Pick Up (17/08/15)|オペラ「鑑真東渡」|大河内文恵

オペラ「鑑真東渡」

2017年7月5日 Bunkamuraオーチャードホール
text by 大河内文恵(Fumie Okouchi)

2016年12月東京初演された、江蘇省演芸集団有限公司制作によるオペラの日中国交正常化45周年を記念した再演を聴いた。この公演では、日本の団体の制作によるオペラあるいは海外オペラの引っ越し公演などとはかなり異なる様相がみられ、戸惑うことが多々あった。

まず、渡されたパンフレットの表紙が中国語で書かれており、中を開いてみても主体は中国語で要所要所に日本語訳がつけられているのみ。その日本語訳も通常の言葉遣いとは異なっている部分が多く、読み解くのに時間がかかる。

さらに、当日のキャスト表が見当たらない。パンフレットに出演日の記載はなく、そういったプリントが挿まれているわけでもなく、会場のどこかに張り紙がないかあちこち探してみたが見つからず。結局その日のキャストは登場した時点で字幕において示され、カーテンコールの時に再度字幕で示されただけ。これでは、出演者のことをよく知っている人には何の問題もないだろうが、中国のオペラ歌手について知識がほとんどない身にはつらい。

また、表示された日本語字幕は、漢文の書き下し文の形態なので、頭の中で和文に変換する作業が必要になり、ついていくのが精一杯だった。とはいえ、有名な鑑真の逸話にもとづいたストーリーの概要はよく知られたものであるから、細部を知りたいと思わなければ問題はなかったのかもしれない。

筆者の席は1階の前方左端で、舞台の左側がまったく見えなかったのだが、それでも舞台の美しさには目を見張るものがあった。固定された舞台装置は天井からつるされた細長い白い帯状の布だけなのだが、それを歌手やダンサーが巧みに操ることにより自在に空間を変化させる。そこに場面に応じた照明が当てられて否が応にも盛り上がる仕組みである。出演者の衣装も見事で上質なスペクタクルを堪能できた。

オペラ全体は6幕に分かれており、それは鑑真の渡航の回数と一致している。ストーリーは、鑑真を称える内容を縦軸に、弟子や旅の途中で出会った人々との交流を横軸にとって進んでいく。音楽は中国風な旋律や和声が随所にみられつつも、全体としては西洋音楽の脈略で作られており、日本のことを想う部分には日本的な音楽があてられている。「現代オペラ」的な難解さは比較的避けられ、初めて聞く人でもストーリーにすっと入っていけるように配慮されていたようだ。

通常、オペラの上演では生の音を大切にする習慣が尊重されるため、マイクやスピーカーといった音響設備(PAシステム)は使わないのが原則だが、今回はマイクがつかわれ、増幅された音が客席に流された。主要歌手の声はいずれも素晴らしく、マイクがなくても良かったのではないか?とも思ったが、たしかに中国と日本の筝の音は増幅しなければオーケストラや歌手の声に埋もれて聞こえなくなってしまっただろう。完璧な音響を目指すという意図は理解できなくはないが、PAが入るとどうしてもミュージカル色が強くなってしまって、オペラを聴いている感覚が薄れてしまうのは筆者だけであろうか?

余計なお世話だが、エンターテインメントとしての完成度の高さゆえに、もしこれを他の国のオペラ団体が上演しようとしたら、そこには途轍もなく高いハードルを乗り越えなければならなくなるのではないかという懸念が生じた。とくに中国雑技団とまでは言わないまでも、高い身体能力をもったダンサーたちのあの踊りは再現が難しいのではないか。

主催団体は中国と日本での上演しか視野に入れていないのかもしれないが、いつか他の国で上演することになったとき、そこをどう乗り越えるのか、見てみたい気がする。そのときには、現地の上演習慣にも、もう少し思いを馳せていただけると幸いである。