アーサー・サリヴァン コミック・オペラ《ミカド》|藤堂清

平成29年度 新国立劇場 地域招聘オペラ公演 びわ湖ホール
アーサー・サリヴァン:コミック・オペラ《ミカド》
    (日本語上演/日本語・英語字幕付)

2017年8月26日 新国立劇場 中劇場
Reviewed by 藤堂 清(Kiyoshi Tohdoh)
写真提供:びわ湖ホール

<スタッフ>
指揮:園田隆一郎
演出・訳詞:中村敬一
美術:増田寿子
照明:山本英明
衣裳:下斗米雪子
振付:佐藤ミツル
音響:押谷征仁(びわ湖ホール)
舞台監督:牧野 優(びわ湖ホール)

<キャスト>
ミカド:松森 治*
ナンキプー:二塚直紀*
ココ:迎 肇聡*
プーバー:竹内直紀*
ピシュタッシュ:五島真澄
ヤムヤム:飯嶋幸子
ピッティシング:山際きみ佳
ピープボー:藤村江李奈
カティーシャ:吉川秋穂
貴族・市民:河出綾子、奈良絵里加、南さゆり、糀谷栄里子、益田早織、溝越美詩、
      川野貴之、島影聖人、増田貴寛、内山建人、宮城島 康、浦野裕毅
管弦楽:日本センチュリー交響楽団
           *びわ湖ホール声楽アンサンブル・ソロ登録メンバー

 

大いに笑わせてもらった。これは楽しんだもの勝ちだろう。

ウィリアム・S・ギルバートの脚本、アーサー・サリヴァンの作曲、ロンドンのサヴォイ劇場のために書かれたサヴォイ・オペラ、その中で最も成功した演目がこの《ミカド》。1885年の初演時には600回をこえるロングランを記録したという。コミック・オペラあるいはオペレッタと呼ばれるセリフをまじえた音楽劇である。舞台を日本に設定しているが、当時の英国の権力者を揶揄するものであった。その点は、時代、場所を超え共通する部分はあると考えられるし、演出家の狙いもそこにあったと思われる。
新国立劇場の地域招聘オペラ公演、8月5、6日にびわ湖ホールで上演された舞台を東京で披露したもの。歌もセリフも日本語訳により演奏されたが、原語である英語は舞台上部に字幕として表示するという配慮がなされた。日本語の訳詞は演出と絡めており、とくにセリフにはいろいろな時事ネタ(「このハゲー」、表だけで内側は白紙の札束など)を盛り込み、会場全体を笑いでつつむ。日本語の字幕も舞台両脇に出していたが、出演者の言葉はそれが不要と思えるほど聞き取りやすかった。コミック・オペラの性格を考えれば、日本語上演は適切な選択だったろう。

演出はかなり飛んだもの。
「外国人の見た日本~ジャポニズム」をテーマに、「日本を訪れた外国人のためのツァーガイドのサイト」のように次々変わる観光地や情景を背景に進めていく。日本人が考える「外国人の思っている日本」という設定それ自体が可笑しい。
初めに登場する市民のいでたちはやっこと道化師を合体したようだし、ヤムヤム、ピッティシング、ピープボーの三人の女性も女子高生(JK)をイメージさせるような制服のえり付きの和服調といった具合。放浪の吟遊詩人(実はミカドの息子)ナンキプーは大型バイクに乗りジーンズ姿で登場する。ナンキプーが、ヤムヤムの婚約者で町の最高執政官ココや、ナンキプーと結婚しようと追いかけてくるカティーシャとのごたごた、ミカドの出す勅命、死刑をめぐる制度のしばりを乗り越えて、相思相愛のヤムヤムと無事結ばれるまでが描かれる。
めでたしめでたしとなったところで皆が着替えて出てくる。女性はキャバレーのホステスのような、男性もすこぶる軽装に。なんといってもミカドが道頓堀のグリコ広告のランナーとなって現れたのには度胆を抜かれた。関東の人間ではここまで思い切った舞台にはできまい。

音楽面では、園田が緩急自在な指揮で実に豊かな音楽を作り出した。
ツギハギ細工のような序曲から始まるが、それを丁寧に曲想の変化を追いまとめていく。全体を通して、歌手には歌いやすいように配慮しながらも、流れはしっかりとおさえている。管弦楽に、びわ湖でも弾いた日本センチュリー交響楽団を使ったこともよい選択であった。
ナンキプーに登場の場面と第2幕に難易度の高い歌がある。二塚はみごとにこれを歌い上げた。その他のアンサンブルでも中核となっていた。
ココの迎の動き回りながらの歌も楽しいし、プーバーの竹内、ピシュタッシュの五島の、声もふくめた演技はなかなかのもの。ミカドの松森は立派な声で終盤をまとめ上げた。
ヤムヤムの飯嶋のさわやかな声、その姉妹、ピッティシングの山際とピープボーの藤村との場面でのほのかな笑みをさそう歌、十分に役割を果たしていた。憎まれ役カティーシャの吉川も安定していた。

こういった歌手たちがびわ湖ホールに所属し、あるいはかつて所属していたということが、今回の上演で重要な役割を果たしていたように思う。普段いっしょに活動していることで、アンサンブルをみがいていくことが容易になったであろうし、卒業生(?)であっても共通の基盤を持っていることは、ソリストを外部から迎える場合とは出発点が違う。
この地域招聘オペラ公演を通じて、オペラ劇場としてのびわ湖ホールの底力をみたように感じた。

関連評:アーサー・サリヴァン コミック・オペラ「ミカド」|能登原由美
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