《生誕130周年記念》山田耕筰の音楽|丘山万里子 

%e5%b1%b1%e7%94%b0 文京シビックホールオリジナル 現代音楽シリーズ
《生誕130周年記念》山田耕筰の音楽〜弦楽四重奏曲とピアノ、歌曲による〜

2016102日 文京シビックホール
Reviewed by 丘山万里子(Mariko Okayama
写真提供:(公財)文京アカデミー

<演奏>
YAMATO String Quartet
  石田泰尚、執行恒宏、榎戸崇浩、阪田宏彰
ピアノ/浅井道子(ソロ、歌曲伴奏)
メゾソプラノ/高橋由樹
合唱/ NHK東京児童合唱団、 NHK東京児童合唱団ユースシンガーズ
  (指揮/金田典子、ピアノ/古高晋一)

<曲目>
【弦楽四重奏】
  〜山田耕筰の弦楽四重奏曲と挿入曲の解説〜
  挿入曲:ベートーヴェン「弦楽四重奏曲第1番」冒頭より
  「弦楽四重奏曲第1番」(3楽章パート譜欠落あり)
  「弦楽四重奏曲第2番」
  「弦楽四重奏曲第3番」(未完)
  挿入曲:ベートーヴェン「弦楽四重奏曲第4番」第1楽章
【ピアノ独奏】
  「哀詩」荒城の月を主題とする変奏曲
  「子供とおったん」より
    もうおっきしたの
    目かくしごっこ
    暢気なお噺し
    さあ一緒に歌いましょう
    怖いお噺し
    星の子守唄
【メゾソプラノ独唱とピアノ】
  「山田耕筰童謡百曲集」より
    烏の番雀の番(野口雨情 作詞)
    お友だちといっしょ(三木露風 作詞)
    電話(川路柳虹 作詞)
    この道(北原白秋 作詞)
    あわて床屋(北原白秋 作詞・岩河智子編作)
    曼珠沙華(北原白秋 作詞)
    かやの木山の(北原白秋 作詞)
    待ちぼうけ(北原白秋 作詞)
【合唱】
  「山田耕筰による五つの歌」(三善晃 編曲)
    この道(北原白秋 作詞)
    赤とんぼ(三木露風 作詞)
    待ちぼうけ(北原白秋 作詞)
    からたちの花(北原白秋 作詞)
    ペチカ(北原白秋 作詞)

実に面白い企画だった!
「オリジナル 現代音楽シリーズ」とのことだが、山田耕筰をこんな風に聴かせるのは新鮮だ。
日曜の昼下がり、年配の客層向けに、いわゆる山田耕筰名曲コーナーみたいな形をとりつつ、前半を弦楽四重奏曲3曲という、かなりとっつきにくく、実演が稀少な作品を並べ、ピアノ、歌曲、三善晃編曲の児童コーラスで締めくくるというアイデア満載のプログラム。

幕開け、YAMATO STRING QUARTETのチェリスト阪田がチェロを抱えて出てきて、MC。私はMCは嫌いだが、プログラムに「山田耕筰の弦楽四重奏曲と挿入曲の解説」とあり、ベートーヴェンの弦楽四重奏曲の一部が並んでいたので、これは面白そう、と素直に耳を傾けた。
阪田はまず、これらの作品群が山田の藝大での学習期に書かれたもので、ベートーヴェンを始めとする師匠を模倣、パクった痕跡ありあり、と言いつつ、ベートーヴェンの『ピアノ協奏曲第5番皇帝』と『上を向いて歩こう』のそっくりフレーズを弾き、大受け。これで山田の習作への興味は一気に盛り上がる。
山田の『第1番』の前にまずベートーヴェンの『第1番』第1楽章冒頭。なるほど、続けて聴くと微笑ましい。山田が師匠の筆跡を忠実になぞりつつ懸命に学習しているのがよくわかる。未完、第3楽章パート譜欠落、その終わり方がいかにも、「僕の今の力としてはここまで」といった感じだ。
『第2番』は唯一完成した単一楽章だが、ここにはすでに歌曲王山田の才能、抒情的な響きと旋律線が清白なポエジーを湛え、青春の馥郁たる香りとともに立ち上ってくる。モーツァルトやハイドンらへのリスペクトを捧げつつ、オリジナリティがそこここに見える。やはりこの人は天才、と改めて実感。
『第3番』は単一楽章、やはりこちらも未完だが、シューベルト『死と乙女』を彷彿する音の織り方、流れがドラマティックで深い。グイと引き込まれる世界だ。ここで筆を置いた山田の胸中を思う。
YAMATOがまた清冽かつ愛情あふれる演奏で、山田の抱いていた西欧への夢と野心をこれらの習作の向こうに描き出して見せた。いいカルテットだ。

後半のピアノ・ソロもやはり珍しいが、『子供とおったん』がシューマン『子供の情景』もどきで、<さあ一緒に歌いましょう>は『鉄道唱歌』の変奏。山田は本当に器用な作曲家である。

歌曲は定番の名曲が並び、聴衆の満足度は高かったろう。が、歌唱については、平板(押しばかりで引きがない)。もっとフレーズを大切に、言葉や旋律を奥行き豊かに扱ってほしかった。にしても、北原白秋との協業が、おそらく山田の創作の一つの頂点であったろう。この二人の巨匠がそののち迎える戦時とその足取りを思わずにいられなかった。

最後は三善晃編曲の合唱版で、秋から冬への移ろいを。
独唱で歌われた『この道』『待ちぼうけ』、前半で弾かれた弦楽四重奏版『からたちの花』が三善の手で新たな音世界へと変貌する。編曲には作曲家の職人芸がある、と誰かから聴いたが、山田と三善、まさに天才は天才を知る、と深く納得。むろん、山田と白秋もそうだった。

この構成、多様なジャンルを横断し、あるいは重ね、立体的に、重層的に山田の創作を紹介し、ポピュラリティに配慮しつつ、ちょっとハードルも上げ、冒頭の阪田の「世界初でたぶん最後の機会」の言葉のように「へえ、凄い!」的お得感も混ぜ込んで実に巧み。
私はとても楽しんだ。

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