東京都交響楽団 第830回 定期演奏会Cシリーズ|藤原聡   

東京都交響楽団 第830回 定期演奏会Cシリーズ 

2017年4月22日 東京芸術劇場コンサートホール 
Reviewed by 藤原聡(Satoshi Fujiwara) 
Photos by 堀田力丸/写真提供:東京都交響楽団 

<演奏>
東京都交響楽団
指揮:アラン・ギルバート
ピアノ:イノン・バルナタン
コンサートマスター:矢部達哉

<曲目>
ベートーヴェン:劇付随音楽『エグモント』序曲 op.84
ラフマニノフ:パガニーニの主題による狂詩曲 op.4
(ソリストのアンコール)
バッハ:羊は安らかに草を食み
べートーヴェン:交響曲第3番 変ホ長調 op.55『英雄』

 

アラン・ギルバートと都響、4回目の共演。彼らの相性の良さは2011年の初共演におけるブラームスの『交響曲第1番』から既に明らかだったが(実にしなやかかつ力にも溢れた演奏で圧倒的!)、回を重ねる毎にその印象は強まる一方だ。前回、マーラー『交響曲第5番』の空前の名演はまだファンの記憶に新しかろう。今回は当夜の他にジョン・アダムスの『シェへラザード.2』の日本初演が行なわれたコンサートもあったがそちらは聴けず、ベートーヴェンをメインとするこちらへ。

最初の『エグモント』序曲からして非常に濃密である。低音が分厚く実に立派で、弦楽合奏の有機的な絡み合いはアラン・ギルバートの徹底したリハーサルの賜物だろう。ほんの心持ち休符の音価を短く取りながら、その音楽は常に前へ前へ、という切迫感に満ち溢れる。しかし、ただ勢いがあるだけではなく、主部に入って最初にオケ全体がfになる箇所に至る弦楽器のデュナーミクを楽曲後半の再現では最初と変えて弱くしたり、コーダ直前のホルンを弱めに吹かせたり、とアランならではの工夫も垣間見える。王道とアラン色の見事な融合。オードブルとしてはあまりの内容の濃さだ。

ラフマニノフもまた素晴らしく、ここではアラン&都響もさることながら今回初めて知ったイノン・バルナタンがとにかく上手い。音自体は彼の体つきにも似てやや細身ながら、フォルテの和音が良く鳴ること鳴ること。したがって的確なサポートにもよろうがとかくトゥッティでオケに埋もれがちなピアノパートが埋没しない。そして細かい音型もクッキリと聴こえ、その解きほぐしの卓越も印象的だ。今まで聴いたこの曲の演奏では、大げさに書けばピアノは大抵茫洋に「バーン!」と鳴り、オケは咆哮してピアノに覆い被さり、というイメージであったがこの演奏ほど明晰かつ迫力も殺がれていないものを聴いた試しがない。ラフマニノフ的に陰鬱な感情は抑え目であったが、その中でも歌い回しやフレージングの呼吸の良さのためにバルナタンのピアノは決して薄味には聴こえない。あの有名な第18変奏の美しさ。実演で聴いた「パガ狂」のベストか。アンコールはバッハの『羊は安らかに草を食み』。これもまた静謐さが絶品。

休憩を挟んでの『エロイカ』も良い演奏であったが、正直に記せば前2曲ほどではない。インテンポを基調として、ピリオド的でもなく、かと言ってオールドスタイルという訳でもないバランスの取れた演奏。ここでは『エグモント』の時ほどの重厚さはなく、全体にやや軽みを帯びて引き締まったサウンド。アランとしてはこれといって特徴的な演奏ではなかったように思うが、音楽的水準は高い。理由は、ここでもオケ全体としての有機的なアンサンブルの卓越によるものだろう。冒頭から終結まで常に1本の線で繋がっているかのようなフレーズ間・楽器間の音量、表情の統一。このために、表面的に一発ドカンとお見舞いしないから派手さには欠けるものの、終わった後の音楽的満足度はすこぶる高いものになっていたのだ。にも関わらず本節冒頭で「前2曲ほどではない」と書いたのは、オケにもう少し積極性が欲しいと思ったためであり、これがあればさらに心浮き立つ演奏になっていたのではないか(例えば第3楽章トリオでのホルンはいかにも弱腰過ぎる…。『エグモント』でもコーダ前の抑えたホルンが印象には残ったのだが、こちらは敢えて、だろう。『エロイカ』当該箇所は「安全運転」に聴こえる)。

ともあれ、曲による多少のバラツキはあれどアラン・ギルバート&都響のコンサートは今後も絶対に看過できない内容を誇るのは間違いあるまい。このコンビ未体験の方は是非ともホールへ。