オペラ《ドン・パスクワーレ》|小石かつら 

ドン・パスクァーレ-おもて沼尻竜典オペラセレクション
オペラ《ドン・パスクワーレ》

20161023 びわ湖ホール
Reviewed by 小石かつら(Katsura Koishi
写真提供:びわ湖ホール

<演奏・スタッフ>
指揮:沼尻竜典
演出:フランチェスコ・ベッロット
美術:マッシモ・ケッケット
衣装:クリスティーナ・アチェーティ
照明:クラウディオ・シュミット
音響:小野隆浩
舞台監督:菅原多敢弘

ドン・パスクワーレ:牧野正人
マラテスタ:須藤慎吾
エルネスト:アントニーノ・シラグーザ
ノリーナ:砂川涼子

合唱:びわ湖ホール声楽アンサンブル、藤原歌劇団合唱部
管弦楽:日本センチュリー交響楽団

びわ湖ホールでのオペラと言えば「ちょっと真面目なもの」というイメージがあった。だからチラシを見た時、その真面目そうな枠組みと沼尻竜典オペラセレクションという「ブランド」の下に「ドン・パスクワーレ」とあるのを見て、にわかには信じられなかった。開館以来、ドニゼッティは初めてだという。何もドニゼッティが真面目でないわけではないし、「ドン・パスクワーレ」がふざけているわけでもない。けれども、老人の悲哀とハッピーエンドを組み合わせる内容は、ヨーロッパの成熟した市民の喜劇というイメージが強く、実際、筆者がこれまで接した「ドン・パスクワーレ」の舞台でも、観客の雰囲気が他の演目とは違っていたことが印象的だった。つまり、年齢層が高くなり、服装がいくばくか晴れやかになるのが常だった。

舞台は豪華な絵画が壁面いっぱいに飾られたドン・パスクワーレの部屋。セピア調に統一されていて、懐古趣味とともに、現実味の薄い、虚構の雰囲気をも醸し出す。話題は遺産相続だ。筋としては、その遺産を当初の予定通り甥のエルネストが受け取る、ということでハッピーエンドとなるのだが、舞台の変化が物語の真相を映しているように思われておもしろかった。つまり、きらびやかな部屋は、第三幕で空っぽになり、青みがかったグレーの夜の庭に変ずる。そこに椅子がひとつ。結婚詐欺でだまされ、身ぐるみ剥がれたドン・パスクワーレは、自身の尊厳をも否定される。茶番劇として常に観客を笑わせながら、人間としての存在を根幹から問う。人の遺産とは何か、深く心にささった。

ドニゼッティの真骨頂である「掛け合い」もみごとだった。エルネストを歌ったシラグーザが、「大粒」でぴりりと辛い山椒の役を果たし、周りの歌手をぐいと引き立てる。ずいぶん後ろの席で聴いたのだが、臨場感あふれるやりとりにはハラハラ。それくらい息づかいががっちりと絡みあっていた。細部まで丁寧なオーケストラも、その真面目な演奏が、逆にユーモアを引き立て、浮き足立つことなく、最後まで心地よく舞台を牽引していた。

2月には、びわ湖ホールの声楽アンサンブルが「連隊の娘」を中ホールでやるという。この中長期的なプログラム構成は、さすがびわ湖ホールだ。安易な商業主義に流されることなく、「びわ湖のオペラ」をずっと見守っている地元を中心としたファンを見据えて、あたらしいことを少しずつ加えて世界をひろげていく「びわ湖ホール」に共感し、期待しているところである。

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