クァルテット・エクセルシオ|谷口昭弘 

SQW#129 クァルテット・ウイークエンド 2016-2017
アラウンド・モーツァルト Vol. 2
〜ウィーンでの素敵な出逢い〜

201712  第一生命ホール
Reviewed by 谷口昭弘(Akihiro Taniguchi)
写真提供:トリトンアーツネットワーク

<演奏>
クァルテット・エクセルシオ (西野ゆか/山田百子 [ヴァイオリン]、吉田有紀子 [ヴィオラ]、大友肇 [チェロ])、共演:澤村康恵(クラリネット)

<曲目>
モーツァルト:歌劇「フィガロの結婚」序曲(弦楽四重奏版)
シューベルト:弦楽四重奏曲 第6番 ニ長調 D74
モーツァルト:弦楽四重奏曲 第17番 変ロ長調 K458 「狩」
(休憩)
シュタードラー:二重奏曲 第1番 (クラリネットとヴィオラ版)
モーツァルト:クラリネット五重奏曲 イ長調 K581

(アンコール)
モーツァルト:クラリネット五重奏曲 イ長調K581より 第3楽章 メヌエット

 

ウィーン楽友協会所蔵の編曲者不明の楽譜によるモーツァルトの《フィガロの結婚》序曲から。
モーツァルト時代のオーケストラが弦楽器を主体とし、管楽器が様々にそれを彩っていく役割を担っていたことを、聴きながら想起した。もちろん編曲版ではオーケストラの全パート・全音色が聴ける訳ではないが、重厚に響かせるために、時間をとって和音を鳴らせた箇所もあり、結果的にコンサート・オープナーとして心躍る一曲となった。

つづくシューベルトの《弦楽四重奏曲第6番》は、冒頭こそやさしい語り口だが、第2主題の活力ある表情を通し、音楽は前向きに進んでいく。次第にクァルテット・エクセルシオは全体をシンフォニックに鳴らせ、第1曲目のモーツァルトの序曲から違和感なくこの曲を連続して楽しんでいる自分に気づくことになった。
素直な歌を冒頭に穏やかに奏でつつ古典的形式美を保ちながら、転調の連続によって別世界へと誘う第2楽章、オクターブで歌う旋律美と透明な音色によるトリオで迫る第3楽章に続き、第4楽章は心あたたまるフィナーレ。対位法による2つの声部が華やかで、折り目正しい中にも豊潤で大きなアンサンブルを奏でていた。

モーツァルトの《狩》四重奏曲は、浮かれ調子の狩の情景というよりも、随所に飛び出す粋なアクセントを強調しつつ、品位ある響きに楽しさを加える演奏だった。その麗しさのなかにはパート間のバランスの取れた対話も聴かれた。
第2楽章では、しっとりとした感覚に溢れた様式化されたメヌエットの美をあますことなく伝え、トリオではのびのびとした器楽的旋律を聴かせる。
また第3楽章ではデリケートさと大胆さを兼ね備えたモーツァルトらしい緩徐楽章で、大きくたっぷりとしたフレーズを聴かせるかと思いきや、ちょっとした内声や低声部の陰影に耳を凝らす箇所もあった。随所に聴かれるゼクエンツにしても、進みゆく楽想の文脈によって、その重要性が変わってくることが認識できた。
第4楽章においても、全体が小さなスケールにとどまらない一方、互いの密な関係は崩れない。気持よく運ばれるなかに、各パートが活躍する場が切れ目なく与えられていた。

後半の1曲目は当時まだ新しい楽器として捉えられていたクラリネットの演奏家でもあったアントン・シュタードラーの《二重奏曲》で、ぴったり寄り添うクラリネットとヴィオラによる、2つの線のみで作られるホモフォニーの世界を堪能した。

そしてメインのモーツァルトの《クラリネット五重奏曲》。響きをやわらかに聴かせる第一生命ホールの中でもびしっとした存在感を持つ澤村康恵のクラリネットは、アンサンブルにエネルギーを与える「息」の存在。
澤村はラルゲットの第2楽章では細かな音の揺れを聴かせつつ、第1ヴァイオリンと対話しながら、しっとりとした旋律美で魅了した。トリオにおける短調による弦パートの憂い、クラリネットの洗練された野暮ったさを第3楽章で体験し、第4楽章は変奏曲。安心感のある訥々とした主題から、自由自在に跳躍するクラリネットのオブリガード、弦楽器とクラリネットによるヴィルトゥオーゾ合戦、オペラの幕切れ近くのアリアのような楽想から全員参加のフィナーレに至るまで、各人が機敏に対応し、会場の聴衆を喜ばせた。