Pick Up(17/02/15)|中村寛のセイヨナキ作曲コンクール受賞作(2011)CDに|丘山万里子

中村寛のセイヨナキ作曲コンクール受賞作(2011)CDに 

text by 丘山万里子(Mariko Okayama)

フィンランドのセイヨナキで2011年に行われた作曲コンクールで聴衆賞を受賞した中村寛の作品がセイヨナキ市管弦楽団によってこの度CDとなった。『Seinäjoen kaupunginorkesteri A Different Trend』。(本誌、「五線紙のパンセ」参照)
このコンクールはセイヨナキ市管弦楽団(1936年創立)が2005年より3年ごとに開催しているもので、すぐれた室内楽作品を世に出すことを目的としたもの。現代作品の演奏団体のオーケストラとしてその名を高め、フィンランド最大の都市であるセイヨナキを豊かな芸術文化の発信地としたい、という意気込みに溢れたコンクールである。
2005年には22作品、2008年32作品、2011年58作品がエントリーされた。
中村の受賞年2011年のテーマは以下の詩による。

Rhythm emerges when the end
turns around again to the beginning, in writing. Life sets a different trend. 
Melody has always been in compliance with the hearing ear,
on the other side of silence. – Arto Melleri 

この年はCDのタイトルとなった『A Different Trend』( DALIO MAGGI)他1名が1位を分け合い、2位なし、3位が2名。中村は聴衆賞だが、CD化された4作の中に入ったのは、音を聴くと納得、である。
CDは始めと終わりにバッハ作品を置き、
1, Bach: Contrapunctus 6.  Die Kunst der Fuge contrapunctus 6
2, TAKAHIRO SAKUMA:Phenomena2(2005)
3, DALLIO MAGGI: A Different Trend(2011)
4,HIROSI NAKAMURA: Tenebrae Factae Sunt(2011)
5,PAOLO BOGGIO:The Angel of Loneliness(2008)
6, Bach: Contrapunctus 7. Fuga a 4 voci per Augmentationem et Diminutionem
という構成で演奏メンバーは10名。
2,のTAKAHIRO SAKUMA(2005/2位受賞)も日本の作曲家で東京音大出身。
一聴して感じるのは、最初と最後のバッハの澄明な美しさに、中村作品が照応していることだ。タイトル『Tenebrae factae sunt』(闇となって)は聖金曜日のためのレスポンソリウム。
「闇となって/十字架に架けた時 イエスをユダヤ人たちが/そして3時頃 叫ばれた イエスは大声で/わが神、なぜ わたしをお見捨になったのですか?/そしてこうべを垂れて、息を引き取られた/叫ばれて イエスは大声で言われた/父よ、御手にゆだねます わたしのいのちを」(「五線紙のパンセ」より)
これまでの中村の作品は、人の痛覚を容赦なく突き、どこか自虐の匂いがしたのだが、今回のこれは違う。
深い河底(低音の鳴りの太く、あるいは細い持続)に漂い流れる無数の大小の生命体、もしくは光が膨らんだり、縮んだり、ぶつかったり、よけあったり、のぼったり、下ったり、溶け合ったりしながら浮遊する、それが一貫したある種の静けさの中で、続くのだ。大仰な身振りの一切ない、静謐に、だが強く胸に響く音たち。聴衆が惹かれたのはそこだろう。
私は当地のラジオ放送で流れたライブ録音の版も聴いてみたが、アナウンサーとコメンテーターが長々と作品について語っているのがちんぷんかんぷんで(フィンランド語なので)何度も出てくる「ヒロシナカムラ」しかわからなかったのがいかにも残念だが、最後、秘めやかな音が消えそうで消えず、いつの間にか消えたのにまだ聴いているような、しばらくしてそっと鳴り始めた拍手に、聴衆賞、なるほど、と実感した(今回のCDは新たに録音されたもの)。
作品は6章:Lontano/Risolute/Pesante/Agitato/Dolente/Misteriosaとあるが、ほとんどひと続きに演奏されている。その、境目があるようでないようで、消えそうで消えないで、そういう持続が、他の作品とは一線を画しており、このアルバムに入れたセイヨナキ市管弦楽団のセンスを讃えたい。
なお、初演時の新聞評は中村作品をもっとも印象的で、ゆったりと長い流れが滞ることなく、ふんわりした空気のようなテクスチュアに素晴らしい組み立て、ハーモニーと構成も完璧だった、としている。

CDについての問い合わせ先
セイヨナキ市管弦楽団:http://www.skor.fi
https://www.facebook.com/Seinäjoen-kaupunginorkesteri-247983427544/