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諏訪内晶子 浦安音楽ホール こけら落としコンサート|藤原聡   

諏訪内晶子 浦安音楽ホール こけら落としコンサート

2017年4月14日 浦安音楽ホール
Reviewed by 藤原聡( Satoshi Fujiwara )

<演奏>
諏訪内晶子(ヴァイオリン)
(楽器:日本音楽財団貸与/ストラディヴァリウス1714年製「ドルフィン」)
金子陽子(ピアノ)

<曲目>
プロコフィエフ:ヴァイオリンとピアノのための5つのメロディ 作品35bis
ベートーヴェン:ヴァイオリン・ソナタ第5番 ヘ長調 作品24『春』
同:ヴァイオリン・ソナタ第6番 イ長調 作品30-1
ファリャ(コハンスキ編曲):スペイン民謡組曲
(アンコール)
マスネ:タイスの瞑想曲

 

言わずと知れた東京ディズニーリゾートの最寄り駅・JR京葉線の舞浜駅から1つ先の新浦安駅。南口から徒歩1分という非常にアクセスのよい場所にこのほど浦安音楽ホールがオープンした(駅とホールの位置関係的には金沢駅と石川県立音楽堂、といった感じ。あくまで筆者比)。TKビルディングという商業ビルの4階から上層が当ホールである。4月8日がオープンだったのだが、14日に開催されたオープニングシリーズの1つ、諏訪内晶子のリサイタルを聴きに普段はあまり行かない千葉は(なぜか千葉方面に用事がないのだ。他意はない)新浦安へ。

ホールは座席数303(室内楽やピアノを聴くには最適だろう)、まずホール内に足を踏み入れるとそのシックな内装に目を奪われる。1階席壁面部分は襞のある木目のダークブラウン、2階席のそれはホワイト。このコントラストが目に優しく映る。1階席は前方席を除いて緩やかな傾斜があり、後方席でも視覚的にステージが遮られることはないと想像される。1階後方にはこじんまりした中2階が左右に2つ、その後方上部に2階正面席。2階左右にはバルコニー席。デザインが良いし、落ち着く感じである。

そして肝心の音であるが、これもなかなかに素晴らしい。1回しか聴いていない上での感想、という前置きをした上で記すならば、ピアノの音は粒立ちが極めて明快でありながら中低音に美しい立体的な膨らみがあり、明晰さと響きの良さが2つながらに生きている感。どのホール、とは書かないが、響きは豊かだが細部が滲み、明晰な響きは良いとしても色気がない音、という印象のあるホールもある中、浦安音楽ホールは双方抜群。但しヴァイオリンは高域がややきつく聴こえる感なしとしない。これは主に1階席壁面に採用した木材が経年変化しホールの「エイジング」が進んだときには改善される問題という気がする。ともあれ、今後の豪華なラインナップも含め、このホールには遠方から行く価値が大いにある、と言っておこう。同じ演奏家が都心でコンサートを開くこともあるだろうが、敢えて浦安音楽ホールに足を伸ばして聴く、というチョイスはある、大いにありうる。ぜひ行ってみて下さい。

演奏自体への言及が後回しになったが、これは若干の留保が。ここでの諏訪内のヴァイオリンが、他ホールで接した際よりもさらにスケールが大きく、まるで大輪の花のような演奏となっていたことに軽く驚く。これは諏訪内自身の変化もあろうが、ホールの特性――音響面では先述の如く、視覚面でもステージが低めなので演奏者との距離感が近く、一体感があるのだ。ミューザ川崎を思い出されたい――によるものも幾らかはあるとは思ったが(尚、筆者の席は1階F列8番、座席表を見れば1階席のちょうど真ん中からやや左寄り辺り)。そして、その演奏は細やかなニュアンスやデュナーミクを生かしていく、というよりは骨太なタッチで一筆書きのようにダイナミックに弾き切った、という印象。楽想の変化により繊細に反応した演奏が聴きたい、と思われた(アンコールの『タイスの瞑想曲』も随分と健康的な演奏)。この特性が1番上手く生かされたのは最後のファリャであり、民族的なローカルさやら隠微な表現、という所からは遠いが、諏訪内の冴え渡る美音と確かな技巧を十分に堪能させて頂いた。金子陽子のピアノも同方向の演奏だが、こちらもとにかく達者。諏訪内との息もピッタリであり、寡聞にして存じ上げないがこのお二方、定期的に共演を重ねておられるのだろうか。

筆者はそこそこの「ホールマニア」と思っているが、新しいホールが出来るのはわくわくするものですね。