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マリインスキー・オペラ|《ドン・カルロ》|藤堂清 

%e3%83%9e%e3%83%aa%e3%82%a4%e3%83%b3%e3%82%b9%e3%82%ad%e3%83%bcマリインスキー・オペラ2016年 日本公演 
ジュゼッペ・ヴェルディ作曲:《ドン・カルロ》 

2016年10月10日 東京文化会館大ホール 
Reviewed by 藤堂 清(Kiyoshi Tohdoh) 
Photos by Yutaka Nakamura/写真提供:ジャパンアーツ 

<スタッフ>
音楽監督/指揮 : ワレリー・ゲルギエフ
演出 : ジョルジオ・バルベリオ・コルセッティ
演出 : ファビオ・チェルスティッチ
舞台美術 : ジョルジオ・バルベリオ・コルセッティ
クリスティアン・タラボッレッリ
衣裳 : クリスティアン・タラボッレッリ
アンジェラ・ブシェーミ
照明 : ファブリス・クブール
ビデオ・プロジェクション : ルカ・アッティリー
ファビオ・イアクオーネ
振付 : ロベルト・アルドラージ
イタリア語指導 : マリア・ニキーチナ
首席声楽指導 : アッラ・ブロスタマン
首席合唱指導 : アンドレイ・ペトレンコ
合唱指導 : パーヴェル・ペトレンコ
レオニード・テプリャコフ
舞台監督 : アナスタシア・ヤンソンス

<キャスト>
フィリッポ2世(スペイン王) : フェルッチョ・フルラネット
ドン・カルロ : ヨンフン・リー
ロドリーゴ(ポーザ侯爵) : アレクセイ・マルコフ
宗教裁判長 : ミハイル・ペトレンコ
エリザベッタ・ディ・ヴァロア : ヴィクトリア・ヤストレボヴァ
エボリ公女 : ユリア・マトーチュキナ
テバルド(エリザベッタの小姓) : マリーナ・アレションコワ
レルマ伯爵 : アレクサンドル・トロフィモフ
王室の布告者 : エフゲニー・アフメドフ
天よりの声 : エカテリーナ・ゴンチャロワ
修道士 : ユーリー・ヴォロビエフ
フランドルの使節団 : アンドレイ・ヴァシーン
ユーリー・ペレスィプキン
コンスタンチン・リロ
イワン・サヴェリチェンコ
ヴィクトル・オフレマ
アレクサンドル・ラズゥモフ
修道士たち : アレクサンドル・ゲラシモフ
ニコライ・カメンスキー
エドワルド・ツァンガ
ユーリー・ヴラソフ
オレグ・ミツゥラ
マクシム・ランネフ

合唱:マリインスキー歌劇場合唱団
管弦楽:マリインスキー歌劇場管弦楽団

ワレリー・ゲルギエフ率いるマリインスキー歌劇場の日本公演、劇場としての来日は2011年以来5年ぶり。今回の演目は《ドン・カルロ》と《エフゲニー・オネーギン》の二つ。そのうち前者を聴いた。

フェルッチョ・フルラネットとヨンフン・リーは来日公演のために招聘したキャスト、他はマリインスキー所属の歌手という混成チームであったが、声楽面で両者に差異を感じることはなかった。
ポーザのアレクセイ・マルコフは、フルラネットやリーとの重唱でも遜色なく、スタイリッシュな歌であった。エボリ公女のユリア・マトーチュキナは、第2幕の庭園の場で怒りをあらわにするところや第3幕のアリアで、力強い声を聞かせてくれた。エリザベッタのヴィクトリア・ヤストレボヴァは第1、2幕では小奇麗にまとめているという印象であったが、第4幕のアリアは感情のこもった歌で、全幕を通じての役作りとして納得できた。ミハイル・ペトレンコの宗教裁判長もフィリッポを屈服させる威力があった。
そうはいっても、フルラネットの弱声から強声まで会場全体に響く厚みのある声、大切な言葉を浮き立たせる技術、長年の経験によって作り上げられたものだろうが、一際高いレベルにあると感じた。
管弦楽と合唱は、多少ぎくしゃくするところもあったが、ゲルギエフの指揮のもと安定した演奏であった。
第2幕のエンディングでの天よりの声、舞台裏からではなく、客席5階で歌われた。これは多くの聴衆にとって「天より」の声と聞こえ、よいアイディアであったと思う。

音楽的には十分満足の行く演奏だったが、オペラ公演としての完成度という点では演出に疑問を感じるところがあった。
ビデオ・プロジェクションに二人名前が並んでいるとおり、場面ごとによく考えられた映像が使われている。例えば、第3幕第1場、フィリッポ2世のアリアの背後に、自身の亡骸を前にカルロが冠を戴く様子が映し出される。息子に死を宣告しなければならない父としての苦しい思い、続く宗教裁判長との場面への布石として効果的であった。
しかし全体としては、人の動きや表情付けが希薄で、群衆に関しては舞台上の空きスペースを埋める以上の役割を果たしていないように感じられた。
第4幕では舞台前面部しか使わず、最後に修道士が上手から歩いて出てくると、カルロ以外の人々は下手側に引き、そこで固まっている。
歌手も歌自体の表情は、はっきりしているのに、それに見合った演技がみられない。外部から参加したフルラネット、リー、そして他劇場での経験が多いマルコフの演技が、他の歌手や合唱の動きとバランスがとれない。演出家の指示がどこまで徹底されていたのだろう?

だいぶ文句を書いたが、若手歌手の育成という意味では、この劇場のそしてゲルギエフの取り組みは大きな成果をあげている。今回主役を歌った歌手だけでなく、端役であった歌手も、数年後には国際舞台で名前を聞くことになる可能性がある。

関連記事:Back Stage|ワレリー・ゲルギエフ&マリインスキー・オペラ

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