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バンベルク交響楽団|藤原聡 

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2016年11月4日  東京オペラシティコンサートホール
Reviewed by 藤原聡(Satoshi Fujiwara)
Photos by 林喜代種(Kiyotane Hayashi)

<演奏>
指揮:ヘルベルト・ブロムシュテット

<曲目>
モーツァルト:交響曲第34番 ハ長調 k.338
ブルックナー:交響曲第7番 ホ長調(ノーヴァク版)

当初予定されていた第1曲目の『エグモント』序曲がモーツァルトの『交響曲第34番』に変更されたのだが、これについてブロムシュテットは「東京オペラシティでのコンサートをできるだけ豊かにしたいと思っている」ためだと語る。『エグモント』はこの前日3日にサントリーホールでアンコールとして演奏された曲だし、モーツァルトの『第34番』はなかなか実演で聴けない曲。しかもモーツァルトはこのオペラシティでしか演奏されない。ということでこの変更は大歓迎と期待を膨らませつつホールへ向かう。

今日も極めて颯爽とした足取りで登場したブロムシュテット(足取りだけみれば50代と言っても通用するだろう)、変更されたそのモーツァルト(弦はノンヴィブラート)は大変に見事だった。洒落っ気のある演奏ではないし、軽やかさと言うのとも違うが、それに代わってたっぷりと詰まった響きの密度感と重厚さに溢れ、それでいてモーツァルトらしい愉悦感と軽みを失っていない。何よりも響きが生き生きしてまるで飛び跳ねているようであり、実に魅惑的と言う他ない。ともするとモダンの大編成オケでは新鮮味が感じられなくなったり鈍重に聴こえてしまうことなしとしないけれど、その危険はまるでない。豊かなモダンと凝縮されたピリオド風味の良いとこ取り、とでも言うべきか。繰り返すが、名演。

そして後半こそは白眉。筆者が接し得たブルックナーの『交響曲第7番』の演奏として近年トップクラスの大名演・大演奏だった(尚、表記に「ノーヴァク版」とあるが、むしろハース版に第2楽章での打楽器を追加した、ということなのではなかろうか)。冒頭vnのトレモロからvcによって静かに立ち上がって来る第1主題の10秒ほどを聴いただけでこれは名演になるに違いないと直感したのだが(こういうことは案外分かってしまうものだ)、果たしてその予感は全く裏切られない。素晴らしく透明度の高く素直に天に伸びて行くかのようなvcとコクと深みのあるva、強靭かつ柔らかさのあるcb、ヴィブラートを抑制したvnの有機的なアンサンブルはまずは非の打ち所がないが、何にもまして指揮者。インテンポを基調としつつ極めてゆったりとしたテンポで息長く演奏を進めて行き(楽段の繋ぎ目に目立たないようなテンポ変化を入れたりと、独自の解釈も聴かせる)、それが無時間的な悠久さを感じさせて余すところがない。これほどゆったりとした運びの「ブル7」も近年なかなか聴けないと思うのだが、まるで指揮者自身がブルックナーの音楽の美しさを味わい愛でながら指揮しているかの如く。木管や金管はアンサンブルやバランスの精度が低い場面もままあったものの、大した問題ではない。

であるならば、第2楽章のアダージョが感動的にならぬ訳もない。ここでも音楽は「申し分なく」遅い。まさに「非常に荘厳に、そして非常にゆっくりと」。冒頭からのワーグナーチューバの音色の深さは抜群であり、絶妙のハーモニーを聴かせる。モデラートによるあの美しい第2主題では内声の第2vnとvaの単純とも言える音型が実に意味深く響き、アダージョの再現からクライマックスまでの恐るべき内的テンションの持続と高揚、その後の「葬送音楽」まではただただ神々しいとしか言いようのないものだった。こればかりはその場で体験しないと分からない。

第3楽章では一転して速めのテンポを採用(しかし最近よくあるような「非常に速い」テンポではない)、この楽章はそれほど特徴のある演奏ではなかったが、場合によってはその反復がとにかくしつこい印象を与える終楽章もまた有機的に繋がって行く響きの美しさに聴き惚れているうちにあっという間に終わった印象だ。

なるほど、より動きのある「動的な」演奏を好む向きもおられようし、殊に前半楽章においては造形の厳しさよりも抒情が勝る瞬間もあった。例えばヴァントのように情緒に流れない厳格極まりない演奏と比較してみると、甘いと言えば甘い。しかし、それでもこれを聴いていた時間は筆者にとって〈Sternstunde〉であったことには変わりない。この16年前にまさにここで行われたヴァント&北ドイツ放送交響楽団のブルックナーを思わず想起するほどの時間。感謝。

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