會田瑞樹ヴィブラフォンソロリサイタル~はじまりの場所で~|齋藤俊夫

會田瑞樹ヴィブラフォンソロリサイタル~はじまりの場所で~

2017年10月26日 杉並公会堂小ホール
Reviewed by 齋藤俊夫 ( Toshio Saito )
Photos by 林喜代種( Kiyotane Hayashi )

<演奏>
ヴィブラフォン、マリンバ(*):會田瑞樹

<曲目>
山根明季子:『glittering pattern #2』(2017年委嘱新作、世界初演)
清水一徹:『Camera obscura』(2017年委嘱新作、世界初演)
稲盛安太己:『Blumenstrauß~花束~』(2017年委嘱新作、世界初演)
湯浅譲二:『ヴァイブ・ローカス』(會田瑞樹2015年委嘱作品)
薮田翔一:『Billow II』(2015年會田瑞樹献呈作品)
権代敦彦:『光のヴァイブレーション』(會田瑞樹2016年委嘱作品)
間宮芳生:『Music for Vibraphone and Marimba』(2016年委嘱新作、世界初演)(*)
(アンコール)
吉川和夫:『六丁目の青空』

 

2010年台初頭に日本現代音楽界に現れてから、今や時の人とも言うべき活躍を見せている會田瑞樹、今回は初めてリサイタルを開いた杉並公会堂で、2015年から本演奏会までに彼が委嘱したヴィブラフォンソロ作品を揃えての演奏会である。

山根作品、短い上行音型を、叩く奏法・マレットの質・ペダリングなどを少しずつ変えつつ、また上行音型の音高と形も少しずつ変形しつつ延々と繰り返す。軽やかに跳躍する部分も挟むが、また上行音型の変形と反復に戻る。おそらく音型は長調と言って良いはずなのだが、そこは山根、何故か不気味な「毒」が交じっている。最後は跳躍してからの上行音型で「明るく」終わるが、その明るさがなんとも気味が悪いのが作曲家の個性であろう。

清水作品はE音が冒頭から全篇に渡ってゆっくりとパルスを刻み続け、そこにF音(正確に言えばF音より1/4だけ低い音)が交じるのが一種の持続音として現れる。非常に禁欲的な音楽であり、速いパッセ―ジに入ったりペダルを解放したりしても、締め付けられるような緊張感が解けない。最後は最弱音のE音のパルスが消え入って終わるのだが、そのE音の存在感は極めて強い印象を残した。こういうヴィブラフォン作品もあるのか、と感嘆した。

稲森作品は、いきなり鍵盤を布で拭き始め、ビニールシートと包装紙(おそらく)をハサミで切り始めたときは、「何だこれは」と思ったが、その後たくさんのマレットを束ねてビニールシートと包装紙でくるんで『花束』ならぬ『マレット束』が完成して作品が終わったとき、筆者は非常にがっかりしてしまった。予想の範囲内の結末であり、そこに「異化」や「脱構築」などと言われる何かが足りなかったのである。筆者はこういうパフォーマンス作品は嫌いではないが(例えば松平頼暁や中川俊郎の作品など大好きである)、もっと「驚き」と「謎」、そして「不条理」と一体となった「論理」がなければならないと考える。

弦楽器の弓で鍵盤を奏する冒頭から始まった湯浅作品は、言わば「正攻法」の音楽。長い余韻、ペダリング、グリッサンド、マレットの質による音色の違い、などのヴィブラフォンの多彩な響きを余すところなく生かして美しく奏でる。しかし、一般的な「美しい」という単語だけでは形容しきれない、快楽的なものを拒絶する「厳しい」音楽でもあった。

薮田作品は硬いマレットで奏される、會田以外では不可能ではないかと思われるほどの超高速の音楽。狭い音域に密集したある種強迫的なパッセージが強烈な印象を残した。およそ3分間ほど、隙も無駄も全くない、極めて爽快な作品であった。

20分ほどの権代の大作、金属の細い棒でのグリッサンドから最高音域でのロールで始まり、クレシェンドとデクレシェンドが繰り返される中、広音域を硬いマレットできらびやかに叩く超高速パッセージ、あるいは反対に軟らかいマレットでゆっくりと静かに余韻を響かせるなど、様々な音楽的波と渦が押し寄せる。その波が最後に静かな同音反復の中に消え行くまで、神秘的な響きに魅了された。

プログラム最後の間宮作品は、各楽章1、2分の5楽章からなる作品で、全く奇をてらった所のないシンプルな作品なのに、実に豊かで深い音楽性を具えていた。若々しいヴィヴァーチェの第1楽章、余韻にたゆたう第2楽章、朗らかに跳ね回る第3楽章、マリンバとヴィブラフォンがつながって演奏され、万華鏡を覗くような煌めきに満ちた第4楽章、民謡(岐阜県の雨乞唄)をしみじみと奏でる第5楽章、いずれも完璧としか言いようがない。終曲の雨乞唄の素朴な響きと旋律の美しさをなんと表現できようか。間宮芳生、なんという境地に至ったのであろうか。

温かく静かな吉川作品をアンコールとして締めくくられた會田の本演奏会、演奏家と作曲家が共鳴し合った素晴らしい舞台だった。日本現代音楽界に一条の陽光が射しこんだかのような気がした。