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パーカッション・パフォーマンス ビートジャック「時を打つ!」|大田美佐子

パーカッション・パフォーマンス ビートジャック「時を打つ!」

2017年8月29日 伊丹アイフォニックホール
Reviewed by 大田美佐子(Misako Ohta)
Photos by クマクラトオル/写真提供:ビートジャック

<演奏>
池田安友子・内山光知子・高鍋歩・安永早絵子

<曲目>
内山光知子:追われる時間 -私の時間をとりもどせ-
内山光知子:RE-
安永早絵子:終わりなきロンド
池田安友子:Likework

-休憩

安永早絵子:バンリマン・ラムガ
安永早絵子:竹の時
池田安友子:未来の空へ
高鍋歩:See you next time

 

伊丹のアイフォニックホールで開かれたパーカッション・パフォーマンス、ビートジャックを聴いた。ビートジャックは、関西を拠点に活躍する4人のパーカッショニスト、池田安友子、内山光知子、高鍋歩、安永早絵子が2004年に結成したグループである。ビートジャックとの出会いのきっかけは、苦楽園のギャラリー・アルコで開かれた「ザ・ネイチャー」のライブで聴いたカホンの名手、池田安友子。このうえもなく柔らかで強靭な上半身から生み出されるそのリズムは、抜群のキレの良さだけではなく、しなやかなビートが、まるで歌のように「艶やかに」流れていくのが鮮烈な印象だった。

結成13年目、12回目を数えるビートジャックのテーマは<時を打つ>。幼児も参加できる昼の部と、夜の部から構成される。今回はワークショップの要素をもつ昼の部ではなく、夜の部を聴いた。プログラムはオール新譜。四人の個性豊かなパーカッショニストそれぞれが書き下ろした、新しい出会いの高揚感が、会場全体を覆っていた。そこで展開されたのは、演劇的なファンタジーに富む、パーカッションの発想で作られたムジークテアター。それぞれの個性豊かな楽器から織りなされる対話は、見事なほど演劇的な要素が強い。 日常的でエコロジカルな視点、あるいは宇宙的な広大さ、人と人との出会いや別れなど、世界を映し出す楽曲コンセプトが楽しかった。

ダブルセカンドの名手、内山光知子の二曲目『RE-』は、古くなったマリンバの鍵盤に新しい息吹を吹き込むというコンセプトで、奏者同士の動きが暗示する儀礼的な美しさもある作品。安永早絵子の『終わりなきロンド』はマリンバとビブラフォンが絶妙に役割を交替しながら、終わりなき対話を続けた。後半の一曲目、同じく安永の『バンリマン・ラムガ』は、四人の奏者が一台のマリンバに並び、マリンバとガムランが一体化したような錯覚に陥るほど、ガムランの響きだけでなく、身体性と呼吸の間合いの特徴をマリンバに写しとった傑作。池田安友子の『Likework』は、四人の奏者それぞれが選んだ「一番自由になれて大好きな楽器」だという、カホン、ダブルセカンド、ティンパニー、コンガによって織りなされる絶妙なリズムの対話とハーモニーである。

プログラムのなかでも、特にムジークテアター的な要素が際立ったのは、安永の『竹の時』。二つに割られた竹が舞台の中央に置かれ、観客は楽器のみえないところで、アンクルンの音を聴く。まるで、竹林の中でしばし目をつぶり、アンクルンの音が起こす風に吹かれているような、希有な体験をした。カホンでさえ歌にしてしまう池田安友子の『未来の空へ』では、池田のマリンバが紡ぐこのうえない優しい歌に、心が奪われた。

前のめりなポリリズムの『追われる時間』(内山光知子作)で明るく始まったビートジャックの<時を打つ>は、誰もが思わず口ずさんでしまうほど、親しみのある歌をもつ高鍋歩の楽曲『See you next time』で幕を閉じた。様々な楽器の個性と鼓動を引き出し、歌を紡ぐビートジャックのパーカッション・パフォーマンスは、世界で刻まれている時の一瞬一瞬が、新しい、鮮烈な出会いであることにも気づかせてくれた。来年の2月23日には、北千住の東京芸術センターで東京公演を行う。楽しくも奥深いパーカッションの世界を、ぜひ多くの方に堪能して頂きたい。