「il Sole」/YxS Crossing #01 |齋藤俊夫

安江佐和子perc.プロデュース 「il Sole」/YxS Crossing #01
~杉山洋一 影響を受けた作曲家とともに~

2017年4月8日 トーキョー・コンサーツ・ラボ 
Reviewed by 齋藤俊夫(Toshio Saito)
写真提供:東京コンサーツ

<演奏>
(『君が微笑めば~』のみ加藤のピアノソロで、他は全て安江の打楽器ソロ)
打楽器:安江佐和子
ピアノ:加藤真一郎

<曲目>
増本伎共子:『拍~パーカッションソロのための』(2017 委嘱新作)
高橋悠治:『飼いならされたアマリリス』(2013)
杉山洋一:『Tree-nation』(2008)
杉山洋一:『壁~パーカッションのための』(2017 委嘱新作)
杉山洋一:『君が微笑めば、それは一層澄んでゆく~ピアノソロのための』(1994)

 

現代音楽の初演、委嘱などで活発に活動している打楽器奏者・安江佐和子が第2回一柳慧コンテンポラリー賞を受賞したまさに今が「旬」の作曲家・杉山洋一をメインとした演奏会を催すということで大いに期待して臨んだ。

まず増本作品。ボンゴを叩いてポン・ポンポンの単純なリズムを反復しつつ、次第に楽器が増えてリズムも複雑化していくが、最後にはまた単純なリズムに還って終わる。まずは小手調べと言ったところか。

高橋作品はシロホンを叩くのではなくつまびくように奏し、全編がpppレベルの音量で演奏された。終止があるのかないのかわからない単旋律が延々と連ねられ、神秘的な静寂で会場が満たされる。近年の高橋作品の超俗的な、曰く言い難い音楽を耳にできた。

杉山『Tree-nation』はクラベスを叩きながら安江が入り口からステップを踏みつつ入場。バスドラムをベースに、トムトム、ボンゴ、木片、金属片でリズムを刻む。沢山の楽器を打ち鳴らす部分と、協奏曲のソロのようにある楽器を集中して叩く部分が交互に現れる。レインメーカー(雨の音を鳴らす長い筒状の楽器)を鳴らし始めると、会場のあちらこちらからオルゴールの調べが鳴り始め、そしてまた安江がクラベスを叩きながら退場する。
サハラ砂漠に森を作ろうとい運動に触発されて書いたそうだが(それゆえにレインメーカーが使われたのだろう)、そのような先入観なしでも十分楽しめる、だが謎に満ちた音楽だった。

杉山『壁』とは言うまでもなくアメリカのトランプ大統領が作ると言っているメキシコとの国境線の壁である。まず拍手(リズムがわかるように叩かれないので手拍子というよりは拍手と言うべきだろう)で始まり、お手玉のように中に何かの粒が詰められた袋を落としてはまた持ち上げまた落とす。この拍手とお手玉落としを延々と交互に繰り返す動作に、なにか執念や怨念のようなものが感じられてくる。そしてレインメーカーを思い切り振り、会場を歩きはじめ、床にたくさん寝かされたレインメーカーを立てて聴衆に手渡し会場の其処此処で雨の音を鳴らす。またこれも床に置かれた小さな鐘をならす。そして何か金属片のようなものを入れた袋の上にレインメーカーを何度も何度も叩きつける。最後はサンダーマシーンをマレットで乱打し、そしてマレットでは足りないとばかりに張り手でサンダーマシーンを直接叩きまくって終わる。鬱勃としたパトスに満ち、言葉にできない怒りを音楽という形式で表現した正統なプロテストとしての現代音楽であった。

最後は加藤真一郎による杉山のピアノソロ曲である。左右の手でのポリリズムによるリリカルな響きに始まり、次第に複雑化し狂気とも悲しみともとれる楽想へと移っていく。やがて音の数が減っていき、悲哀に満ちた点描に。そこから長三和音らしき和音からの和音の反復が慟哭する。最低音域でクラスターが叩きつけられ、そして高音域で浄化のエレジーが奏でられ、終曲する。
作曲者弱冠25歳にして、かくも複雑でありながら感情を直截的に表出した作品が書かれたとは驚きである。現代音楽を牽引する杉山、安江、加藤らからはまだ当分目が離せそうにない。