東京春祭2017 スペシャル・ガラ・コンサート|藤堂清

スペシャル・ガラ・コンサート
~東京春祭2017 グランド・フィナーレを飾るオペラの名曲たち

2017年4月16日 東京文化会館 大ホール
Reviewed by 藤堂 清
Photos by 青柳聡/写真提供:東京・春・音楽祭実行委員会

<演奏>
指揮:スペランツァ・スカップッチ
ソプラノ:クリスティナ・パサローユ(1)
テノール:イヴァン・マグリ(2)
バス:アドリアン・ザンペトレアン(3)
管弦楽:東京春祭特別オーケストラ

<曲目>
モーツァルト:
  歌劇 《フィガロの結婚》 序曲
  歌劇 《フィガロの結婚》 第1幕 より 「もう飛ぶまいぞ、この蝶々」(3)
  歌劇 《フィガロの結婚》 第2幕 より 「愛の神よ、安らぎを与えたまえ」(1)
ヴェルディ:
  歌劇 《ナブッコ》 序曲
  歌劇 《リゴレット》 第3幕 より 「女心の歌」(2)
  歌劇 《リゴレット》 第1幕 より 「慕わしい人の名は」(1)
  歌劇 《エルナーニ》 第1幕 より 「不幸な人よ!」(3)
  歌劇 《椿姫》 第2幕 より 「燃える心を」(2)
  歌劇 《椿姫》 第3幕 より 「パリを離れて、いとしい人よ」(1)(2)
  歌劇 《椿姫》 第1幕 より
     「不思議だわ!〜ああ、そはかの人か〜花から花へ」(1)
——————–(休憩)————————
ベッリーニ:歌劇 《ノルマ》 序曲
ドニゼッティ:
  歌劇 《愛の妙薬》 第1幕 より ネモリーノとドゥルカマーラの二重唱(2)(3)
  歌劇 《愛の妙薬》 第2幕 より 「人知れぬ涙」(2)
ロッシーニ:歌劇 《セビリアの理髪師》 第1幕 より
     「陰口はそよ風のように」(3)
ドニゼッティ:歌劇 《ドン・パスクアーレ》 第1幕 より
     「騎士はあの眼差しを」(1)
プッチーニ:
  歌劇 《マノン・レスコー》 間奏曲
  歌劇 《ラ・ボエーム》 第1幕 より
     「冷たい手を〜私の名はミミ〜愛らしい乙女よ」(1)(2)
——————(アンコール)——————–
ヴェルディ:歌劇 《椿姫》 第1幕 より 「乾杯の歌」(1)(2)(3)

 

出だしの《フィガロの結婚》序曲の、軽やかで、伸びやかな響きに惹きつけられた。
スペランツァ・スカップッチ、イタリア出身の44歳の女性指揮者、オーケストラは在京の団体の首席クラスを中心にとする比較的大規模な編成。
ソリストは、ソプラノのクリスティナ・パサローユが29歳、バスのアドリアン・ザンペトレアンが34歳、テノールのイヴァン・マグリも30歳前後と思われ、若く、声に力があり、それぞれキャリアを伸ばしつつある人たち。この日の曲目は彼らがすでに劇場で歌ってきたオペラからが中心で、それぞれ、曲にふさわしいスタイルを持って歌われた。

スカプッチについては、ウィーン国立歌劇場のレパートリー公演を指揮しているという以上の情報なしに聴きにいったのだが、序曲、間奏曲といったオーケストラ曲だけでなく、歌手の歌でもきめ細かな配慮をみせた。音のバランスやダイナミクスの変化が的確で歌手が歌いやすく、一方で歌のフォルムを崩さないようにコントロールしている。
コンサートでオペラ・アリアを演奏する場合、その前のレチタティーヴォなどを入れることは少ないが、彼女はそこから始めることでオペラの一場面の再現を目指し、効果をあげていた。
これだけ聴いても良い指揮者だと分かったが、オペラ全曲なら彼女の実力はもっと発揮されるだろう。

プログラム前半はモーツァルトとヴェルディ。
フィガロのアリアでの小気味の良いリズム、テンポ、指揮者の作る枠組みにのってザンペトレアンのメリハリの効いた歌が聴衆を引きこむ。
つづく伯爵夫人のアリアでは、ゆったりとした流れ、そして大胆ともいえる音量変化、パサローユもしっとりと歌い上げた。
ヴェルディに入ると、スカプッチのテンポの良さが、さらに感じられる。
《ナブッコ》序曲、遅め、抑えめに入り、途中でテンポを切り替え、ダイナミクスを強くきかせる。このままオペラにつながるようなワクワクした気持ちになる。
「女心の歌」のマグリ、高音に強いところをみせた。一本調子だが、この歌にはあっている。
このブロックでの聴きどころは、《椿姫》のソプラノとテノールの二重唱。声の重なるところでのハーモニーが美しく響いた。

後半はベッリーニ、ドニゼッティ、ロッシーニというベル・カント物と、プッチーニ。
ネモリーノとドゥルカマーラの二重唱、二人とも歌での演技がうまく、随所で笑いをとり、一方、オーケストラも歌手との受け渡しを楽しんでいた。
《セビリアの理髪師》のバジリオのアリア、ここでもスカップッチの指示する最弱音から最強音までのレンジの広さが生き、歌の表情を強める。
プログラムの最後におかれた《ラ・ボエーム》、第1幕の後半部分をほぼ演奏。「冷たい手を」の後で拍手がでかけたが、それを無視するように「私の名はミミ」へと進め、「愛らしい乙女よ」のハイCを歌いながら二人が舞台のそでに向かうところでエンディング。指揮者はこれを一体のものとして演奏したかったようだ。

アンコールは定番「乾杯の歌」。男声、とくにバスにどう歌わせるのだろうと思ったら、はじめのテノール、ソプラノの後の移行部で移調し、ザンペトレアンの音域で歌えるようにし、続けた。こういった扱いは聴いたことがなかったが、粋な扱いといえるだろう。
グランド・フィナーレにふさわしい楽しいコンサートであった。また、スペランツァ・スカップッチという指揮者の今後に大きな希望を感じた一夜となった。