シューマン・クァルテットⅠ|藤原聡   

クァルテット・ウィークエンド2017-2018 
シューマン・クァルテットⅠ

2017年6月10日  第一生命ホール
Reviewed by 藤原聡(Satoshi Fujiwara)
Photos by 林喜代種(Kiyotane Hayashi)

<演奏>
シューマン・クァルテット
  エリック・シューマン(第1ヴァイオリン)
  ケン・シューマン(第2ヴァイオリン)
  リザ・ランダル(ヴィオラ)
  マーク・シューマン(チェロ)

<曲目>
ハイドン:弦楽四重奏曲 変ロ長調 Op.76-4 Hob.ⅲ-78『日の出』
バルトーク:弦楽四重奏曲 第2番 Op.17 Sz.67 BB75
ベートーヴェン:弦楽四重奏曲 第7番 ヘ長調 Op.59-1『ラズモフスキー第1番』
(アンコール)
モーツァルト:弦楽四重奏曲 第23番 ヘ長調 K.590『プロイセン王第3番』~メヌエット

 

なるほど、2013年に難関ボルドー国際弦楽四重奏コンクールで優勝したのも頷ける実力と聴いた。2007年にソリストとしても知られているエリック・シューマンら「シューマン3兄弟」と後藤彩子で結成された当団体。いつからかは分からぬが、vaの後藤が退団した後は今回のメンバーであるリザ・ランダルへメンバーチェンジしている。寡聞にして存じ上げなかったが、既に彼らは2012年に日本デビューを果たしていると後から知った。その後も来日はしていて熱心な弦楽四重奏ファンは既に注目していた、という。今回の「クァルテット・ウィークエンド」では6月10日と17日の2回コンサートがもたれたが、その最初の日を聴く。

1曲目の『日の出』からして彼らの個性は明確だ。と言っても、鬼面人を驚かすような奇抜なパートバランスやテンポ設定を聴かせる訳ではない。音色はスマートで洗練されており、決して線は太くない。スポーティと形容しても良いくらい。しかし、その多彩なボウイングによる表情の変化は特筆されるべきで、楽曲の各部分の表現に明確なメリハリがもたらされることによる見通しの良さも随一。いわば、彼らの個性はエゴを前面に出す類のものではなくて楽曲にあるがままに語らせるような――その語らせ方が雄弁で読み込みが深いのだ――行き方である。これは言うは易いが簡単なことではないと思う。こういう演奏で聴くハイドンは何と愉しいことか。微塵も退屈しない。

そのシューマン・クァルテットの持ち味は、次のバルトークにおいても十全に発揮される。この楽曲の晦渋な主題労作や構成を「外からの情報による頭での理解」ではなく聴いている中で直感的に感知できてしまった演奏はこれが始めてであり、ちょっと驚きだ。バルトークの弦楽四重奏曲中でも、この第2番と第1番は筆者にとって他の番号の曲ほどには近づき難かった厄介な作品なのだが、少なくとも第2について言えばこの演奏でその距離感は一気に縮まったと言ってよい。これだけで来て良かったと思える。

しかしながら、休憩後のベートーヴェンとなると話がやや変わって来る。ここでは彼らのスマートさが、例えば曲が始まってすぐに登場するチェロのあの優美で雄大な第1主題のcresc.やpの効果をやや殺いでしまっているように聴こえる(これは全体に言える)。流れが良過ぎるのだ。リテラルと言えばそうなのだろうが、第2楽章ではさらなる諧謔味が欲しい。とは言え、後半2楽章は明らかに名演である。ハイドン、バルトークは掛値なしに素晴らしいのにベートーヴェンで若干の留保が付く、というのはシューマン・クァルテットの若さゆえ、そしてベートーヴェンの巨大さゆえ、だろうか。母親が日本人だというシューマン3兄弟、アンコールには1st vnのエリックがややたどたどしい日本語で曲目紹介。明滅するニュアンスと弾むリズムが絶品のモーツァルトで〆。

少しのケチの付け所はあったにせよ、それは恐らく彼らが経験をさらに増すことにより解決する問題と思える。弦楽四重奏ファンで未聴の向きは、シューマン・クァルテット、ぜひ聴くべきですよ。