Back Stage|武満徹の映画音楽 

武満徹の映画音楽 

 text by 荻野珠( Madoka Ogino) 

「まったく新しいことをしなくちゃ」
「既成概念にとらわれないで」

“クラシック”音楽を扱いながら、私たちが模索しているのは、ステージの上で生々しく“今、呼吸しているもの”。そしてそれが、居合わせる人と人との間でいかに分かち合われるかということ……と言ってよいでしょうか。冒頭は、KAJIMOTOの社長の口癖です。(その言葉を感じさせずに、一人でも多くのお客さまに、それが確かに届いていると良いのですが。)実際にお客さまが楽しみにしているのは、もちろん、音楽事務所の人間の仕事ではなく、アーティストのパフォーマンスです。その背後で、プロデュースやプロモート、現実との戦いや無数の小さな事務仕事を、日々我々は行っています。

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左から 現社長/故武満徹/浅香夫人

初代の社長の時代、梶本音楽事務所はストラヴィンスキーの来日に関わりました。その来日の際に、ストラヴィンスキーがまだ国際的には無名だった武満徹を「見出した」という話は、ご存知の方も多いのではと思います。(この先代、それ以前から、なかなか行きたいコンサートのチケットを買う余裕のなかった武満に「聴きたいものがあったら言いなさい」と伝え、応援していました。)

弊社が武満の死後、生前の作品の数々で構成した舞台作品『マイ・ウェイ・オブ・ライフ』を、ベルリン州立歌劇場、パリ・シャトレ座とともに共同制作したのは2005年のことでした。(P.ムスバッハ演出、K.ナガノ指揮ベルリン・ドイツ響により演奏。 パリ・ベルリン・東京で上演。)
そして没後20年が経つ今年12月、Bunkamuraオーチャードホールで、武満作品のなかでも映画音楽にスポットを当てたコンサートを主催することになりました。

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(C)兵庫県立芸術文化センター 撮影 飯島隆

出演者のうち、鈴木大介はKAJIMOTOの所属アーティスト。その鈴木が憧れのギタリストだったという渡辺香津美をはじめ、アコーディオンのcoba、パーカッションのヤヒロトモヒロという、武満徹自身が敬愛していたアーティストたちが、娘の真樹の声掛けで集まり、2008年に始まった企画です。
武満徹の多岐に渡る作品のうち、編曲・アレンジをしても良いことになっているのは、いわゆる現代曲以外の作品です。そのなかでも大部分を占めているのが映画のために書かれた音楽で、その中から、真樹とアーティストたちとで選曲し、分担してアレンジをし、曲順を決め、まずはワシントンDCで2008年に初演されました。
ケネディ・センターを埋めた満員の観客は、熱狂し、最後はスタンディングオベーションが続きました。その後、アメリカではニューヨークとロサンゼルスで、中国は北京と上海で、国内では松本、八ヶ岳、兵庫、佐世保で公演があり、いずれも大成功を収めてきました。そして、足掛け9年、初めての東京での“凱旋”公演を、やっと開催できることになりました。

%e3%83%81%e3%83%a9%e3%82%b7%e8%a1%a8コンサートの際の裏方の雑務というのは広い範囲に及びますが、例えば当日は、椅子や譜面台をはじめ、アーティストが希望するものを揃えておき、搬入、ステージの準備、楽屋を整え、リハーサルに備えます。
リハーサルが始まると、このアンサンブルでは1デシベル単位で細かくPAを調整します。彼らは特に一人ひとりが言わば「猛者」ですから、要求が厳しい。ギター2本にアコーディオンとパーカッションという異色の限定バンドは、そんな彼らだからこその音楽を展開していきます。渡辺香津美は「武満さんの掌の上で遊ばせてもらっているよう」と言います。アドリブを交えて、自在に伸び縮みする、美しく愉しい音の世界に、本番ではアーティストも観客も興奮していく様子が、舞台袖にいても伝わってきます。

“タケミツ”で自由に遊ぶアーティストたちによる、その日その場でしかできない音楽体験と言いましょうか。作曲家として、「前に誰もやらなかったことをする。新しい美を世界から取り出す」ことに生きた武満徹から生まれた、いくつもの点と点が交差する時と場です。裏で関わる人間にとっても思い入れの強い一夜にむけて、ひとつひとつ、古いものと“今”のものとを、つないでいくように仕事をしたいと思っています。

荻野珠(KAJIMOTO)
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公演情報
2016年12月21日@Bunkamuraオーチャードホール
没後20年武満徹の映画音楽
http://www.kajimotomusic.com/jp/concert/k=569/