』、『方舟』をはじめ多くの合唱曲を歌ったり聴いたりした経験をもつ者は少なくないはずだ。合唱曲作曲者としてあまりにも大きな存在であるがゆえに、他のジャンルの作品は知られることが少ないが、だからこそ楽しみにしていた人が多かったのだろう。開演前から大行列ができていた。

東京都立芸術高校ピアノ専攻を卒業した木下にとって、ピアノは「私の原点」(パンフレットより)であり、すっかり手の内に入ったものであることは、1曲目の『6つのフラグメント』を聴いていると、ピアノが弾きたくなってムズムズすることからも明らかである。永野があまりにも楽しそうに弾いているというのはもちろんだが、決して「最先端」ではないその音楽は、ときに坂本龍一風なフレーズが聴こえたり、リゲティ風だったり、シェーンベルク風だったりする。だからといって、亜流というわけではなく、そういった「ピアノらしい」音楽を木下流にうまくまとめていて、こちらのピアノ心をくすぐってくる。

続く『夜は千の目を持つ』はアルト・サクソフォンとピアノのデュオ。2つの楽章から成るが、2楽章のほうが圧倒的によく、5分間の演奏時間があっという間に過ぎてしまった。これを凌ぐ好演だったのが、休憩後のマリンバ&ピアノによる『時のかけら』である。ピアノは伴奏ではなく、打楽器的に扱われ、まるで2台の打楽器によるデュオのように聴こえ、マリンバとピアノとがこれほど相性が良いのかと目から鱗が落ちる思いがした。

今回の演奏曲の多くがここ10年以内に作曲されたものであるが、その中で唯一木下の学生時代に作曲されたのが、歌曲『涅槃』である。始まった瞬間に「あぁ木下牧子!」と声が出そうになる節回し。チェロを加えた新しい編成による演奏だったが、木下節は健在。小川の歌は、歌詞がはっきりと聞こえ、変幻自在な木下節と相まって萩原朔太郎の幽玄で幻想的な世界を余すところなく表現していた。

圧巻だったのは、最後に演奏された新作の2台ピアノによる『パズル』。永野と佐野は12分間ずっと弾きっぱなし。繰り返し出てくるフレーズが頭に残り、しばらく離れなかった。出来たばかりの作品で楽譜はまだ出ていないが、出版を強く望みたい。

個人的な話になるが、むかし筆者が『方舟』の伴奏を弾いたとき、譜読みの段階ではわけが分からないのに、歌と合わせると弾いていて非常に気持ちよく、合唱メンバーにも好評だった経験がある。木下の合唱曲の魅力は歌唱声部だけでなく、ピアノパートにもあったのかと、本日の演奏会で今更ながら気づいた次第である。ロビーで販売されていた『6つのフラグメント』の楽譜は、出版者の担当者いわく「手に馴染む」もので、家に帰ってから自分の指でその感触を楽しむことができた。こうやって後から二度味わえるのも、この演奏会の醍醐味の1つだったと言えるかもしれない。